地方競馬にて④
パドックに向かう通路の途中でオオマキはなんの気もなしに立ち止まり周りを見渡した。そして誰に見せるわけでなく寂しそうに微笑みを浮かべる。なにか深い思いを誰かに伝えたかったのかも知れなかったがその相手はここにはいなかった。そしてなにもなかったかのようにパドックに向かう。彼の視線の先にいたのは周回を終え相方の騎乗を待つ愛馬、レコンキスタ。いつものように気合いが入った状態である。一列に整列して観客から万感の拍手を受け一礼して各馬に騎乗する騎手たち、そなかでもウラタやオシタニは若干緊張した表情を浮かべながらこれからのレース展開を思い浮かべる。今まではいわばホームでのレース、アゥエィで戦うのは初めての経験になる。
本馬場入場直前タカダ調教師はウラタに声をかける
「周りを気にするな。いつもと同じだ。馬を信じろ」
大したことは言っていないはずだがその言葉でウラタは気が楽になった。
オシタニもまたマツイ調教師より言葉をかけられていた。
「まあ、気楽にな。これは場馴れみたいなものだから。一回経験していたらあとは楽だし」
ずいぶんとやる気のなさそうなことを言ってきたがこれは緊張を解きほぐすためのものであることをオシタニはちゃんと理解していた。これでオシタニもだいぶん気楽になった。
いつもと同じような状態でレースに望めるようになった二人はもう迷いはなかった。
その様子をイソダはずっと眺めていた。ここは地方競馬の競馬場といえどもこのコースは未経験、不安があるのは俺も同じだと思っていた。いくら自分達を応援する声援があったとしてもその不安は消えることはない。それでもイソダはその不安を打ち消そうと思考をしばし停止する。エンドロールにすべてを委ねた。いつもと違う相方の様子に戸惑いつつもエンドロールは淡々と歩を進める。やることはいつもと同じ、まるでイソダの気持ちを理解するかのように語りかけてきたようにイソダは感じるのだった。
出走各馬が本馬場入場すると観客は歓声をあげて迎える。それぞれの期待を込めて。彼らはエンドロールやレコンキスタがここまで遠征してきた中央勢を打ち負かすことを期待している。いままでいいようにやられてきた中央勢に一矢報いることを。それを願うのは鞍上のイソダやオオマキも同じ、こいつならやってくれる。
一方でそうはさせまいと中央勢は思っている。所詮お前らは二戦級だと、どこで戦おうが俺たちに勝つなんぞ夢にも思わんことだなと。
それぞれの思いをを出走各馬は背負う。そしてゲートは開き、レースは始まっていく。




