地方競馬にて③
「どうだ、いい馬だろう。芝では全く走らないけどな、ダートだとむちゃくちゃ走るんだ」
「乗り手の指示に素直に従うし反応もすごくいい。何より走りっぷりが大器を予感させる」
「お前もそう思うか、こいつの凄さを世間に知らしめるいい機会だと思うんだよ」
調教を終えたウラタとタカダは感想を話し合っていた。お互い手応えをつかんだようで上機嫌だった。その一方で中央勢の調教を見ていたオオマキは数ある中央勢の馬たちに紛れてたいした存在感を示していないその馬にある種の脅威を感じていた。
「まだあんなのがいたのか、中央というところはいくらでも化け物じみたやつらがでてくんだな」
一度中央の舞台を体験して叩きのめされたオオマキは体験する前の不遜な態度はすっかり影を潜めていてトラウマじみたものを植え付けられていた。それでも周りの期待に応えるべく何か手はないかと思案していた。自然に体はレコンキスタのいる厩舎に向く。自らの思いとは関係無いかのようにレコンキスタはあくまでも自然体であった。オオマキにすべてを委ねているようだった。
「まあ、やるだけやるさ」
ないかを吹っ切るようにオオマキは呟くのだった。
「今度は勝てるよね」
地方競馬の関係者の期待を一心に背負うイソダもまたそんなプレッシャーに悩まされていた。
「簡単に言ってくれるな」
イソダはそう心のなかで呟いていた。勝負は時の運、絶対はない。そう言いたかったが関係者のそんな期待を集めるなかそんなことは言い出せなかった。イソダの心はずっと曇ったままだった。
「アブソリートだって、あの馬」
オシタニはマツイ調教師にウラタが今回乗る馬の名を告げられて微妙な表情を浮かべた。
「そうだ、本当ならあの馬はうちが預かるはずだったんだ。手続き上のミスでタカダ厩舎所属になってしまった。あの人ではあの馬の本当の力を引き出せない。全く残念だよ」
マツイ調教師は悔しそうに呟いた。
「少し見ただけですがそんなにすごいようには思えませんが」
「調教だけではな、本当の強さは本番でないとわからん」
「戦績はそんなによくないようですが」
「あの人のやり方ではそうだろうさ。優し過ぎるんだよあの人は。もっと厳しくやらないと、鍛えれば鍛えるほど強くなるんだよ」
マツイ調教師は怒りにも似た感情をオシタニの前で露出してしまう。
こんなに感情を露にするのは珍しいなとオシタニは思う。それほど悔しいのか、そんなにあの馬、アブソリートはすごいのかと。ならば確かめたい、どれ程のものなのか、オシタニは自分の気持ちが高ぶっていくのを感じていた。そしてそれぞれがそれぞれの思いを抱えてレース本番をむかえるのだった




