もうひとつの戦い2
お待たせいたしました。再開します
パドックを周回していた出走馬たちは「止ま〜れ〜」の合図とともに周回を止める。騎乗する騎手たちが整列し一礼する。そして、それぞれの騎乗馬のもとに散っていく。
「全く、お前みたいなのがこんな大レースに乗れるとはな。腕のいい騎手は何人もいるというのに。何でお前なんだろうな」
オシタニにそういう言葉を浴びせたのはベテラン騎手のナカダ、最近はパッとしなかったが久々の大舞台に気合いが入っていた。精鋭ぞろいの騎手の中に彰かに見劣りするオシタニの存在が気にいらなかったようだ。その言葉を聞いたオシタニは本番直前だというのに泣きそうになっていた。
「何弱気になっているんだ。お前は俺に勝ったんだろうが。もっと堂々としろ」
そんなオシタニに声を掛けたのはイソダ、その言葉でオシタニは平常心を取り戻した。
「それでいい」
イソダはそう呟いた。
さて、今回のこのレース注目はビロードドレープとゴッドプレスの頂上決戦である。幾度となく牝牡の差を越えて名勝負を繰り広げてきたこの二頭の最後の直接対決ということで俄然盛り上がっていた。
ビロードドレープに乗るのはオジールに乗るタケトヨに代わりウラタ、ゴッドプレスに乗るのはこれもまた乗り代わりのクマダである。前の騎乗レースで勝利したクマダには勢いがありの勢いのまま勝てるのではないかとの評価がされていた。
「あの二頭が注目されるのは仕方のないこと、でもね、それがプレッシャーになって飛んでもないことがある。このレースは特にその傾向が顕著に出る」
ルシエールはそう考えていた。そう、出走するすべての馬に勝つチャンスはある。
いつもと違う雰囲気にオジールは戸惑っているようだった。タケトヨは騎乗馬のそんな気持ちに気づいた。だが、そこはベテラン、優しく声をかけ落ち着かせる。
「大丈夫。いつもと変わらない」
オジールは落ち着きをとりもどし気合いののった状態で本馬場に向かうのだった。
こんな異常な雰囲気の中、いつもと変わらず落ち着いた状態で本馬場に入るビロードドレープを頼もしく思うウラタであった。
一方のゴッドプレスは多少入れ込んではいたが雰囲気に呑まれたわけではなくさも待ちきれないというような気合いのりをみせていた。本馬場に入ると颯爽と返し馬を行う。
各馬、各人、それぞれの思いをうちに秘めてこの決戦が始まろうとしていた。ファンファーレが鳴り響き各馬がゲートイン、ゲートが開き、一斉にスタートする。出遅れのないきれいなスタート、レースはそれぞれの思惑をのせて始まった。




