立ち込める暗雲
今日も俺はきたるべきデビュー戦に向けてトレーニングに励んでいた。この世界にもトレセンがあっていろいろとトレーニングができるようになっている。
前世の記憶はまだ残っているが今さらどうしようもない。全てを受け入れやるべきことをやるだけだ。
「デビュー戦が決まった。お前にはこいつにのってもらう。何、大丈夫だ。普通に乗っていれば勝てる。こいつにはそれだけの素質がある」
うちの調教師が騎乗予定の騎手にそう話しかけていた。しかし、この騎手、顔面蒼白で覇気がない。話を聞いていると、どうやらこの騎手、レース中に落馬してそれが原因で他の騎手を多数落馬させたらしい。そのおかげで馬に乗れなくなったということらしい。この騎手もともと優秀だったとのことなので勝利の味を覚えさせて復帰させようとしているとのこと。そのパートナーに俺はなのというのは荷が重いと感じたが、それだけ期待されているのかと思うと一層トレーニングに気合いが入る。
デビュー戦まで一週間前という段階でコンビを組む騎手が乗っての調教が行われた。
結果から言えばさんざんなものだった。本番を想定しての三頭による併せ馬を行ったのだがてんで話にならない。これがプロの騎手か、いうぐらいにまともに走らすことができなかったのだから。これなら素人が乗っているだけの方がよっぽどましである。
「こいつは重症だな」
調教師は難しい顔をして考え込む。