再戦に向けて
エンドロールの活躍もあってもう一頭の地方馬が出走するこのレースはちょっとした注目を集めていた。地方競馬においてエンドロールと遜色ない成績をおさめていたからである。
主戦騎手であるオオマキは初めて来た中央競馬に対し子供のように目を輝かせていた。
「こんなところでやつらは戦ったのか。ふん、やってやるさ、あいつらより俺らのほうが上だということを見せてやる」
オオマキは勝手にイソダをライバル視していた。あの一戦の後、イソダは注目を浴び中央に遠征することも多くなり、結構な成果をあげすていた。オオマキはイソダだけが注目されていることが気に入らなかった。だからこの一戦に並々ならぬ思いがあった。
「あいつら以上のことをやれば俺らも注目される。地方競馬にもっと目を向けさせるんだ」
オオマキが乗る馬はレコンキスタといい、地元では敵なしの三連勝、戦績はエンドロールと互角だが直接対決がなくエンドロールのほうが実力は上だと言われてきたのである。この一戦でその評価を覆そうとしていた。
そんな気合いの入った彼らを横目にマドロームは馬場入りして最終調整に入る。
本来本番に備えて軽めに調整するはずだったのだが流行る気持ちを押さえられないのかついつい飛ばしぎみになる。
「大分興奮してるなぁ、少しは落ち着け」
ウラタはマドロームを宥めて落ち着かせる。
「こんなに興奮しているのは初めてですね。前回の落ち着きようが嘘のようだ」
帯同してきた厩務員がそう言う。
「今すぐにでも走りたいのでしょうね」
ウラタはそう返す。
こうしてレース前の日は過ぎていく。
そしてレース当日
観客はマドロームの馬体が急激に変わっていることに驚いていた。いくら成長著しい二歳馬とはいえ変わりすぎだろうと、いったいどんな調教をしたらこんな馬体になるのだろうと。
立派な筋肉を身につけたマドロームは返し馬でもその馬体にふさわしい華麗な走りっぷりを披露した。返し馬を見た観客達はあわてて馬券を買いに走った。おかげで圧倒的な一番人気に支持されたのだった。
その様子にオオマキは嫉妬した、と同時にあいつを負かせば俺らは一気に注目される。そうなれば地方競馬にもスポットが当たるだろうと。
やがて出走時間になり各馬ゲートインする。
各馬一斉にスタート、出遅れなくきれいなスタートを決めた各馬はそれぞれ自らの作戦にしたがって理想のポジションをとろうと駆け引きをするがマドロームはそれに加わらず少し離れた最後方にポジションをとる。
一方、レコンキスタはその一団よりも前にポジションをとる。レコンキスタはエンドロールのように逃げてなんぼというわけではなく相手に合わせた戦略をとれる自在方である。
レースはそのまま3コーナーから4コーナーに差し掛かる。その段階でマドロームは大外をまわり前に進出を開始する。
ウラタはこの段階では軽く追ってポジションを前に持っていっただけであるが他馬とは地力が違うのか一頭だけ脚色が違う。4コーナーを過ぎるころにはレコンキスタと馬体を合わせるところまできていた。
直接にはいるとウラタは一発鞭を入れゴーサインを出す。それに合わせるようにマドロームは一気にスパートをかける。
オオマキもそれに合わせるように馬体を併せたまま追いすがろうとするがそれは叶わずおいていかれる。
かつては無茶なスパートをかけるなとタカダ調教師に言われていたが厳しい調教を経て体を作ったマドロームに足をいわす心配はもうない。他馬を引き離したマドロームは二着入線のレコンキスタに5馬身の大差をつけて圧勝した。
「なあ、マドローム、誰がなんと言おうとも俺らにはこれしかないよな。これからもこれでいくぞ。これでプレセンシアやキングオブザロードに勝てるよな」
ウラタはこの勝利で自信を持ったようだ。マドロームも手ごたえを掴んだようだ。
一方でオオマキはすっかり自信をなくしていた。戦う前の気合いはどこかに消えてしまったように意気消沈していた。こうした強敵と互角の勝負をしたエンドロールがいかに強い馬だったかということをいまさらながらに認識するのだった。




