レースはこうして終わる
各馬いっせいにスタートするなか絶好のスタートをきったエンドロールは前戦と同じように大逃げの体制にはいる。が、そうはさせじとプレセンシアが馬体を合わせる。そのまま二頭競り合うかたちで他馬を引き離す。
その一方でキングオブザロードも二頭の後を追いかけようとするが隣のゲートにいた馬がスタート直後よれてしまい進路を妨害されたような状態になり、出足をくじかれてしまった。さらに前方の馬が壁になり横すにも馬体をあわせられて前に出られなくなってしまった。
それでもクマダは落ち着いていた。まだ序盤、どこかでチャンスはくると。
イソダは不安だった。絶好のスタートをきって大逃げをうとうとしたところプレセンシアが馬体を合わせにきた。一息入れようにもこのままではそれもままならない。プレセンシアを先に行かせようかと考えたがそれだとこいつの悪癖が出かねない。
エンドロールは馬ごみを極端に嫌う。だから競馬をするにあたっては逃げか最後方からの追い込みしかない。ただ、いいスタートをきれることからイソダは一流の逃げ馬にしようと懸命に努力してきた。この一戦はその成果を試されているのだと感じていた。
「さあ、ついてこい」
プレセンシアにそう声をかけイソダはエンドロールに指示をだす。
指示に応えエンドロールはプレセンシアを引き離しにかかるが、プレセンシアはしっかりとついてくる。
「そう甘くはないか」
そう呟いたイソダはエンドロールが喜んでいるように思えた。今まで単騎の逃げしか経験のないエンドロールはこの一戦で初めてまともに競り合える相手に競争することの楽しさを見いだしたのかもしれない。
彼女もまた悩んでいた。レースがはじまる前、彼女の頭の中には中団待機で直線勝負というオーソドックスな戦法があった。しかし、プレセンシアはスタートしてすぐにエンドロールに馬体を合わせにいった。
マツイ調教師はオシタニに言った。
「もし、いきたがるようならいかせてやれ、馬の気持ちを尊重しろ」
はじまってみると調教師のいうようにプレセンシアは前にいきたがり序盤からエンドロールと競り合うようにレースを先導していく。
「どうしたというの」
オシタニはプレセンシアは騎手の言うとおりに動く賢い馬だと聞いていた。自分がみた限りでもそういう印象だった。だが、いざ自分が乗ってみると馬自身が自ら戦略を考えているように思えた。そういうことができるのは名馬の証なのだが馬にそうさせているのは自分が不甲斐ないからなのかとオシタニは思うのだった。
「そんなに頼りない」
オシタニのそんな思いは口に出てしまっていた。
「頼りないとは思わないが今日は全部任せてもらおう。今日のあんたじゃ勝てるもんも勝てないからな」
プレセンシアのそんな呟きは当然誰にも気づかれることはない。エンドロールが逃げてこそその真価を発揮することを見抜いたプレセンシアは競り合ってそれを潰す作戦を実行したのだった。
二頭の競り合いは他の馬のことなどお構い無しに続いていた。それをみた他の騎手たちはいずれ止まるだろうとたかをくくっていた。足が止まった時が勝負だと、ウラタでさえそう思っていた。そんな騎手たちが乗る馬に囲まれたキングオブザロードは前に出ることができずイラついていた。だがクマダは努めて冷静だった。いずれ前は空く。それまでは無理に動く必要はないと。
レースは進む。3コーナーに差し掛かったとき、事態は動く。キングオブザロードの前にいた一頭の馬が外によれた。クマダはその一瞬のスキを見逃さなかった。わずかに前が開いたことに気付いた彼はキングオブザロードを迷わずそこに誘導する。それに応えたキングオブザロードはその僅かな隙間をこじ開け前に出る。3コーナーからのロングスパートで最前列の二頭を追撃する。
二頭が競り合ったまま4コーナーを抜けて直線にさしかかるごろ先にプレセンシアが仕掛ける。エンドロールを引き離そうとスパートをかけるがエンドロールはくいざかりさらには差し返し先頭に立つ。
そんな二頭をまえにして他の馬たちは追いつくこともできず後ろから見ているだけだった。しかしキングオブザロードだけは諦めず前の二頭を猛追する。
二頭のデッドヒートに観客は酔いしれるが、後ろから猛追するキングオブザロードの姿を見つけるとより盛り上がりはさらにヒートアップする。
あと一馬身というところまで追いすがったときキングオブザロードの脚色が鈍る。クマダは一発鞭を入れるが反応は鈍い。
「これまでか」
キングオブザロードの限界を悟ったクマダはそれ以上追うのをやめた。つらそうな表情をみせる相方にクマダは
「今回は運がなかった。お前のせいじゃないさ」
と声をかけるのだった。
そんなキングオブザロードに気づくことなく二頭は競り合っていた。なんとか引き離そうとイソダは必死で鞭をふるう。
一方のプレセンシアも必死だった。オシタニも鞭をふるうがもはやそれは無意味、気力だけで走る彼らだが、二頭は内外に別れてほぼ同時にゴール板をかけ抜けた。後に語り継がれる名レースはこうして終わりを告げた。




