本番前
「生活保護を受けていたんだけどギャンブルに興じていたのがばれてね。支給を止められたんだよ。そしたら生活できなくなって孤独死しちゃって。自業自得だって神々にも見捨てられたんだけどあの神様だけは助けてくれて。捨てる神あれば拾う神ありってこの事だね。いや、ほんと感謝してます。今度は真剣に頑張ろうと思ってね。君たちも似たようなものだろう」
「違うわ」
とマドロームとシュプリームは心の中でツッコミを入れた。そこまで腐っちゃいねぇと。
でねぇと話は続く。
「エンドロールは決してマグレで勝ったわけではないよ。地方馬だからって低く見すぎだ。あの馬、こっちでも充分戦える能力を持っている。次もいい勝負するんじゃないの。こっちも負けるつもりはないけれど」
プレセンシアはエンドロールを持ち上げる。もしかしたらこの世代最強かもしれないと。
マドロームはプレセンシアが自分を励ますためにエンドロールは強い馬だとわざと持ち上げたのだと思った。自分よりも強い馬に負けたので気にする必要はない。次のレースを勝って自信をつけろ、ということを伝えたかったのだと。
マドロームもシュプリームもこの段階ではエンドロールがそんな強さを持っているとは思わなかったのだ。
「乗ってみるか」
マツイ調教師にそう言われてオシタニは満面の笑みを浮かべ
「もちろん、喜んで」
と即決した。
乗りたければ俺を納得させるだけの実績を残せと言われ、必死に頑張った結果、騎乗成績は急激に伸びた。他の調教師にもその頑張りが認められ騎乗依頼も増えていった。それはマツイの目にも留まりその結果プレセンシアに乗ることとなった。マドロームが出走回避となったことにより変に気負うこともないだろうとの判断もあった。
その事を伝えられたオシタニは敵をとる機会を逃したと残念がったがエンドロールに負けたマドロームをざまあと嘲笑ったのだった。オシタニもまたエンドロールを侮っていた。
マドロームを負かしたエンドロールが競馬界を騒がしているなか、キングオブザロードの陣営は泰然自若であった。いまさらどんな対戦相手が現れようがやれることをやるだけとクマダは意に介さない。特に対策を練るわけでなくいつも通りの調教をおこなっていた。こうして日々は過ぎていきフューチャーズステークス本番を向かえたのである




