油断大敵②
エンドロールの陣営はまさにお祭り騒ぎであった。まさかまさかの出来事が目の前で起こった。夢でも見ているのか、もしかしてドッキリかとも、しかし表彰式があり呆気にとられている観客達を見てこれが現実なんだと感じた。
「勝っちゃた」
イソダは自分が勝利したことに驚きの表情を浮かべながら勝利騎手インタビューに応える。
「ここにいる皆さん、覚えておいてください。エンドロールとイソダの名を。次のレースにも勝ちます」
すっかり舞い上がってしまったイソダはとんでもないことを口走ってしまった。
エンドロールはこの勝利で2歳王者決定戦フューチャーズステークスの出走権を獲得した。そこにはキングオブザロードとプレセンシアが出走を予定していた。
マドロームの敗戦を確認したタカダ調教師はローテーションの見直しを決断した。フューチャーズステークスへの出走をその場で取り消した。
「情けない話ですね。全く、いいようにやられて」
戻って来たウラタを非難するようにルシエールが声をかけるがウラタは聞こえなかったように一切応えず次のレースの準備に入る。
「ああ全くだ。俺が一番よくわかっているよ」
ウラタは心の中でそう呟くのみでこの日これ以降他の騎手と会話を交わすことはなかった。
それから何日かして
「お〜前〜は〜あ〜ほ〜か〜」
シュプリームに非難されるマドローム。馬なのでノコギリをたたくことはできないが。
「俺以外に負けることは許さんと言っただろう。二戦目にして負けたのか、情けない野郎だ。しょせんはそこまでのやつだったということか。俺の見込み違いだったってことだな」
何を言われても言い返せないマドローム。自分が一番悔しいんだよとは決して言えない。
一方的にマドロームを罵るシュプリーム、だが、それを止める者がいた。
「そこまでにしておこうか」
シュプリームが振り返るとそこにいたのはプレセンシア、
「お初にお目にかかる。私はプレセンシアと申す者、これから長い付き合いになりそうだから挨拶しておこうかと思ってね。それにしてもマドローム、何か言い返したらどうなんだ」
「……まあ、期待を裏切って負けのは事実だし、言われるのは仕方ない」
そう言うマドロームに対し
「勝負というのは時の運、勝つときも負ける時もある。そう気を落とさず次を勝てばいいことさ」と余裕ぶって応える。
一戦しか経験したことのない者の言うことではない。しかしシュプリームは気づいた。
「あんた、まさか」
「そのまさかだよ。私も君たちと同じだよ」




