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異世界競馬  作者: y-ohsaka
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油断大敵

この日マドロームは二戦目を迎えていた。前戦とは違い非常に落ち着いた雰囲気でそんなに気合いが入りすぎているということもなかった。レース直前だというのに気合いが入らないマドロームをウラタは不安に思う。

気合いが入らない理由はある。前線と違って今回は警戒すべき強者がいない。もちろんこのレースに出てくる他馬はそれぞれ新馬戦や未勝利戦を勝ち挙がってきたので弱いわけではない。しかしシュプリームやキングオブザロードのような強さを持った馬ではない。少なくとも皆そう思っていた。

本馬場入場の前にタカダはウラタに

「今回は違う戦法を試して欲しい。新しい可能性を探りたい」

と告げた。

それを踏まえてウラタは違う戦法を考えていた。今回は勝てないかもしれない。本番は次だからそれでもいいか。いや、勝負は勝ってこそ、ウラタの中に迷いが生じていた。


断然の一番人気、誰もがマドロームの勝利を信じて疑わない。まとわりつくプレッシャーにマドロームもウラタも知らず知らず巻き込まれていく。


「お宅はいい馬に乗れて幸せですね」

スタート前の輪乗りの最中後ろから声を掛けられた。

振り返るとそこにいたのは地方所属馬エンドロールに乗るイソダ騎手。交流指定競走であるこのレース、制度を利用して参戦していた。

「地方の星なんて言われて期待されてはいますがね。しょせんは地方馬、こんなレース勝てるわけないですよ。出れるというから出たまでですよ。まさかこんなスター候補生と競えるなんて、一生の記念になります。後のダービー馬と戦ったんだって自慢してやりますよ」

よくしゃべる男だ。ウラタにしてみれば正直ウザかった。集中力を削がれるような気がした。けれど地方所属のイソダにしてみればここは憧れの舞台、正気を保つ為にしゃべり続けていたのである。

全馬スムーズにゲートイン、各馬きれいなスタートをきる。中でも好スタートを決めたエンドロールは迷わずハナをきる。そのまま他馬をどんどん引き離し大逃げをうつ。

そんな状況において騎手達は楽観視していた。いずれバテる。慌てる必要はない。そう考えていた。

ところが4コーナーにさしかかるころになっても差は縮まらない。

「おい、誰か追いかけろ」

騎手の一人がそう叫ぶが誰も追いかけようともしない。いや、お互い牽制しあって動けないのだ。

直線にさしかかるころになってじれたマドロームはウラタの指示を待たずに馬群を抜け出しエンドロールを猛追する。ウラタは焦った。この戦法は前戦と一緒。タカダに使うなと言われていたのにだ。しかしもう修正はきかない。マドロームが追走を開始したのをみて各馬も動いた。巻き込まれるわけにはいかないとさらにスピードをあげようとするが万事休す、セーフティリードを保ったままエンドロールはゴール前を駆け抜ける。脚を余したまま大逃げを許したマドロームは思わぬ敗戦を喫したのである。

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