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青い痛みの先に  作者: ひろゆき
18/23

参 ーー “力”の先にあるもの ーー (3)

 横田という人物。それは過去において、姫香のことを知る者。過去に二人に何があったのか。姫香に会ったことで、横田は何を考えたのか。その上で、尾崎らにどう関わっていくのか。よろしくお願いします。

               3



 放課後の教室。誰もいなくなった中、メガネを机の端に置いて突っ伏していた。グランドや廊下の先でざわめきが聞こえていたが、起きる気になれなかった。

「あれ、帰らないの?」

 誰かに声をかけられ、体を起こした。眉間を指圧してからメガネをかけ直すと、声のした横を見た。

 机の横には、児玉姫香が立っていた。

「うん。ちょっと、帰りたくなくて」

「帰りたくないの?」

「まぁね」

 普段は目立たず、大人しめの児玉姫香。背中まで伸ばした黒髪が印象的で、そのせいか、凛としたイメージを抱いてしまい、あまり話す機会はなかったが、この会話が姫香との話すきっかけだった。



「……消してあげようか、それじゃ」

「消してくれるなら」  



                4



「ねぇ、そんなに辛いなら、私がなんとかしてあげようか?」

「なんとかって、どうするんだよ」

「あなたが消えてほしい人を、私が消してあげる」

「消すって、どういう意味だよ?」

「簡単に言えば…… 殺すってことね」

「殺す……」

「本当は使いたくないんだけど」

「なら、一人いる。殺してくれ」



『私を殺す気だったら、止めておくべきね』

『お前、なんでそれを?』

 ICレコーダーを再生させる中、数年前の会話が、矢島の声に混じって脳裏に流れていた。

 あの日、児玉姫香から人を殺す“力”があり、それを使い、憎い奴を殺してくれたあの“力”を。

 憎むべき兄を。

 世界において、憎むべき人物を挙げるなら、と問われれば横田大和は、実の兄を迷わず挙げる。

 二歳年上の兄は、学校ではそれなりの信頼もあったらしい。だが、家庭では我を押し通す傍若無人なところがあり、単純にいえばワガママで、気に入らなければ、不満をぶつけるように、暴力に走る最低の人間であった。

 学校と家庭。二面性のある典型的な人物で、横田は嫌悪感に押し潰され、同じ血が流れていることに嫌気があった。

 兄と同居する自宅にさえ、自分が暮らすことすら嫌だった。夕刻、兄がいなくても、兄の陰が残る家にいるのが嫌で、用事がなくても学校の教室に残っていた。

 そんなときだった。児玉姫香が話しかけてくれたのは。

 数日後、兄は“力”のお陰で死んでくれたが、開放感なんて何もなかった。死ぬだけでは拭えないほど、罪悪感が残っていた。

 開放感が訪れたのは、数日経ってからだった。

 それからやがて……

 姫香の“力”がほしい。と思えるようになった。

 そして、“力”を奪った。



 嫌な過去を引きずり出され、横田は停止ボタンを押した。スティック状のICレコーダーで顎を突きながら、考えてしまう。

「なんで、矢島は僕を止めたんだ?」

 自分に問いながら、ベッドに飛び込み、天井を見上げた。

 兄が死に、横田の家族は一人減ったのだが、不思議とそれ以前の生活基準は保たれ、何不自由なく、暮らしていた。

 忘れたいことを脳裏にかすめ、横田は舌打ちをして、意識を戻した。また顎にICレコーダーで突きながら。

「あれは誰かを守るためだったのか?」

「誰のために? あのときの電話は矢島だったのか? それなら杉浦を守るため?」

 教室での杉浦の姿が浮かぶ。

「いや、待てよ」

 まっすぐに考えが進んでいたが、そこで奇妙な違和感が邪魔をして、動きが止まる。

 横田は鼻頭を左手でさすりながら、視線を泳がせた。どこかに落ちている答えを探しながら。

「もし、杉浦を守るなら、学校にいたはず。じゃぁ、守りたかったのは……野村か。ん?」

 そこで体を起こし、ベッドの上で胡座を組み、またICレコーダーを再生させた。

『やっぱり、横田くんだったのね』

 そこで停止した。

 病室の前で矢島に会い、発せられた第一声。横田はメガネをテーブルに置き、舌打ちをしながら頬を歪めた。

「やられた。あいつ、僕が“力”を持っているのを疑っていただけなのか。だから、あのとき、「やっぱり」って。それなら、あの電話もわざとってことかっ。クソがっ」

 まんまと誘き出された。 苛立ちで後頭部を壁にぶつけた。

「まぁ、“力”を持っているってことなら」

 あのとき、矢島は右手をかざした。

「ーーん? なんで右手なんだ?」

 そこで左手を天井にかざした。

 相手を殺す“力”は左手に宿るはず。それなのに矢島は右手を出していた。あのとき、消火栓に右手をつけていたのに。

「偶然? ただ利き手を出しただけなのか? いや、こいつは特別な“力”だ。それなら、間違えることなんてないはず」

 天井に掲げた左手を何度も握る。そのまま目蓋を閉じ、辺りの雑音を遮断させると、考えを巡らせた。

「もしかすれば、あいつは右手に“力”を持っていることなのか? そ!は僕の持っている“力”とは違う何か」

 狡猾に唇をつり上げる。

「面白いな。もしそうなら……」

 そこで右手も掲げ、天井に向けて両手をギュッと力強く握った。

「ほしいな。その“力”」

 横田は“力”を欲する人物として出現させました。それは、尾崎と対照的な存在とさせるためです。考え方が違えば、“力”の使い方にも反映することになっていきます。今後も楽しんでいただければ幸いです。

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