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青い痛みの先に  作者: ひろゆき
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弐 ーー 杉浦の想い。野村の存在 ーー (7)

 姫香についての疑念が膨らむ二人。しかし、姫香の存在を考えれば、新たなる疑問が浮かんできます。それは“力”にとって切っても切れないあることに。今後、二人がどうなるか、楽しんでいただければ幸いです

               8



「その話は私も聞いた。野村さんが自殺する少し前で、「神隠し」だって変な噂が流れたって」

 放課後の屋上。豊田から聞いたことを矢島に伝えると、同調するように、矢島は答える。

 コンクリート張りの床に胡座を掻き、尾崎は頭を抱えてしまう。

「ちょっと、考えちゃったんだよね。もしかしたら、その消えたのが姫香って奴なんじゃないかって」

「それは私も考えた。そうじゃないかって」

 隣で膝を崩して座っていた矢島が、売店で買ったお茶を飲みながら頷いた。

 互いに顔を曇らせながら。

「みんな、姫香って子を知らないんだよね。もっと早くに訊いておけばよかったわ。失敗した」

「やっぱり、誰かが消したってことなのかな」

 頭を抱えていた尾崎は、ふと手が止まり、焦点が定まらないでいた。

「でもさ、それってよく考えれば、もう一人いるってことでしょ」

 何気ない発言に尾崎は顔を上げ、矢島の顔を見ると、真剣な眼差しとぶつかった。

「だって、そうでしょ。考えられることって。あなた元々、姫香って子を知らないし」

「じゃぁ、考えられるのって……」

 そこで二人は黙ったまま、見つめ合う。

 静かに、それでいて重い胸苦しさが襲う。思い当たる人物は……

「……杉浦?」

 恐る恐る尾崎は口を開くと、矢島も黙って頷く。

 考えたくはなかった。

 野村を献身的に見舞う姿の裏に、そんな姿があることを。

 だが、杉浦は“児玉姫香”の存在を知っている。それが何よりの証拠になってしまう。

「でも、それも納得できないのよね……」

 疑心暗鬼になる尾崎の気を晴らすように、矢島が呟く。

「だってそうでしょ? 杉浦くんがもし、そうならわざわざ私たちに話すわけが…… そんな危険を犯すかしら」

「それは……」

「可能性として残しておいて、とりあえず、あなたや杉浦くんじゃない。消したのは。野村さんでもないわね。あの状態じゃ絶対に無理なんだし…… ちょっと、待って」

 そこまで話すと、何かに気づいたのか、お茶を持った手を見せて制止すると、顔を伏せてしまった。

 しばらく矢島は考え込んでいた。尾崎は答えが出るのをぐっと待った。

「ねぇ、杉浦くんが、野村さんが“力”をもらったって話をしていたとき、どっちの手を見せていたと思う」

「あのときって」

 顔を伏せたまま訊いてくる矢島に促され、以前、病室での出来事を思い出した。あのとき、杉浦が見ていたのは。

「両手だった。両手を見ていた。それって、野村は消すことも生かすこともできるって……」

「ーー違う」

 顔を上げた矢島は声を張り、遮断する。

「あのとき、杉浦くんは両手を広げて右手を見てた。それって、私と同じ“力”を野村さんが持っていたってことなんじゃないの」

「じゃぁ、野村じゃない」

「それだけじゃない。野村さんは“力”を譲ってもらったけど、それって裏を返せば、奪えるってことじゃないの?」

 どこか焦りを堪えて話す矢島に、尾崎も伝えたがっていることが何か多少、気づいていて、緊張から口内の水分が奪われ、息をするのが痛かった。

「それって、姫香から“力”を奪ってその“力”で姫香を消した奴がいるかもしれないってこと?」

 説明しながらも、恐怖心に苛まれ、声を震わせてしまう。矢島が無言で頷くのも、恐怖心を助長していたから。

「だってそうでしょ。姫香って人が死んだ理由を誰も知らないんだから」

「いや、いや、いや」

 話を先に進めようとする矢島を、両手の掌を見せて制止する。

「けどさ、杉浦は姫香のことを知っていたんだよ。それはどうなのさ。もし、消されたのなら、あいつも知らないはずじゃ」

「それはそうなんだけど」

 混乱から前髪を掻き上げてしまう。しかし、唐突に手が止まる。

「どうかした?」

「あ、いや、ゴメン」

 そこでなぜ、手を止めてしまったのか、尾崎にも分からず、声を詰まらせてしまった。

「姫香は消された……」

 疑いが杉浦に向かっているとき、野村の“力”について辿り着きます。結局、誰が姫香を消してしまったのかを想像していただければ嬉しいです。

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