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青い痛みの先に  作者: ひろゆき
10/23

弐 ーー 杉浦の想い。野村の存在 ーー (3)

 “力”を使った尾崎が訪れるのは、あの場所。自分でもその末路を理解している尾崎ですが、どんな行動に移り、どんな結果になるのか。よろしくお願いします。

               4



 静寂した教室。

 矢島はおらず、倒れたはずの尾崎は中央の席に座っていた。目を覚ました尾崎は、状況を理解した。

 ここはあの夢で見る教室なんだと。

 疑いを確信に変えると、向かいの机の前に、フードをかぶった彼女が立っていた。

 視線を落とせば、尾崎の座る席には今回、三枚のトランプが並べられていた。

「そっか。やっぱり、ここは裁判所なんだな」

「裁判所?」

「そう。この“力”で消された人が、このカードから一枚を選ぶ。選んだ絵柄がジョーカーなら…… でも、選ばれるのはジョーカーだけなんだろ?」

「ふ~ん」

 尾崎は不安を掻き消すように一気に話した。だが、彼女は素っ気ない返事をするだけで終わらせた。

「なら、あなたも裁判官なんじゃない」

「僕が?」

「そうよ。あなたは忘れているでしょうけど」

 忘れている、と言われてどこか安心してしまい、机の上のトランプをじっと眺めてしまう。

「でも、僕はジョーカーを選ばなくちゃいけないんだろ。この状況なら」

「……そうね」

 おそらく、数分前の出来事で覚悟はしていた。だからこそ、どこか含みを匂わせた口調でカードを指差した。

「別に怯えることはないわ。これはもう決まっていることだから」

「そうだよな。決まっているんだよな」

「そうね」

 一度大きくため息をこぼし、尾崎は三枚のトランプを睨んでしまう。覚悟はしていても、“死”を目の前にしてしまうと、眉間にしわを寄せ、険しくなる。

 彼女も黙ったまま、見守っている。口は射し込まないようだ。

 三枚並べられたトランプ。結果が分かっているからこそ、躊躇してしまったのかもしれず、右手が宙を彷徨う。

 一分ほど手を迷わせながら、三枚の中央の上で止まる。そのまま右手はトランプに落ち、指先が触れた。

 思わず目を瞑り、トランプをひっくり返した。

 不気味に口角をつり上げたピエロの顔を、目蓋の裏に思い浮かべてから、ゆっくりと目を開いていく。思い描いたピエロにつられて嘲笑しながら。

「ほらな、やっぱりーー」

 ジョーカーだろ、と言いかけた口が、だらしなく半開きのまま止まり、面喰らってしまう。

 右手が掴んでいたのは、ハートのエースであった。

「なんで? なんで、ジョーカーじゃないんだよっ」

 困惑から声を荒げ、まだ伏せられていたトランプを捲ってみた。すると、左にはキング、続けて右に不気味な笑みのジョーカーが現れた。

「いかさまじゃないわよ。ま、この場合、普通はあなたがいかさまを犯すんだろうけど」

 これまで黙っていた彼女は「フフッ」と嘲笑する。尾崎は彼女の笑い声は届かず、手にしていたエースを、まじまじと眺めてしまう。

「そんな…… 僕は“力”を使ったんだよ。“力”を使ったんなら、選ぶのは」

「それでもあなたはジョーカーを選ばなかったのよ」

「そんなこと、あるわけがないじゃないかっ」

 混乱して彼女を怒鳴ってしまう。答えを知りたいのだが、彼女は黙ってしまった。

「何も、“力”を使えるのはあなただけじゃないってことよ」

「“力”って」

 そのとき、頭の中で何かが霞んでいく。何かが記憶の奥でざわめき、トランプを眺めながら額に手を当てた。

 記憶をたぐり寄せようと、指で額を突いていたが、ふと手が止まる。

「……矢島?」

 以前、矢島が自分も“力”を持っていると告げられた光景がよぎった。

 信じられずに彼女を眺めた。しかし、意味深に首を傾げられた。

「礼を言うべきね。彼女に」

「じゃぁ、やっぱり」

 右手からトランプが落ちりと、すかさず両手で顔を覆った。閉じた目蓋の奥に、矢島の姿が浮かんだ。

「でも、僕がきえることが…… 消えることがいいんじゃないのか?」

「さぁ。分かんない。けどーー」

「けど、なんだよ」

 一度言葉を止める奇妙な喋り方に、尾崎は手を下ろし、顔を上げた。

「けど、あなたの取った行動は、決して姫香の望んだことじゃない」

「……姫香」

 胸がざわめいた。以前にも聞いたことがある。それは強く刻まれていた。

「……君は誰なんだ?」

 これまでの彼女の言動に予想はしていたが、初めて口に出して訊いてみた。睨むように見据えていると、尾崎の気迫に気負いしたのか、彼女は体を強張らせる。

 今を逃せば聞き出せる保障はなく、尾崎にも焦りから怯まなかった。

 ずっと睨み合ったまま、時間だけがすぎていくと、彼女の右手がフードのふちに触れた。そして、フードをゆっくりと捲る。

 フードで締めつけられていた黒髪を解放するべく彼女は首を振って動きを止めると、開放感からフッと息を吐いた。

 それまで伏せられていた、彼女の素顔がさらけ出され、尾崎は息を呑む。

「……やっぱり。でも、お前は植物状態なんじゃ……」

 目の前に現れたのは、病院で眠っているはずの野村七瀬がいた。

 尾崎が捲ったのトランプはジョーカーではなかった。それは何故か。フードをかぶる女の子の言う姫香の望み。何故、尾崎がジョーカーを選ばなかったのか。変に謎を残してしまうことになってしまいましたね。そして、顔を出したフード姿の女の子。それも尾崎の言葉から、今後を楽しんでいただければと思います。

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