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八咫野家と怒りのデスロード

 12月31日。

 大晦日。

 ついにこの日が来たのだ。


「あと六時間でもう年越しよ」

「そうだね。お蕎麦も準備出来てるし、いい年越しになりそうだよね」

「……お蕎麦は大変でした」

「いやあ十二月はすごい濃度だったなあ……ていうか」


 俺は食卓を見渡した。


「なにー?」「なにかしら?」「……なんでしょう」


 三人の美女がこちらを見つめてくる。


「皆さんご実家に帰らなくてもいいんですか……?」

「大丈夫!」「大丈夫よ!」「……実家は田舎でそもそも独り暮らしですし」

「いいのかなあ……」

「「「……帰ってる間に取られるかもしれないしね」」」

「?」


 三人ともなんだか真剣な顔をしていた。なんだろう?


「というかそんなことはどうでもいいの!」

「そうよ鏡太君。なんで冬峰冷華が堂々と座っているのかしら?」

「そいつストーカーなんだよ!? この前二度目は通報するって言ってたじゃん!」

「ま、まあまあ。年越しぐらいは……ねえ?」

「……鏡太さまやさしい。だいすき」

「あはは……」

「チッ……」

「優しすぎるのも考えものね……」


 俺は嬉しかった。

 三人がそれぞれの家で正月を迎えるとしたら。俺はこの家で一人になってしまう。きっとそんな俺を案じて三人は今日もここにいてくれているのだろう。あえて言うまい。親切には見えていないふり、それこそが礼儀というものだろう。


「というか冷華さん、お正月も地元に帰らないんですか?」

「……仕事があるから」

「やっぱり売れっ子女優は忙しいのね」

「お正月ぐらい事務所も休みを取ってくれればいいのに」

「……今が稼ぎ時ですから。今日だって八時から年末特番の生放送で忙し……い……のに……?」


 お箸で夏南の作った料理をつまんでいた冷華さんは、言葉を発しながらゆっくりと凍り付いた。卵焼きがぽとりとテーブルに落ちる。


「……冷華さん? いま八時から生放送って……」

「今もう七時だけど……」

「………………」

「「「…………………………」」」

「…………………………………………」

「「「………………………………………………」」」

「………わたくしの芸能生活はここまでのようです」



「うぉぉおぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

「夏南! そこ右! そう! あッ! 左から子供が飛び出しそう!」

「せいッ!」


 半年もの間ガレージにしまったままになっていた我が家の車が、夏南の操縦によって大晦日の夜を爆走していた。


「なんであたしがストーカーのために運転なんてしなきゃいけないの!?」

「ごめん俺免許持ってないから!」

「私も持ってないわ!」

「…………(静かに目を閉じて死を待っている)」

「こいつも免許持ってるんだから自分で運転すればいいでしょ!」

「もうミイラみたいになっちゃってるから冷華さんには無理だ!」

「だったらあたしが助けるしかないじゃん!」

「夏南かっこいい……!」

「うるさい黙ってあたしに惚れてろ!」


 食卓での衝撃の事実の発覚のあと、俺たちは有無を言わさず凍り付いた冷華さんを担ぎ上げて車に押し込むと、四人でガレージを飛び出した。

 毎年やっている番組だからどこで収録しているのかはわかる。今から向かえばもしかしたら間に合うかもしれない。

 冷華さんを除けば唯一免許を所持していた夏南に運転を任せ、俺は助手席でナビを、お姉さんは冷華さんの解凍作業をそれぞれ担当して一路テレビ局へ向かう。


「頼む……! 間に合ってくれ……!」

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