空き巣とクリスマスと闇鍋
前話で一応の区切りとなりましたが、まだまだお話は続きます。
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今後もバカバカしいエピソードばかりになるかとは思いますが、応援のほどよろしくお願いします!
お姉さんが全裸で気絶していた。
どうやら第三回ポンコツお姉さん頂上決戦 in 俺の部屋を制したのは夏南の方だったらしい。
「ぜぇ……ぜぇ……きょーくん……あたし勝ったよ……きょーくんの純潔はあたしが守るからね……」
「う、うん……ありがとう……?」
「ふふふ……きょーくんの初めてはあたしがもらうんだから……」
どうやら俺の危機が去ったわけではなさそうだった。
「そ、そうだ夏南。今日ってクリスマスだったよね」
どうにかして話題を変えようとそう言葉を発すると、夏南はきょとんと頷いた。
「? そうだけど?」
「せっかくだからさ、朝みたいに美味しい料理を作ってくれるのはとてもうれしいんだけど、今日の夜くらいはお休みしない?」
「出前でも取るの?」
「あ、いや、久しぶりにさ……アレをしようかなって……」
俺のその言葉に夏南は一瞬思考を巡らせた後、「マジ……?」と舌を出した。
★
「やっぱりやめようよ……あたしがちゃんとしたの作るからさ……」
「いや、これでいい」
さて、夕飯時に食卓に置かれたのは大きな鍋だ。
「食材も買い込んだし、もう退くという選択肢はないわよ」
お姉さんもやる気だった。立ち直り早いなあんたは。
そして――
「なつかしいわ~」
春姉ぇもうっとりと頬に手を当てている。
そう! 今日はなんと春姉ぇも俺の家にいるのだ! まあ俺が誘ったんだけどね。
「なんであたし以外みんなノリノリなの……?」
「クリスマスと言ったら闇鍋よね~」
「ですよね春姉ぇ!」
「……? そうよね! クリスマスと言えば闇鍋よね!」
「いやあんたは無理に乗っかるな」
夏南がお姉さんに突っ込みを入れていた。
「だって……お家じゃ闇鍋なんてやらせてもらえないもの……」
そんなお姉さんはもじもじとお箸なんかを弄んでいる。まあ確かにあのお宅じゃなあ。食事作法なんて特に厳しく躾けられてそうだ。
まあそれはさておき、俺の提案とは『闇鍋』のことだったのだ。
確か中学生二年生のクリスマスの日に、俺と夏南と春姉ぇの三人でふざけて闇鍋をしたのが最初だったはずだ。
それが癖になってそれからもちょいちょいと闇鍋をしているんだった。
「今日こそは勝つ!!」
「うふふ~」
「やめようよ~!」
「闇鍋って勝ち負けがあるのかしら?」
事情を知っている俺たちとは違い、お姉さんは疑問符を浮かべている。無理もない。
「俺たちのやる闇鍋には明確なルールがあるんです」
「へえ?」
「『最後まで意識を保っていたものの勝ち』っていうルールがね!」
「それは……一般的にルール無用というんじゃないかしら?」
あれ? おかしいな……お姉さんが怪訝な表情のままだ。
「ここまではお姉ちゃんの全勝なの」
夏南がげんなりした声で補足する。
「だから俺にも夏南にも今までの勝負の記憶はない!!!」
「…………」
お姉さんの顔から感情が消えた。
「……ちょっとそういえばお腹が痛い……ような気が……しなくもな――」
「だめだよ」
そそくさとテーブルを離れようとしたお姉さんの腕を、そばから夏南ががっちりとホールドする。
「……逃がしたりしないわ……あんたは必ずあたしと一緒に沈んでもらう」
「ちょっと夏南ちゃん? 何かしらその手は……腕がちぎれそうなんですけど?」
「ふふ♡」
「離して♡」
「やだ♡」
「いやぁああああああああ!!!」
かくしてクリスマス闇鍋大会の火ぶたは切られたのであった。
★
詳しいルールをもう一度確認しておこう。
食材は一人二種類を用意し、一斉に鍋に投入する。
この際『食べられないもの』は投入してはいけない。食べても人体に影響のないもののみが認められる。この闇鍋を始めて間もないころに春姉ぇがホウ酸団子を鍋に放り込もうとしていて慌てて止めた経験がある。なんでそんなことするの……?
そして具が煮えた後は、一人ずつ順番に鍋の中身をとっていき、実食する。
鍋の中身がすべてなくなり次第、終了となる
その後は自分が食べたものと入れた人間を推理していき、具の正体と入れた人間を当てられた場合を一ポイントとする。
合計ポイントが最も高かった人間の勝利というわけだ。
しかし忘れてはいけないのは、今まで推理パートにまでたどり着けた回はないということだ。
すなわち、俺たちの闇鍋は毎回春姉ぇ以外が途中で気絶するので、絶対に春姉ぇの不戦敗になるということなのだ。
しかし今回こそはそんな春姉ぇを打ち負かしてみせる!
見てろよ!!!




