第1話
空に浮かぶ、まるで結晶のように無数の四角形がくっついたかのような巨大な物体。それは禍々しい黒色を放ち、周りに威圧的なオーラをばら撒く。
その禍々しい物体の名称、それは『ダンジョン』。魔物の根源であり、世界を危機に晒すモノ。
そして、ダンジョンに立ち向かう男が居た。その男は賢者と呼ばれる存在。
彼の名はデザストル。別名、『天災の賢者』
『天災の賢者』とは莫大な魔力と知識を有し、津波や地震などに匹敵する程の魔術を使う事から賢者と謳われた。そして、七賢者の一人とされている。
そんな彼は現実、ダンジョンの最深部に居る『ダンジョンコア』なるモノと対立する。
賢者デザストルの姿は茶髪の天然パーマが印象的な20代ぐらいの成人男性で白色のローブ姿をしており、緑の大きな宝石が付いた杖を持っている。
そして、賢者デザストルは怪しげな紫の宝石から無数に出る触手を出しているモノ、『ダンジョンコア』と攻防戦を続けていた。
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触手は賢者デザストル目掛けて、猛攻を掛けているが緑色の結界らしきモノによって阻まれる。だがしかし、結界らしきモノが徐々にヒビ割れていく。
「っく......!? 抑えきれない......!? (やはりあれを使うしか......)」
それが破壊されると判断した賢者デザストルはある事を決意した。
「そしてっ!......まだっ!......死ねん!!」
彼は独身で親や親族は居ない。だが、大切な人達がいる。彼が死んだら悲しんでくれる人間がいる。
だから、彼は生きる為に自分の一部を代償に、ダンジョンを破壊する。
「禁忌魔術・填補の術!! 」
填補の術。それは、生贄として使用者の一部を消滅させ、一時的に極大の魔力を宿せる禁じられた禁忌の魔術。それは光を反射する黒色の玉に込められており、デザストルはそれを魔力を通し、握り潰す。
周囲にガラスが衝撃により壊れたかのような割れる音が大きく響く。
生贄は後払いだと、禁忌の書庫の内の本に記述されていたので急に片腕が消滅するという可能性は無い為、デザストルはゆっくりと魔術を唱える。
「魔道核魔術、エレメントエクスプロージョン。」
そして、彼が持っている莫大な魔力でも、到底使う事の出来なかったはずの魔道核魔術を発動させる。
これは、とある魔術学者の失敗作であったが、デザストルはそれすら利用する。
それを唱えると彼の目の前で光の玉が現れる。見た目は綺麗だが、周囲を黒焦げの抉れた大地に変え、呪われた大地へと変える程の魔術。ちょっとの油断も出来ない。
「転移魔術、ランダムテレポート!!」
ダンジョン内では位置情報が分からなくなり、転移不可になる。だから、場所を指定しないでいい転移魔術『ランダムテレポート』を使い、逃げる。それしか手段は無かった。
そして、彼はダンジョンを去った。
服と杖などの持ち物を残して......
ランダムテレポートの短所、それは二つある。本当にランダムで転移する事と所持している物を置いていってしまう事だ。それが、この魔術が使えないとされている理由である。
彼、賢者デザストルが転移し、3秒ほどが経過した後。
完全にバリアが壊れた、その瞬間っ!!
光の玉に込められていたモノが解き放たれる。
光の玉は爆発し、全てを巻き込む。一番近くにいた『ダンジョンコア』は勿論の事、そのダンジョン全体が一瞬で蒸発する程の大きさ。
まるで地震が起こったかのような揺れが起こり、爆風により草木は土ごと宙に舞う。
その様子にダンジョンを遠くからそれを目撃した森中の魔物達や街の民を震撼させた。
爆心地には半径10キロに及ぶクレーター。抉られた地の表面は黒く焼け焦げる。そして、呪いと呼ばれたモノが生物の命を蝕んでいく。
ダンジョンのあった場所は死の大地となり、元に戻るには数十年程の年月が掛かるだろう。
そして...ダンジョンは消え去った。賢者デザストルと共に......
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「...っ!! ーーーー天災の賢者が死んだと言うのか!?」
あの日....ダンジョンが消滅した日。それから一週間が経とうかという頃。ルークベルト国のルークベルト城、謁見の間で国王である、50代で白髪がちらほら見えるようになった男、セルドレットは天災の賢者、デザストルが死んだかもしれない。という報告が兵士から告げられる
「あの、どんな依頼もその日に終わらせてくる天災の賢者がですよっ!? 5日も帰ってこない訳はそれしかありません!!」
「...もういい。ーーーー下がれ」
セルドレット王は報告に来た兵士を下がらせる。
「はぁ......天災の賢者が死んだ...か」
「まだ、我が国には数百もの、ダンジョンがありますし困りものですな...」
「そろそろ、この国は終わるな...」
「............」
葬式ムードの中、王と宰相が話し合い、王の呟きにより会話は終わった。
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緑の植物や色鮮やかな花々が生い茂る、鬱蒼とした森の中。
「お、起きてー! 生きてますかぁー!?」
声で目を覚まし、起き上がると目を手で隠し、指の隙間からこっちをガン見する、十代ぐらいで短い茶髪の褐色肌の女の子がいた...。
「...誰?」
「い、生きてた…!!そんな事より隠して!」
女の子の反応を見て、自分の姿を確認......え? なんで生まれた姿なの?
「...え?」
女の子を見た後、もう一度自分の姿を確認する。
「...はい?」
「こ、これで隠して!!」
女の子が近くにあった大きな葉っぱをちぎって、投げ付けてくる。
「ああ...」
大きな葉っぱで前を隠し、立ち上がり女の子に近付いていく。
「は、半径1メートルから近付かないでね?」
「ああ、ごめんごめん」
流石に下半身を隠していても近寄られるのは嫌なようで詰めていった距離より女の子は二歩下がる。
「...これ、どういう状況なんだ?」
「貴方が森に倒れててーーーどういう状況なんでしょう?」
お互い向かい合って話すが疑問に疑問をぶつけられ、あやふやな状況になっている。
「僕はリュリスっていうの。貴方は?」
「えっと.....思い出せ............ない」
思い出そうとするも、最初の文字すら出ず、断念する。
「じゃあ、記憶喪失なの?」
「ああ。どうやらそうみたいだ」
記憶喪失か......実感が無いけど記憶が無い事は確かだ。
「他人事じゃないのになんでそんなに無関心なの? 」
「今の記憶喪失した自分に実感が持てないんだ...」
「そうなんだ...じゃ、今日から君の名前は......はっぱね!」
リュリスは下をチラ見しながら名前を考え、安直に印象的な点を名前にする。
「いやいや、リュリスさんや......なんか、扱いが酷くないですか?」
「じゃあ、他に案はあるの?」
他の案......か。
...そもそもなー...自分の記憶の無い自分の名前を自分で考える事自体が...
「...無い」
「じゃあ、やっぱり...はっぱ?」
「ぐぐぐっ......それだけは..」
これ...弄られてるよね...?
「じゃあ...まっぱ?」
あ...これ完全に弄られてますね~......
「真面目な奴、考えてくれ...」
「ごめんごめん...じゃあ...バリマタバ?」
「バリマタバ? 明らかに名前じゃないよね...?」
バリマタバ?なんだそれ? なんか嫌な予感が...
「裸族の名前だよ?」
「いやいや...」
そんな会話が長引き、遂に名前が決まる。
「僕が好きな植物の名前、ライラックなんてどうなの?」
「なんかもうそれでいいや...」
ーーーーそんな感じで投げやりになり、適当に決めました。
「それで、これからライラックはどうするの?」
「と、言われても......」
どうするって言われても...全裸の段階で街に行ったら捕まりそうだし…
「じゃあーーーーうちに来ない?」
「え? うち?」
リュリスの家って事かな?
「僕のうちは、鍛冶屋やってて、毎日忙しくて、人では足らないからきっと大丈夫なはず」
「鍛治屋か...」
まあ、残ってる道は無いから頼るしかないか...
「......じゃあ、お世話になろうかな?」
「じゃ、おーけー。服と後、お爺ちゃんに聞いてくるよ」
そして、リュリスはどこかへ走っていってしまい、後を目で追いかけようとするも、すぐに姿を眩した。
「......ここで待ってろって事なのかな?」
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「遅いな...」
リュリスが去って二時間ほど経過した頃だろう。それほど経ったのに関わらず、リュリスの姿はまだ見えない。
「ごめんごめん。ちょっと手間取っちゃって...」
「うわ!?」
リュリスが行ったら方向を眺めていると突然、後ろから声が掛かる。振り向くとそこのはリュリスがいた。
「行ってきた方向と戻ってきた方向が逆なんだけど...」
「えへへ......迷っちゃって...。それで、はい。これ
」
リュリスは迷った事を照れつつ、服を渡してくる。
「ああ、ありがとう」
「どういたしまして〜」
リュリスが持ってきた服に着替えると、リュリスがパンを渡してくる。
「はい。お腹空いてるでしょ?」
「...確かに。...ありがたく頂戴させてもらうよ」
リュリスから貰ったパンを腹に詰め込みながら、リュリスの話を聞く。
「それでね…お爺ちゃんは、『来てもいいが、すぐ諦める奴は要らんぞっ! 』って言ってたから大丈夫だって」
リュリスはリュリスのお爺さんの真似をし、話すがあまり老人の声に似ても似つかない。
「ああ、ありがたい...」
どんなお爺さんなんだろうか。......定型的な頑固だけど孫には激甘の爺さんっぽさそう。
リュリスの住んでる街に行くためにこの後、リュリスに付いて行って森を抜けようするが…
「はぁ...! はぁ...! ...まだなのか?」
「まだ半分......いや、三分の一かも」
「き、休憩させてくれ...!」
自分は思ったより体力が無く、リュリスのあやふやな言葉により、気力も削がれる。
「鍛冶屋の金槌振るのとかもっと重労働だし、このくらいでへたってたら付いていけないよ?」
「もっと重労働か...」
自分、肉体労働向いてないかも......
過去の自分は何をしてたんだろうか......?
過去の自分について知りたい。そう心から、ライラックは思った...。
もう悟ってしまった。なろうはPVやランキングをあげるモノでは無い。
実力を上げるモノであると...
※感想は誤字報告、ストーリーの矛盾等のみにしてくれると有難いです。そして、評価は受付けておりません(一生付く事の無い自信が付いたのなら話は別ですが)