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流れる   作者: 白石 瞳
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第9話  夏美の夜の空

 女が女に嫉妬するって、母娘でもあると思うんだよね。


 ママは私が成長するにつれて疎むようになっちゃった。ママの中の女の部分が、娘の私をライバル視して板って感じ。

 年齢的にはママは歳をとっていたわけじゃないんだけれど、若く見せるためなのか魅力的になりたいからか顔にファンデーションを塗りたくってしわなんかは見えない位にね。

 化粧がこいとさ、それが余計に老けてみちゃうんだよね。お風呂上がりの顔とその前の顔って随分と違うってだけじゃなくて。

 そんなことはママには言わなかったよ。怒るだろうし、可哀そうだから。


 女として、キレイでいたいとか若く見えたいっていうか男にモテたいっていうのかな。視線を受けたいって気持ちはわからなくもないけれどね。


 ***


 連れてくる男の目が私に向けられる。

 そういう男達ってさ、自分の彼女に大きな娘がいるってことがまずは新鮮なだけなんだと思うんだよね、たぶん。

 男が私を意味ありげに見るとママは不機嫌になって私に怒ったけれど、それは私のせいじゃない。私が魅力的だから気を惹いたわけでもない。

 んも~、なんで「そういうこと」がママにはわかんないのかなって。あわれとさえ思っていたよ。


 ママよりも若い男もいた。

「お金を貸してくれ。」って言われると、返ってこないとわかっていても財布を出してて。男は機嫌良さそうにポケットに入れてママが膝枕ひざまくらしてイチャついてくれちゃってさ。

 ウザいから、私はにらまれなくても食べるのをやめて2人から離れたよ。


 ああいう男は、なんていうのかな。アメとムチみたいにさ、食事が口に合わないと急に怒りだして。それでもママは自分が捨てられれたくなかったんだろうね、甘ったるい声を出して謝っていた。

 結局は外食しに行って酔って帰宅して、朝寝坊しないようにママに頼んで。目覚まし時計があるじゃないか。それで起きられないのかって言ってやりたくなった時もあった。


 私は忘れない。


 その男が、その男が・・・私を壊しちゃったんだ。


 ***


 私は家にいるのが嫌になって、男が居ても居なくても、よく近所の図書館に行って新聞や本を読んだり卒業してからは通信の勉強をしていたな。バイトも出来る限りしていた。


 早く、早く大人になりたかった。

 1人で暮らせるように。

 ここから逃げて行けるようにって。


 肌寒い秋の夜、2人の声が聞こえてくるのが嫌で窓を開けて空を見たんだ。

 ふーん。夜でも、真っ暗じゃなくてぼんやりと白くなってるのが不思議でね。その向こう側にある月を隠すみたいに白いの。霧がかってるように薄っすらとしていた。


 夜のそんな空は、見てると霧のようなモヤモヤしたものに巻かれちゃうってのかな。捕まえられてしまって身動きがとれなくなるような気がしてたよ。

 魔物みたいに邪悪なモノじゃなくて、なんていうんだろうね、上手く言えないんだろうけれど。閉じ込められてしまうような気持になって体がブルッとなっちゃって、震えながら窓を閉めた。

 あっ、その時、月とか星はどうだったかな。月はどんな形? 忘れてしまった。

 ただね、なぜか今思い出すと、月は私の目の前にあるように大きくて。

 流れ星があったなら、きっとそのことは覚えてたと思うけど、流れ星に願い事するとかなうっていうよね。迷信とわかってても、ダメもとで願い事してたんだろう。

 だけど、白くて霧のような空気の中だったから星は隠れて、あの夜は誰にも見えなかったんだろうな。


 ***


 渡からのメールがあって、食べ物を買って部屋に来るって。

 私は夕方、味噌汁と煮物を作っておいたんだ。渡が買ってきたコンビニの弁当と一緒に並べた。


「味噌汁も味が薄いな。」

 って言われて

「ごめん。」

 私は謝った。


 そういうことは時々ある。外で食べる時とか買ってきたもののことは、男はあんまり言わないよね。不味いとか店員の態度がひどすぎると店を出た後に文句は言うけれどさ。

 だけど、人が作った物に細々と言うのって変だよね。

 まずさ、「頂きます」って言うもんじゃないのかって思うし。煮物の味が薄いんなら、次からは醤油を多めに入れてと頼むように言えばいいのに。

 ママの時と同じだよ。味が薄い、肉がかたい、量が多い少ないってね。それで謝らないと雰囲気が悪くなって、ずっと何も言わないと男は起こり始めたり投げつけることもあった。

 世の中、そんな風に出来てるの?


 渡は奥さんが作った料理も食べるよね。それに比べて味が薄いのかな、自分の母親の作った物と比べてるのかな。それで、自分の口にあわないと私に言うみたいに奥さんにも文句言ってるの?


 ***


「来いよ。」

 渡は私の体を抱き寄せた。

 横になると電気がまぶしくて、消して欲しいと頼んでも彼は明るいままがいいって。渡は良くても私は嫌。それなのに、いつも私の頼みは聞いてくれない。


 なんだか渡とHするのがウザくなってきた。でも、いいや。横になってしまえば彼は自分で適当に動くんだからね。私は我慢していれば、すぐに終わるよ。


「ふぅ。」

 終わった時に渡は気持ちよさそうにため息をもらして、ほかには何も言わずに立ち上がってシャワーを浴びに行った。

 私は仰向けのまま手足を伸ばして深呼吸してから、タオルで顔の汗を拭いた。


 渡は泊まっていくのか、でも、3日前にも泊まったから今日は帰るんだろうな。シャワー出て勝手に冷蔵庫開けて何か飲んで。

 うん、そうして欲しいかな。朝ごはんの用意で文句言われるのは嫌だもん。こんな私だってさ、朝は気持ちよく起きたいし過ごしたいじゃない。


 時計を見ると12時を指していた。

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