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流れる   作者: 白石 瞳
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第7話  夏美ーーシンデレラじゃない私

 渡から初めて求められたのは部屋にベッドが届いた日のことだった。

 2人で私が作ったチャーハンを食べた後、彼は私を抱き寄せた。それまでに捨てられた子猫を可愛がるような目をしてなくて男の目だったと思う。

 そうだ、渡なら大丈夫。今までのことを伝えたし優しくしてくれると思うと自分に言い聞かせたんだ。私のこと理解してくれて好きになってくれたってね。

 

 大丈夫だと信じて、私は目を閉じた。


 ***


 終わった後で渡はシャワーを浴びに行った。私はゆっくりと体を伸ばすと緊張で固まっていたからかため息が出た。男性とエッチするのは初めてじゃない。

 だって、あの時に・・・。思い出したくないから頭を振った。


「起きられる?」

「あっ、もう少し横になったままでいたい。」

「ごめんよ、泊まりたいけど。明日の準備があるから帰らないと。」

「大丈夫です。」

「また来るな。」


 渡が帰った後、少しの間ボーとしていてただ時間が過ぎるだけ。起きて水飲みたいなって、ゆっくり台所行って。

 それから私はシャワーを浴びに行った。


 好きな人とのことって、気持ちがいいものなのかどうかも私にはわからないや。気分が安定すればいいの? そういうことじゃなさそうかな。

 というか、私は彼が好き? 好きなんだよね、たぶん。


 だけど、なんていうのかな、すごい感動的なのかなと思っていたけれど、そんなこともないし。

 これから、だんだんと男女のことがわかっていくんだろうな。愛とかにしても。

 こういうのは男女の愛情表現というかコミュニケーションってのかな。いつかは、わかるんだろう。


 ママがどうだったのかわからない。私のことが邪魔くさいから誰かを求めるのか。だけど、親しい人がいて安定すれば私のこともみてくれていいわけじゃない? だから、安定っていうか信頼関係があったのかどうか謎だね。

 ・・・なかったはずだ。


 髪の毛を乾かした後で、迷ったんだけどベッドのシーツを洗濯機の中に入れて新しいものにした。


 ***


 家に居た頃、ママは私が眠っていると思って夜に男の人と帰ってきた。それが、すごく嫌だと思うようになったのは、いつ頃だったかな。

 幼い頃は男の人にやきもち妬いたんだ。だって、その人がいなければママは私と遊んでくれていたはずだと思うから。2人でご飯食べたりね。お風呂に入れてくれたり。

 知らないうちに平気になっちゃって、そしてママに呆れていったんだ。お願いしても無理なことでしょ。



 ママがしていたこと・・・それ以上のことを私がすることになるなんて。渡との夜の頃は私だって思っていてもいなかったよ。


 ママみたいに男に溺れちゃうっていうより、なんて言うのかなあ、私は依存症みたいになったんだよね。

 う~ん、依存症か自棄やけになってしまったのか、とにかく我慢していたものが溢れてしまったんだよね。

 コップに入ってる水が多すぎて、それに気づけなくて。気づいてくれる人もいなくて。


 とにかく、私は殆ど毎日、仕事で男と会ったよ。ああ、逃避かなあ。好きな男の人達じゃなくてもそうしちゃってさ。逃避も依存症も同じかな、どっちでもいいや。


 依存症とかってさ、色々あるみたいだね。

 食べ物とか買い物したくてたまらないとか。本当は欲しいわけじゃないのに買い物していないと落ち着かないとか。食べ物だと太ったりダイエットをしたり?

 ひどいと心療内科や精神科に行くらしいけど。

 私も気になってきていたんだよね、自分のことが。


 ***


 深い眠りから目が覚めてシンデレラになったはずなのに、ちょっと期待はずれになってしまって。

 古い傷が治る前に新しい傷が上塗りされてしまったというか。


 渡は優しかったけれど、私を「かごの中の鳥」にさせるなんて。最初から私とエッチすることが目的だと思われても仕方ないんじゃないのかな・・・。

 彼の自己中心的な性格みたいなものが丸出しになってね。嫌がる日にも求めてきたリ、自分がしたい時にしたり。


 私は外に出ようと思ったよ。

 家の中ばかりにいるのは健康的じゃないから。病気じゃないと思っていたから。単発の仕事で働いていた時は結構気持ちよかったし。疲れ方が心地よいっていうか、疲れても達成感みたいなものも少しは感じてたから。


 だけど、渡は私が仕事を探してくると反対してばかりなんだ。どうしてかっていうと、自分が来たい時に部屋に来て、私としたがってね。居ないと出来ないからなんだよね。

 毎日来るわけでもないし、私が仕事する時間や日にちを教えておけば、それでいいわけでしょ。

 変なこと言うんだよね、「男の甲斐性」だから、私は働く必要がないんだって。


 私に会ったばかりの頃は本当に優しくて頼りになったけれど、口もうるさくなっていったよ。

 私は何も悪いことしてないよ、だけど、渡の気分次第なんだ。彼が変わっちゃったんだよね。

 仕事からのストレスなのかな、家庭のストレスかな、そういうものからの逃げ場所が私になっていったってこと。


 ***


 ママの男にしても、渡にしても、なんだか男って皆が同じに思える。人の気持ちなんかわかろうとしないで、自分優先で。話、聞かないで。


 私は親からも男からも誰からも「愛」ってのを受けることもなく、私が愛することもなく、それで一生が終わっていくのかな。嫌だな、そんなのは哀しいよね。



 だから、もう1度、眠りにつくしかないのかなって思ったんだろうね、気持ちの奥の方で。

 あんまり良い夢じゃなかったけれどさ。

 でも、ちょっとだけ男の心の裏側ーー裏側っていうよりも、本音かも。本音を見ることが出来たよ。

 いつもはさ、男って仕事や家庭では「いい顔」してるわけでしょ。本音は出せないっていうか鎧をかぶってないとやっていけない。それは女でも同じなんだけどね。


 淋しいんだよ、みんな。

 大人でも、もっと身近な人にも仕事先でも認めてもらってさ、「ありがとう。」とか「頑張ってるね。」って言って貰いたいんだよね。


 日本人ってさ、男が家に帰ると女がお茶を出すじゃない。何も言わなくても。

 そういう昔のことが今では無理なんじゃないのかな。お願いしますとか、感謝の言葉や誤解した時に謝罪の言葉が抜けてるじゃない。

 もっと言葉を使えば違うんじゃないってこと、仕事から教わったのは良かったなあ。

 なんかさ、親しいから言葉が要らないんじゃなくて、親しいから要るんだよね。



 私は、逃避か依存症かわからないけれど壊れかけてしまった。そんなことは思ってもいなかった。壊れたら、直す必要があるけど、そんなことも知らなかった。知ってたとしても方法なんかわからなかったと思うな。

 そして、渡の奥さんに会うってのも、あの頃は全く思いもしていなかったんだよね。

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