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流れる   作者: 白石 瞳
13/56

第13話 夏美の存在理由 

*性的、精神的を含む「暴力」に敏感な方は、ご注意ください。

かごの中の鳥」って、食べるものは与えられるけれど、外に出ることは出来ないんだよね。


 飛ぶことが無理な(しゅ)なら別だけど、自由に羽を広げて空を飛びたいのに閉じ込められていたら、鳥でもストレスが溜まってしまうよね。



 私の初体験はママの男から犯されてしまった。

 とても惨めで悔しくて、でもね、ママには話すことが出来ない。信じてくれないと思うから。


 ある相談する場所に行ったら、そこは18歳までの子供の相談だし、自分の親のことじゃないから無理だと言われて警察に行くことを勧められた。

 そこの人が同情してくれて、一緒に警察に連れて行ってくれるとかしてれば気分も違っていたかもしれない。だけど、自分たちの専門ではないって事務的に言われてね。


 だけど、そうだなぁ、警察に行って話して信じてくれたとしても家に来るわけでしょ。信じるかっていうより、とりあえず調査の段階だから信じるもなにもないか。

 それにママにわかってしまうし、証拠になる破られた服はもう捨ててしまった。体に残ったあとはあるけど、あいつが捕まるかどうかなんてわからないからね。事情聴取してnoだとか、もしも逮捕されて刑ってことになっても、そこを出た時に仕返しされるよね。


 それに警察から根掘り葉掘り聞かれて、自分が余計に嫌な思いするかもしれない。



 私、わかったんだよね。私のその時の恐怖を誰かに聞いてもらいたかったんだ。勿論、あんな卑怯なやつは捕まった方がいいに決まってる。もう私に手を触れたり嫌な目つきで見ないでほしい。他の女性を襲うことになるかもしれない、だとしたら1度捕まった方がいい。

 でも、あいつのことと私の気持ちとは違う問題にも思えたんだ。誰か私の話しをただ、ただじっくりと聞いてくれる人。

 一緒にあいつに言ってくれる人。そのことで傷ついたらそばについていてくれるような人。

「悪いのは貴女じゃない」「辛かったね」って言ってくれる人。温かい腕で抱きしめてくれる人。そんな人を求めてたんだよね。

 初めに行った相談所の人でいいからさ。誰でもいいからさ。


 ***


 ああ、頭がごちゃごちゃする。


 私は自分の身を自分で守るしかなかったんだ。それしか思いつかなかった。

 貯めていたお金や保険証、服や小物を急いでまとめて、こっそり家を出ることにした。それは前から考えていたことだよ。あいつが嫌な目で私を見るようになってからね。

 家にいたら、またあいつが変なことするから。


 行くあてもなくて、でも、そんなに沢山はお金もなくてネットカフェでとりあえずは一晩過ごした。驚いたけど、シャワー室まであった。

 だけど、そこって男も多かったし覗かれたりしたら嫌だから銭湯探してさ。

 時々見かける無料のバイト雑誌見て、私でも大丈夫な単発な仕事したりしてなんとかしていたよ。



 渡は会った最初の日は、しっかり話を聞いてくれて部屋まで借りてくれて、私のもとに童話の中の王子様が来てくれたと思ったよ。

 だんだんと私のママや男の話しをするのが疎ましくなったようだった。

 私も渡への気持ちに変化が出てきちゃったんだよね。私を助けてくれたのをいいことに、ただHする相手が欲しいだけなのかなって思えてきたんだ。

 前の家に居た時の、猫のようにピリピリしていた神経がまた私を襲うようになって疲れてきちゃった。彼からの「これから行く」ってメールもウザいというか怖いっていうか。


 これだとさ、やっと抜け出すことが出来ると思っていたのに、なんだか戻されるような気がするようになった。


 ***


 ある日、メールが来たんだけれど、私は渡に会いたくなくて無視して外に出て行ったよ。

 普通の人は1人で食べても美味しくないんだろうけど、渡やママの家で食べてる時に比べたらファーストフード店のものも、とっても贅沢で美味しいって思えた。1人での外食ってホッとしたのって初めてかも。


 上から見てると、歩いてる人の顔や声まではわからないけれど雰囲気がわかる。なんとなく仕事で急いでる人。仕事じゃなくてたぶん恋人と待ち合わせしてるような人。外なのに隅で化粧直ししてる女性。色々な人がいる。

 店内も、ママ位の年代くらいの人も1人でいるし、学生同士、パソコン見てる男性。

 どういう人が幸せなんだろう。難しい顔してるのは仕事のこと考えてるだけで、作業が終われば顔つきが変わるのかな。いやいや仕事してるの? 

 私みたいに逃げるようにして店に来た人はいるんだろうか・・・?


 本屋に行って立ち読みして、何パーセントオフってブランド物の財布をショーウインドウで見かけて欲しくなって買ってみた。

 おかしいね、中に入れるお金がないのに財布だなんて。

 だけどね、そのブランドのマークがキラッと光って、なんだかシンデレラの靴のように思えたんだ。思えたというより、思いたくなった。


 ***


 部屋に戻ると電気がついていて、渡がいるんだと大きなため息が出た。どうして居るんだよ。ドアを開けようとしたらチェーンがかかっていて鍵の音で気がついたのか彼が来て、


「何してたんだ!」

 って怒鳴ったんだ。

 まわりの人に聞こえるから私は口に指をあてて「しー」って静かにして、って合図をしたんだけれど、そうしたら彼は、


「謝れ!」

 って怖い顔して怒鳴る。

 騒がれるのは困るから謝ってチェーンを外してもらった。頭なんか下げたくなかったけれど、そうしないと落ち着きそうになかったからね。


 心配してくれていたんだったら私も嬉しいよ。だけど、そうじゃなくて、私が彼の思うとおりにしないから、言うとおりにしなくて機嫌が悪くなっただけ。メールしたってことは部屋に来て食事して文句言ってHしたい、ストレス解消したいってことだから。

 がっかりしたなぁ。もしも心配してくれていて「帰ってきて良かった」なんて抱きしめてくれていたらね。酷いよ、自分がH出来ないからって謝るまで部屋に入れてくれないなんてさ。子供みたいじゃないの。


 中に入っても、

「謝り方が足りない」

 って怒るんだよね。

 足りないってどういう意味かって思ったよ。100回謝れば気が済むわけ?

 何を持ってるのか聞かれて何でもいいでしょ、って返事をするとこぶしつくられた。殴られると思って仕方なく本と財布を見せたんだけど。


「俺のやった金でブランドもの買うなよ。」

 って怒るからまた謝って。それって、一応私のお金から買ったんだけど、言うと面倒なことになるからね。

 気が済んだのか、これからは勝手なことするなと吐き捨てて彼は出て行ったよ。

 ああ、よかった、Hすることもなく泊まっていくこともなかったから。


 ***


 私は私の時間を持ってはいけないのかなぁ。いつもそうなのかな、いつまでそうなんだろう? 寂しくなってたよ。


 彼が帰ってくれてホッとしたけれど、【秘】って赤色で記してあるA4の封筒を忘れて行ったみたいだ。戻って来ないしメールしても出ない。

 私が「メールの返事がない」って怒ったら彼どうするのかな、ハハハ。


 ・・・仕事で大事なものだよね。

 私はその封筒と、冷蔵庫に入っていたサンドウィッチを持って渡のオフィスに向かった。

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