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流れる   作者: 白石 瞳
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第1話  夏美

 あれは、いつのことだったんだろう。

 空がとても高くて青くて綺麗だった。


 私は公園のブランコに座って後ろからママが押してくれた。ママは私がキャッキャッと笑うと、今度は自分も隣のブランコに座って揺らし始めたんだった。子供みたいに笑って勢いよくブランコが揺れて。私は楽しかったけれど怖くもあったんだ。

 だって、ママが空に行ってしまいそうな気がして。


 アイスクリームのような雲を超えて飛んで行くと、空の向こう側には何があるんだろう? 



 ***



 今? 彼とイチャイチャしてるところ・・・。やっ、ちょっと、もう、ダメだってば。

 本当に暇だからって、台所にまでくるんだもの。私は料理中なのに。やだなぁ、もう。正直、邪魔なんだよ、作らせてよ。


「あっ、切ってるのに危ないから。」

「だから、そこに包丁おいて」


 渡が抱きしめてくるんだよね。ああ、水が出しっぱなしになっちゃう。待ってよ。


「ね、だめだって。早く作りたいから」

「話そうよ。」

「そんな・・・。」


 彼はこれで満足なわけ?

 なんなのかわからない、こんな急にさ。ん~、でも、渡はご都合主義。っていうか、私と仲良くしたいとか帰宅してすぐ話したいとか・・・勝手に一人で決めてさ。

 料理中なのに扇風機つけてないから、汗かいちゃったしシャワー浴びてサッパリしたいな。気分もね。



 私? ナツミ。

 年? う~ん、19って。ははは、いくつでもいいじゃない、そんなこと。


 最初は良かったな、初めて大きな胸に抱かれてぬくもりっていうのかな、人の温かさは久しぶりだなぁ、ってさ。

 私が昔のこと思い出した時もタオルで涙を拭いてくれてさ。すっごくいい人、優しい人なんだって思っていた。


 だけど、もしかしたら男って、みんな同じなのかも。

 自分がイチャつきたい時に、近寄ってきて。何ヵ月かすると話も合わなくなっちゃって、飽きるというのかな。

 女の気持ちや都合なんて考えたりしないくせにさ。


「お前、上手いよな、カレー作るの。」

「途中で引っ張って料理中断。玉ねぎが焦げてたし。」

「焦げたのなんか、わからなかったぜ。」


 上手いって、だって私は小学校の時から何か料理してたんだから。

 あ~あ、作ってる途中で帰ってこなければ、もっと美味しく出来ていたのにな。

 渡って美味しいカレー食べたことないのかな。そんなわけないよね、奥さんがいるんだから。



「ふ~。食べた。なあ、こっち来なよ。」

「お皿洗ってから。」

「いいよ、そんなの後で。ほら、来な。」


 渡は私の腕を掴んで皿洗いさせないで、となりに座らせた。

 食べたばかりだから、急に引っ張られて胃がむかむかする。でも抵抗しても渡は諦めてくれそうにないし、力には勝てない。隣に座ったって、優しい言葉なんかかけてくれないくせにね。

 ああ言えばこう言うっていうのも面倒だから、もういいや。


 ***


 人って、どうしてエッチするんだろう。

 小学校の時には、エッチのこと授業で先生が教えた。好き同士の男と女がすることだって。男が女と一つになって。受精すると子供が出来るってね。小学校4年の時だったかな。


 中学と高校の授業では・・・覚えてないや。性病のことは気をつけろってこと位しかね。

 だけど、その位の年齢になると漫画もあるしテレビのドラマでも本でも知ることは出来たし。

 子供を産むためにする行為だけじゃなくて、人の欲望ってやつかな、エッチってのは。


 だけど、やっぱ、愛だよね。異性にしても親子にしても。

 自分の理性ってやつを止められないで欲望丸出しのバカな男もいるけどさ。女もか、ママなんて子供の私より男と過ごしたがって。



 私には「愛」って、よくわからないけどね。

 淋しい時に隣りにいてくれて、抱きしめてくれて話を最後まで聴いてくれたり。

 言葉でなぐさめることが出来ないなら、髪をなでてくれたり。美味しいカレーを食べて美味しいねって褒めたり笑ったり。どこかのお店で食べる時には半分っこしたり。喧嘩もするけど次の日には「ごめん」って謝ってさ。

 男と女ってエッチもするけど、それが1番の目的じゃないんじゃないかな。それをとったら2人に何が残るかってのが、大事なんじゃないの? 


 ***


 今まで私には誰も愛を教えてくれなかった。

 愛をくれなかった。

 ただ1度だけ、あの時。

 青い空の下でブランコに乗った時、あれはきっと「愛」なんだろうな。


 もっと、もっと欲しかったよ。

 私、すっごく愛されたかったのに。ママから痛い位に抱きしめられて。手をのばしたらいつもそこに温かいママの腕があって。

 ううん、ママじゃなくても、おばあちゃんとかおじいちゃんとかでもいいんだけど。

 でも、私はパパもいなかったし、それに祖父母って会ったことないと思うんだ。記憶にないもんね。どこかにはいるんだろうけど。


 人間って、不思議な生き物なのかな。いい思い出よりも苦しかったリ悪い体験や思い出の方がたくさん残ってるような気がするんだ。それとも、私はたまたま悪いことばかりだったのかな。


 だけど、鮮明に覚えてるんだよね、あの青い空とブランコとママの膝の上の温かさと笑い声を。


 悪いことばかりだったから、1つの想い出を美化してる。いい想い出はオブラードに包まれてるから愛と勘違いしてるって?

 そんな酷いことはこと言わないでよね。



 ああ、欲しかったよ。

 今もね、すごく温もりが欲しいんだ、私。上手く言えないけれど、愛に飢えてるのかなぁ。マジで男からのじゃなくていい。そうじゃない方が・・・いい。


 

 渡、早く帰っちゃってくれないかなぁ。テレビなんか、ここじゃなくても観られるじゃない。私は、料理の後片づけしたいんだよ。

 言いたいのに・・・言えないなぁ。


 早く帰ってよ。

 1人で泣きたいから。

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