体験入部初日⑥・魔砲試し打ち
「では、次は私の番ですね」
「頑張ってね知立さん!」
熱田さんの射撃は空き缶二個ほど射抜いて終わった。どちらも空き缶のど真ん中を綺麗に貫通させていたので、鳴海先輩がそれ以上やる必要は無いと打ち切ったためだ。次に出番となった知立さんは前に進み出てスタッフを構える。さすがに初めてなのもあって銃のように構え、方向が空き缶へ定まるよう狙いを付けている。
「……」
特に掛け声もなく知立さんのスタッフから光弾が発射される。光弾は空き缶へと吸い込まれるようにはいかず、空き缶どころか机をかすめもせずに空高く消えていった。
「あー、ちなみにあさってに飛んで行った流れ弾は敷地外に抜けていくと敷地の周囲に張り巡らされたシールドにぶつかるから。場外ホームランとかは無いから安心して」
「……」
知立さんは再びスタッフから光弾を発射するものの、今度は地面に机から少し離れた位置の地面に着弾する。土と埃が舞い上がり、地面には少し穴が開く。
その後も何度か打ち放ったけれど、悉く外れるばかりで空き缶に当たる気配が無かった。ようやく空き缶をかすめた頃にはもう二十に迫る回数をこなしただろうか?
知立さんは深く息を吐いてわずかに俯いた。
「……難しいものですね」
「初めは誰だってそんなものよ。練習あるのみね」
鳴海先輩はそんなしょげる知立さんを元気づけようと明るい声をかけた。どうやら本当に不満はなさそうで、しきりに頷いていた。もしかしたら先輩が一年だった頃を思い出しているのかもしれない。
知立さんがわたしの隣に戻ってきたので声をかけてみるか。
「残念だったな知立さん。ま、鳴海先輩が言うように練習すれば上達するんじゃあないか?」
「私には到底出来るようになれるとは思えないのですが。そんな姿が頭に浮かびません」
「いざとなったら弾幕をばらまけばいい。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるって言うしな」
「あまりスマートではないので好みではありません。やれと言われればやりますが」
どうも彼女は射撃には関心が無いように聞こえてしまうな。熱田さんの見事なお手並みを見せた事には感心を示したようだけれど、あまり熱を持って見稽古はしていなさそうなのだ。もしかして知立さんは魔砲競技そのものにあまり興味が無いとか?
熱田さんもそんな知立さんの様子を察したのか、申し訳なさそうな知立さんを見上げた。
「あの、もしかしてだけれど知立さん。この体験入部に誘ったのって迷惑だった?」
「いえ、別に。下手なだけで射撃も興味が無いわけではありません。それにどちらかと言うと接近戦の立ち回りの方が興味深いかと」
「接近戦? ソードを使った?」
「はい。実をいうと熱田さんの誘いに乗ったのもそれが大きいと思ってくださっていいかと」
知立さんは手にしたスタッフを両手に持って脇構えをとった。ただ右手と左手の間隔が木刀を手にするよりも広がっていて、スタッフの石突側、だったっけ?、を後ろに引いた脚の付け根に接触させている。スタッフの先端は相対する者の腹部よりやや上を想定しているだろう高さか。
明らかに普通の持ち方じゃあない。いわゆる剣道やテレビで見るフェンシングとも違う。それに長さがたった八十センチしかないスタッフでは明らかに短く知立さんの構えと不釣りだろう。更に言うとライトソードとも、だ。
「なぎなた! それなぎなただよね?」
熱田さんがそれを見て声をあげて手をついた。それが正解だったのか、知立さんは嬉しそうにはにかんだ。
「はい、小学校から週二でやっていました。ライトソードは刃の長さこそ厳しく規定されていますが、柄の長さは特に定められていなかった筈です。ただ魔砲競技は森や建物内でも行われる場合があるので槍や薙刀のように障害物にひっかかる長い得物は好まれないようですね」
「けれど知立さんはなぎなたスタイルでやると?」
「ええ、そのつもりです。勿論他の方と足並みが乱れてしまうようでしたら大人しく標準品に落ち着こうとは思いますが」
「駄目駄目、勿体ないよ知立さん!」
熱田さんは知立さんの両手を握る。熱意がこもっていたのか、面食らったように知立さんは目を丸くした。危うくスタッフを取り落としそうになるぐらいに。
「折角これまで歩んできた経験があるんだから活用しないと勿体ないよ。ほら、あたしもこんな風に他のみんなとは違うスタイルになっちゃってるし、大丈夫だって」
「熱田さん……」
「一生に頑張ろう。ね?」
「さすがにまだ一日目なので答えは控えさせていただきますが……そう言われて悪い気はしませんね」
知立さんの微笑みは美しさと可愛らしさを兼ね備えていた。熱田さんの方は前向きな返答に身体全体で喜びを表す。他の一年生から注目が集まるのもお構いなしだ。
「それじゃあ次の子前に出てきて」
「あ、はい」
「頑張ってね豊橋さん!」
「大丈夫だ、かっこよく決めるよ」
三人で話しているといつの間にかわたしの番になっていたようだ。熱田さんの激励を笑顔で返してわたしは一歩前に歩み出る。空き缶は並べ直したのか、パイプ机に並べられた的の数は最初とほぼ同じになっていた。
「それじゃあ何発かやってもらえる?」
「何発でもいいんですか?」
「まだ他の子が控えているから限度はあるけれどね。まあ気が済むまでやってみて」
「分かりました」
気が済むまで、かあ。どうせ今日は初日だし自分のやりたいようにやってしまおうか。
わたしは手にしていたスタッフを素早く構えると続けざまに発砲させた。思っていたほど反動は無かったけれどやっぱりゲームとは全然違ってスタッフがすっぽ抜けそうになってしまった。腕と上半身の動きで身体への衝撃を抑える。
射出された光弾は吸い込まれるように空き缶へと向かっていき、我ながら見事に缶の中央を射抜いた。連発された光弾は落下していく貫通された缶の上部分を捉え、更には机の上に残っていた下部分を机の表面ごと削り取った。
おー、思いの外上手くいったものだ。これならもう少し離れていても当てられそうだ。ただわたしってあまり視力良くないから動き回る対象に命中させられるかは試してみないと分からないな。
そんな風に漠然と考えているとわたしの耳に拍手の音が入ってきた。そちらの方へと振り返ると鳴海先輩が惜しみない拍手を送っていた。
「凄いじゃあないの! 続けざまに当てられるなんて熟練者でも早々出来ないわよ」
「どうもありがとうございます。そんなに上手かったですか?」
「ええ。これなら立ち回りとかを覚えたら本格的に戦力になるんじゃあない?」
「いやあ、そう上手くいきますかね?」
「こっちがこれぐらい行けるなら名屋さんに任せた経験者組の子達も大いに期待できるわね。これでこの学校の未来も明るいわ!」
鳴海先輩はしきりに満足そうに頷いた。
出番を終えて引き下がるわたし達を熱田さんと知立さんが出迎える。特に熱田さんは自分の事のように大喜びしている。知立さんの方も朗らかな笑みを浮かべていた。
「凄いよ豊橋さん! どこでそんな技術覚えたの?」
「いやあ、別にテレビゲームとかアーケードゲームを専用コントローラーでやったぐらいで、射撃経験なんて無いよ」
「成程、その経験が生きているわけですか。あとはそんな棒立ちではなく相手も回避するかもしれない状態でいかに相手に打ち込めるか、ですね」
「その辺りは未知の領域だろ。ま、上手く出来るかはやってみて確かめるさ」
某国民的アニメの主人公とまではいかないけれど、ゲームと同じ要領で大丈夫ならある程度射撃には自信がある。これでわたしも自慢できる、役に立てる部分が出来たわけだ。
まだ仮入部初日で本入部するかも決めていなかったわたしは、既に隣の二人と同じ部活に参加する自分を思い描いてた。
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