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体験入部初日③・変身!

「それじゃあ折角来てくれたんだしみんなにも一通り練習を体験してもらおうと思うんだけれど、見学だけのつもりって子がいたら遠慮なく言って頂戴」

「先輩、すみませんが部活紹介の時に体操着や運動靴不要と言われましたよね。見ての通り私達は学生服のままなのですが」


 知立さんの年上相手にも全く遠慮ない指摘を鳴海先輩にぶつけた。彼女は慌てないのと一言述べてから腰に下げていた袋から小箱を一つずつ取出し、わたし達へと手渡していく。こういった場合全部いっぺんに一人に渡して隣に回していって、とか取りに来て、で十分なのに、この人の良き人柄が窺える。


「それがパーソナルパイロンって呼ばれるフォースシールド発生装置ね。これを身に着けて頂戴」


 蓋を開けてみると中に入っていたのはブレスレットだった。銀色の輪っかに一センチほどの大きさをしたクリスタルがはめ込まれた、スタッフと同じように素朴なデザインをした代物だった。鳴海先輩のは女の子が身にするアクセサリーに相応しく少し洒落た一品だったので、やっぱりこれもスタッフと同じく必要最低限の機能を持つ標準品なんだろう。

 わたし達は言われるがままにブレスレットを腕に通していく。利き腕とは反対方向には腕時計やアクセサリーとしてのブレスレットをしている子もいて、外したり少しずらしたりしていた。わたしは別に時刻を確認したいなら携帯端末で十分だったしお洒落も別にって感じだったので、特にブレスレットを身にするのに問題は無かった。


「クリスタルに触れながら強く念じれば今着ている服が粒子状に分化されてユニフォームに再構築されるわ」

「ふ、服がユニフォームに、ですか?」

「そ。練習とか試合が終わった後には同じようにすればユニフォームが元着ていた服に再構成されるから問題は無いわよ。ユニフォームが汚れても制服が汚れたりはしないし、またユニフォームに戻しても綺麗に戻るから安心して」


 鳴海先輩は「手本を見せる」と述べてわたし達に分かりやすいように腕を前に出し、クリスタルを指で撫でた。クリスタルはそれに答えるように淡く光ると先輩が身にしていたユニフォーム上下とブーツが輝きだし、そして光の粒子となって分解されていく。

 光の粒子は先輩の身体の周囲を渦巻くと服や靴、靴下の形を成していき、やがてはわたし達と同じような制服姿に構成された。わたし達一年生がまだ服に着られている雰囲気があるのに対し、鳴海先輩は完全に制服を着こなしていた。むしろわずかに窮屈そうだ。

 いつもテレビではユニフォーム姿の選手ばかり見ていたから、こうして早着替えを目の当たりにするのは初めてだった。新入生から歓声が上がる。


「こんな感じかしらね。ちなみにこの一連の動作をどうやるかは人によって違うわ。事務的に最低限の動作で済ます人もいれば『変身!』みたいに格好つけてアピールする人もいるかな。基本的には属するチームによってまちまちね」

「じゃ、じゃあこの学校のは?」

「ただ服着替えるだけでポーズ決めたってしょうがないでしょう、って考えが根付いているせいで味気ないものになっているわね。別にそれで統一しているわけじゃあないし、練習の時も試合の時も自由にしていいんじゃない? ま、限度はあるでしょうけれど」


 鳴海先輩は再びクリスタルを撫でると、光の粒子となった服がユニフォームを形成していく。ただその過程は先ほどのようにあっさりしたものではなく、靴、グローブ、スカート、ジャケット、最後にヘアバンドと順々に構成されていく。先輩は最後に背負っていたスタッフを旋回させて構えを取った。いや、この場合は決めポーズと言えばいいのかな?

 決め顔の鳴海先輩に向けてわたしを含めた一年生一同が大きな拍手を送る。先輩と言ってもまだ中学三年生、むしろ幼いわたし達が同じようにやるよりも迫力と可愛らしさを兼ね備えたものだろう。鳴海先輩は照れくさそうにはにかんで頭を掻いた。


「隊長の岡崎さんにはみっともないから止めろって言われてるんだけれど、止められないのよね」

「やっぱりカッコいいからですか?」

「魔砲少女になるぞって意気込みも兼ねてるからね。あ、別にみんなは付き合わなくていいわよ。わたしが好き勝手やっているだけだしね。それじゃあ早速だけれど着替えましょうか」


 あっけらかんと鳴海先輩は手を振ると、わたし達にジェスチャーで促してきた。念じると言われてもどう思い浮かべればいいのかと思うけれどなるようにしかなるまい。とにかく今鳴海先輩が来ているジャケット姿の自分を想像しながらクリスタルに手を触れる、と。

 途端、わたしが腕に通したブレスレットのクリスタルが輝いて、制服が光の粒子となっていく。それはわたしの身体や手足を包んでいくと、次々とユニフォームとして形作られていく。やがて金色の粒子は色と質感を伴っていき、最後には先輩と同じく緑を基準とした格好となった。


「へええ……」


 自分の身体を覆うユニフォームを触ってみる。ユニフォームはやや硬めの生地で出来ていて、少し突起物に引っかけても簡単には破けない強度がありそうだ。魔砲の試合は屋外の森でサバイバルのように行われる場合もあるそうなので、頑丈な作りなのは当然か。

 左の肩口にはこの学校の校章がやや大きめに縫い込まれている。おそらくこのブレスレットで変身する際の衣装が学校のユニフォームになるよう設定されているんだろう。強いて言えばリボンやヘアバンドと言った髪飾りが個人で異なっている上に色が学年ごとに違うぐらいか。


「そうそう、みんないい感じよ。ブレスレットでの衣装替えは体格や背丈関係なく調整されるから、今隣の人とブレスレットを交換しても同じようにしかならないわよ」


 わたしは失礼ながらふと隣の方へと視線を移した。熱田さんと知立さんの対称的な二人は見事なまでにユニフォームを着こなしている。ジャストフィット、袖が手を隠していたり逆に手首が露わになっている様子も無く、スカートもそれぞれ足首辺りまでになっていた。

 良く出来ているなあ、などと感心していると熱田さんが頬を膨らませてこちらを見つめてきていた。知立さんも僅かに冷ややかな視線をこちらへと投げかけてきている。


「むー、豊橋さん酷いよ。知立さんとあたしを見比べたでしょう」

「少々不愉快です。別に咎めるつもりはありませんが、気にする方は気にしますので以後注意した方がよろしいかと」

「あ、いや、ご、ごめん。悪気は無かったんだ」


 わたしは慌てて頭を下げた。そうだよなあ、好奇心を伴った目線で見られて嫌な思いをする人だっているんだった。配慮も心がけるようにしないと。あ、いや、最終的には別に二人の背丈なんて気にしないぐらいになれればいいんだけれど。


「あの、これって学校のユニフォームにしか着替えられないんですか?」

「標準品は学校指定にしかなれないわね。自由自在なコスチュームにしたいならちょっとお高いパーソナルパイロンにしないといけないから大変よ。基本的にどこかチームに属していたらパーソナルパイロンだけは安価で支給される筈だから、それで大人しく満足した方がいいわよ」


 確かに、杖は色とりどりでもまあ目を瞑れるかもしれないけれど、さすがにチーム戦で様々で統一性の無いユニフォームでは話にならない。連帯感をもって勝負に臨むならユニフォームは統一してしかるべきだろう。

 けれどよく思い出してみるとさっき整列していた先輩方のユニフォームはわずかながら個性が見られたような気がする。袖が短い代わりにオペラグローブをしていたり、スカートが膝上な代わりにロングブーツだったり。最低限のポイントさえ守っていれば変更は問題ないのか?


「ああ、慣れれば自分のイメージするユニフォームへの改造も可能よ。当たり前だけれど過度にやって風紀を乱す真似は止めなさい。あと上級生に言いがかりを付けられたくなければしばらくは大人しく標準のままでいた方がいいわよ」


 わずかに鳴海先輩は顔をしかめて視線を逸らす。そんな鳴海先輩のユニフォームがどうやら標準的な物らしい。確かに一年生のくせに生意気などと言われようものならその先は茨の道だ。余計な自己主張はあまりしない方がいいだろう。


「副隊長、それでどうやってフォースシールドというのを展開すれば?」

「いえ、ユニフォーム姿になればシールドが身を包んでくれるの。その気になって意識してみたらさっきとは違った違和感に気付くと思うわよ」


 ……本当だ。言われてみたら確かにわたしの周囲がほんのわずかに淡く光っているような気がする。それはわたしばかりではなく、他のみんなもそうだった。軽く自分の腕を握ってみると、その淡い光が少し波打ったように見えた。

 ただ、手は掴んだ感触があるし腕には掴まれた圧迫感がある。てっきり外からの力全てに対してシールドが働くと思っていたけれど、ある程度の制限があるようだ。シールドが守ってくれるって謳い文句がどれほどのものか少し不安になってきた。


「大丈夫よ。スタッフやソードからの攻撃、落下物、転倒とか考え得る怪我を追う要因は悉く阻んでくれるから。どうやって識別しているかの詳しい原理は私には難しくて分からなかったから、興味があったら勉強してみてね」


 そんなわたしの思いを察したのか、鳴海先輩が楽観的に、だが優しく説明してくれた。こんな事も分からないのか?と頭ごなしに言ってくる指導者も覚悟した人もいたのか、一年生の何人かが感嘆の声をあげる。熱田さんも経験者だからとおざなりではなく熱心に聞き入っているようだ。


「敷地内に入ったらまず真っ先にユニフォーム姿になりなさい。被害が出ないよう細心の注意は払われているけれど、流れ弾とかが無いとも限らないからね」

「わ、分かりましたっ」

「よーし、それじゃあユニフォーム姿になって気を入れ替えた所で早速練習を始めましょう」


 鳴海先輩は手を叩いてからわたし達に感覚を開けるよう仕草を取った。

 とにかく、これでわたし達は仮にだけれど先輩方と同じ魔砲少女としての第一歩を踏み出したわけだ。誘われてここには来たけれど、逸る気持ちが自覚できた。

お読みくださりありがとうございました。

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