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体験入部初日②・魔砲とは何か?

 一年生の魔砲経験者が桜先輩の後ろを付いていく姿を見送った鳴海先輩は、先ほどの言葉をごまかすように咳払いをする。そして残ったわたし達七人ほどにの魔砲初心者へと振り返って前に堂々と胸を張った。


「さて、それじゃあ改めて経験も無いのに初日から我が部を選んでくれてありがとう。初心者だからってないがしろにするつもりは無いから安心して。ところで……」

「あたしは気にしないでください。友達と一緒にやりたいので」

「そう、ならいいけど」


 先輩は明らかに経験者なのに偽ってきた熱田さんに視線を送るものの熱田さんは怯えもせずに堂々と答えた。先輩の方も特に嘘を咎める様子も無く引き下がったので、特に自己申告がどうだろうと大した問題ではないようだ。


「じゃあまずは魔砲って競技がどんなものかの説明から始めるわね。この競技はある一定の広さを持ったフィールド内にある敵陣地のフラッグに手を触れるか相手チームを全滅させれば勝利になるわ。チーム辺りの参加選手数はフィールドの広さによって違うんだけれど、基本的に十から二十って思ってくれていいわよ」


 鳴海先輩は後方に広がるゴルフコースよりは少し狭いぐらいには広い敷地を指し示す。市営とは言ってもここは田舎じゃあない。よくこれだけの面積を公園や住宅街にもせずに確保できたものだと感心するしかない。


「で、相手チームの選手をどうやって倒していくか、なんだけれど、基本的にはこのマジックスタッフとライトソードを使っていくわね」


 鳴海先輩は左手に持っていた腕程の長さのあるスタッフを高く掲げ、更に腰に下げていた細長い円筒の形をしたソードの柄を取り出した。彼女がソードを軽く振るうと柄から光の刃が形成される。その様子はさながら世界規模で有名なアメリカのSF超大作を思い起こさせた。

 スタッフの方はファンタジーアニメさながらの先端に趣向を凝らしたデザインがされているけれど、遠目で見る先輩方の武装を見る限りだとそのデザインどころか長さすら統一されておらず、中には重火器にしか見えないものまであった。


「マジックスタッフで相手を狙撃して、ライトソードで相手を切り伏せる。どのようにして相手チームを沈黙させてフラッグを取るか、それがこの魔砲って競技の基本になるわね」

「あのぉ、すみません。質問ちょっといいですかぁ?」

「ん? ええ、いいわよ。何でも聞いて頂戴」


 一年生のうちの一人がおずおずと手をあげて、鳴海先輩の説明の合間を縫って質問を被せてくる。鳴海先輩は説明を途中で阻まれてもむしろ嬉しそうに頷いてみせた。


「それ、当たったら痛いんですかぁ? むしろ死んじゃうんじゃあないですかぁ?」

「あー、その辺りも説明しないといけないかな」


 鳴海先輩は金網の扉を開いて敷地の外側へと足を踏み入れた。途端に鳴海先輩が手にしていたソードから光刃が消失して元の柄だけになってしまった。電池切れしたライトみたいだ、と率直に感想を思い浮かべた。ただ敷地の境界を超えた途端に光の刃が消えてしまったから、自分で消してはいないようだ。


「まず魔砲で使用するクリスタルを使った競技用の道具は全部安全装置があるわ。こんな感じに許可された施設の範囲内じゃあないと動作しないようになっているの。だから犯罪では使用されないからそこは安心して」


 あー、成程。ライトソードって文字通り剣、つまり凶器なんだから銃刀法とかに引っかかるんじゃあないのかって何度か思った事はあった。それをこんな仕組みで競技以外で凶器として使われないように抑制していたのか。これなら使用されるような事態にはならないだろう。


「ちなみに魔砲競技をやる敷地内にパイロンクリスタルって大きいクリスタルがあって、そこからソードとかスタッフのエネルギーが供給されるんだって。魔砲の道場はそのクリスタルの購入と設置の許可を得るために免許を取らないといけないの」

「へええ……」


 隣にいた熱田さんがわたしにそっと小声で補足してきた。パイロンクリスタルって、練習場の敷地の片隅に見える双角錐、だったっけ?、の形をして淡く輝く水晶体だろうか? 単なる洒落たオブジェかと思ったらそんな重要な設備だったとは。あれだけ見ていると本当に映像世界に迷い込んだ錯覚を覚える。


「じゃあ次にスタッフでの狙撃やソードでの斬撃で相手がどうなるか、なんだけれど……実際に見せた方が早いわね」


 鳴海先輩は金網の扉を潜って敷地内に戻っていく。先輩は再びソードの刃を展開させると徐に右腕をわたし達の方へと突き出した。そして左手に持っていたソードの刃を右腕に当てると、唇をきゅっと引き締めて思いっきり引いたのだ。


「きゃ、きゃあぁああっ!?」

「な、何を……!?」


 わたしを含めてその場の誰もが悲鳴を上げた。経験者の熱田さんや無表情の知立さんすら顔が少し強張る。けれど予想された血染めの惨劇にはならず、代わりに先輩の腕の箇所を中心に周囲に迸ったのは眩い火花と何かが呻る音だった。

 今の自傷にしか見えなかった行為の結果、鳴海先輩の腕は傷一つ無く、服の袖は汚れてすらいなかった。代わりに彼女の腕の周りに纏っていた透明のヴェールか歪んで波打つ様子が確認できた。

 鳴海先輩は軽く息を吐く。結果は分かっていたようだけれどやはり先輩も緊張したようだ。


「見ての通り魔砲少女の周りにはフォースシールドって防御の膜……ううん、壁が出来ているの。これでスタッフやソードからの攻撃だけじゃあなく、転倒とか落石とか色々な怪我から選手を守ってくれるわ」


 ははあ……。それでスタッフでの狙撃とかを受けた選手達が無傷でいられるのか。テレビの中では見た事あったけれど、実際目の当たりにすると現実感が全然違う。映画やアニメでしか有りえない世界が現実としてわたしの前には姿を見せているのだ。


「スタッフやソードの出力は物にまちまちだけれど、このシールドの出力は人間一人の耐久力相当に定められているって聞くわ。このシールドの出力が一割を切ったら戦闘不能と見なされるわね」

「先輩、それでは脱落した選手と生き残っている選手を識別するにはどのようにすればよろしいのでしょうか?」

「良い質問ね。フォースシールドを発生させる道具に識別機能があって、相手選手のシールド発生率がどれだけになっているか確認が可能なのよ。一応シールドが一定以下の出力しかない相手に対しての攻撃にはロックがかかるそうだから安全だとは言えるけれど、絶対ではないわ」


 鳴海先輩は胸ポケットから紙を一枚取り出すとそれをぐしゃぐしゃに丸め、それを軽く上に放り投げる。そして先輩はソードを剣道で見るような綺麗な面打ちで切り払った。丸められた紙は真っ二つに切り裂かれて地面へと落ちていく。

 一年生の何人かが鮮やかなお手並みに歓声を上げた。


「こんな風にシールドを発生させていない対象に対しては全く安全装置が働かないの。だから試合開始前には敷地内に無関係な人がいないって絶対に確認しなきゃあ駄目になるわね」

「分かりました。お答えくださりありがとうございます」

「あの、副隊長。それじゃあ相手にやられちゃった選手はどうすれば?」


 返答をもらった知立さんは深々と鳴海先輩へとお辞儀をした。わたしも手をあげて先輩へと疑問を投げかけてみる。先輩は敷地内のある方向を指差した。それはさっきわたしが視線を送っていたパイロンクリスタルの傍のようだった。


「フィールドごとに指定された安全地帯まで速やかに移動してもらうわ。安全地帯なら流れ弾からも設備が守ってくれるから安心して。移動中は必ず片腕をあげた上で生存中の選手を見かけたら脱落してるってちゃんとアピールする事。その際自分を倒した相手がどこにいる、みたいな情報のやり取りはルール上禁止されているから注意ね」

「でも脱落してるのにしてないって嘘付いてたりする場合は?」

「競技用のスタッフとソードは個々のシールド発生率が一定以下になると動作しなくなるよう制御されているから、所謂ゾンビ状態にはならないわ。一応審判団が試合中にドローンを飛ばして監視はしているけれど、万全とは言い難いのが現状。監視が行き届いた大会以外は選手のモラルに期待する他無いわね」


 この他にも一年生が率直に感じた質問を鳴海先輩にぶつけたけれど、先輩は丁寧にわたし達に教えてくれた。面倒見がとても良さそうで好感が持てた。

お読みくださりありがとうございました。

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