表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/29

交流試合①・待ち伏せ

「ではこれより那古屋南中対深沢学園の試合を行います。一同、礼!」

「「「よろしくお願いしますっ」」」


 試合に参加する二十名が安全地帯付近になるフラッグ同士の中間地点で選手一同が集まり、試合開始の礼を交わした。その上でお互いにフラッグ付近へと戻って準備に入る。

 今日の試合の参加メンバーは昨日のミーティング時点で発表されている。わたしと豊依は選ばれたものの神薙と葵は選ばれなかった。まあ神薙は練習試合三昧だったこの期間で一年生の中で一番試合に出ていたし。なお、わたし達の他には一年生が二人参加している。


 今日はちゃんと岡崎隊長や鳴海先輩を含めて三年のレギュラーが勢ぞろいしている。試験運用する余裕があった近隣学校とはやはりレベルが違うのだろう、対戦相手の深沢学園は。

 岡崎隊長はフラッグを背にして一同を一回整列させる。


「さて、今日は昨日打ち合わせした通りに私はここに留まりフラッグキーパー、他三名のディフェンダーを残し、他は攻撃に加わってもらいます。指揮は金山さんに任せるけれどいいかしら?」

「はい、隊長。必ずや期待に答えてみせます」

「各班の班長は部隊長の金山さんの指揮をもって動くように。特に鳴海さん、いいわね?」

「ちょっと、どうして私が命令違反する事前提なのよ。ちゃんと下に付けば指示には従うって」


 整列は班ごとにされ、豊依は金山先輩の、わたしは名屋先輩の班に加わった。四人班が五つ、どうやらこれがうちの学校の基本スタイルらしい。変則的だったのは最初に参加した仮入部期間最終日の練習試合ぐらいか。

 何度も試合には参加しているけれど、やっぱり始まる前の緊張感はどうしても拭い去れない。そんなわたしを察したのか、名屋先輩が後ろを振り向いてこちらに笑みをこぼしてきた。何も言わなかったけれど、「大丈夫ですよ」と語りかけてきているように感じた。


 全員が相手チームフラッグの方角に身体を向け、構えを取った。程なくして試合会場全体に試合開始を告げるサイレンが鳴り響く。


「それでは攻撃班は進行なさい。健闘を祈るわ」

「「「はいっ」」」


 岡崎隊長の号令をもって十六名の攻撃を担う魔砲少女達が動き出す。全員が駆け足だが、普段から装備品一式を身にしてランニングするわたし達にとっては疲労は歩きと大して変わりない。どれだけ自分達に有利な場所で会敵出来るかが重要な要素となる以上、速度は大事だろう。


 一時間半試合が行われる会場は大抵キロメートル単位の広さがある。かと言って会場の端はほとんど使われず、もっぱら両チームのフラッグ同士を結んだ線の周辺で行われる事が多い。今回の会場は起伏はあるものの概ね開けており、所々林や池があるようだ。

 面白いのがフラッグの間には町を模して簡単な建造物が並んでいるのだ。遮蔽物も多いので慎重に進む形になるだろう。気分はさながら市街地戦だな。それを避けるとすると開けた丘陵を円弧を描くように左右に迂回して進む他無い。


『それで金山さん、基本方針は?』


 無線から鳴海先輩の声が聞こえてくる。既に各班ごとにある程度の間隔を置いているので、もう二人の肉声は聞き取れない。


『各班一定の間隔をとりつつ相手チームのフラッグまで一直線に進みます。左右の迂回ルートは今回捨てようかと』

『おっけー。今日は速攻で片を付けるってわけね』


 広大なフィールドで相手がどう攻めてくるか、どう守ってくるか。それの裏をかくか正面から打ち砕くか。そうした読み合いが最も重要になってくる。魔砲少女個々の実力、チームの練度もさることながら、指揮する者の戦術が大きく勝敗を分けると言っていい。

 攻撃部隊を一点集中させて相手にぶつかっていく作戦は最も効果的と言っていい。策略でもない限り数こそ暴力、十六名にもなれば薄っぺらい防御なんて簡単にぶち抜いて相手の懐まで到達出来るだろう。まあ、そう上手くいかない深い所が面白いんだけれど。


 特に中間地点となる町の近くまでたどり着くまでは何も起こらなかった。やや息があがるものの十分に体力はある。

 わたしは前に出ている名屋先輩のハンドサインに従って双眼鏡で村の様子を窺う。町には特に人影は無く静まり返っていた。並ぶ二階建て家屋は雨戸が閉まっていたり厚いカーテンで中の様子が見えなかったり、内側の照明だけが見えたりと様々だった。どれも窓は開いていない。


「家屋、道、どちらも人の姿はありません」

「じゃあこのまま町に入ります。相手チームの待ち伏せも考えられますので慎重に、けれど速やかに行きましょう」


 無線で他の班からもわたしと同じように様子を確認の上で同じ判断を下したらしく、スタッフを構えながら駆け足で町の入口へと向かっていく。その間も町の様子を窺い続けるものの特に変化は無い。それにしても家屋の二階のガラス窓の奥に見える箪笥とか照明とか良く拵えたものだ。魔砲の試合会場とは言え人が住んでいてもおかしくないな。


「……っ!?」


 それは完全に不意打ちだった。突然屋内の窓の下から手が伸び、器用に窓が開け放たれたかと思ったら下からマジックスタッフが飛び出てきたのだ。スタッフが狙う方向は……こっちの班!?


 家屋から光弾が発射されて呻る音が辺りに鳴り響いた。わたしはとっさにスタッフを構えて一か八かで狙いを定めて光弾を射出させる。発砲のタイミングはほぼ同じ、そしてとっさにしては完璧に計算通りにわたしと狙撃手の光弾は空中で衝突、お互いに弾け飛んだ。


「て、敵襲!?」


 名屋先輩を始めとした三人がわずかに遅れてスタッフを構える。お返しとばかりに攻撃を仕掛けるものの既にマジックスタッフは窓枠の外、下側に引っ込んでしまう。ターゲットを失った光弾は家屋の壁や部屋の中に命中するばかりだった。

 しかし確か呻る音は確か重なって聞こえなかったか? 視線を横に向けるとなんと奇襲を受けたのはわたし達の班だけではないらしく、各班顔を強張らせて家屋めがけてスタッフを構えているではないか。既に何人かが発砲しており、わたし達を狙った魔砲少女がいるだろう家屋以外の壁に穴を開けていく。


『状況報告! 鳴海班は何とか相手の狙撃をかわせたわよ!』

『ごめん、伊奈班は一人やられた! 相手は物陰に隠れられて見えないぞ!』

「な、名屋班は迎撃に成功! 相手の狙撃手は屋内にいるようです!」

『金山班は一人に命中、幸いにも続行可能よ。憎たらしいったらありゃしない……!』


 つまり、複数人が既に家屋に潜んでいてこちらの班をそれぞれ同時に狙撃した? いや、でもこの町は会場の丁度中間地点。なのに駆け足でここにたどり着いたわたし達より早く到着した上に家屋に押し入って待ち構えていた?


「多分ここまで全力疾走で来たのよ。フラッグまで向かう体力を考えなければその分速いペースで中間までは来れるもの」

「屋根に上るとか庭に隠れるとかはともかく家屋にも入れるんですか? 鍵とかは?」

「安全地帯以外の会場内設備はどう活用しようとルール上は問題無いの。鍵がかかってたってスタッフで撃ち抜いたりソードで斬ったり、色々と侵入手段はあるもの」


 名屋先輩の説明で思わず絶句した。家屋への侵入自体はルール上反則じゃあないから有りなんだろう。問題なのは、わたし達と同じように各班まとまって侵攻してくると思われていた相手チームが狙撃チームを先行させて待ち伏せていた事実だ。

 相手の狙撃手は上手い具合に窓辺に潜んで姿を現さずぶスタッフだけを突き出して発砲させていた。それにしては随分と精度のいい攻撃をするので不思議に思っていたが、どうやら鏡でこちらの姿を確認しているようだ。器用な真似をするなあ。


『相手チームの狙撃手は四人、伊奈班は私に続いて一気に町まで駆け抜けて家屋に突入、ソードで下手人を斬り伏せるわよ』

『りょ、了解だぞ!』

『鳴海班はそのまま町に入って増援が来ないか確認をお願いします』

『了解よ』

『名屋班はその場で牽制し続けて相手を釘付けにしなさい』

「了解です」


 金山先輩の指示を受けて三班が駆けだした。それを狙うべく再び相手チームの狙撃手がスタッフを出してくるが、そう何度も好きにやらせるか。わたしは待ってましたとばかりにその姿を現したスタッフを撃ち抜いた。スタッフは大きく弾かれて回転しながら家屋の天井に直撃し、床に落ちていくのまでは確認できた。

 その間に名屋先輩は相手が身を潜ませているだろう壁へと次々と光弾を浴びせかけ、やがて音を立てて大穴が開いていく。いくら競技用に出力を抑えているからってコンクリでもない家屋の壁ぐらいは貫通出来るのか。


「武器破壊って出来たんでしたっけ?」

「ええ、競技用スタッフとソードの場合はクリスタルが損傷すると一時的にフリーズするの。程度によるけれど大抵数分は再起動しなかったかな」

「相手が姿を見せない以上スタッフを狙うしかないですね」


 わたしはなお他の狙撃手が突貫する金山先輩達を狙おうとするスタッフへと狙撃、他の三人も最後の一人へと光弾の雨あられをお見舞いする。わたし達を狙った狙撃は完全に沈黙した。

 そうしているうちに金山班と伊奈班が二名ずつに分かれてそれぞれの家屋の中へと入っていく姿が見えた。外側はわたし達、内側は先輩方、もう狙撃手四人に逃げ場はない。わたしはそう確信した。してしまった。


 それが浅はかだったと思い知らされたのは、家屋二階の壁が突然崩壊してからだった。けたたましい音が鳴り響いてから轟音を立てて内側から吹っ飛んだのだ。まさかソードとスタッフを駆使して壁を破壊したとでも言うのか……!?

 中から飛び出てきた魔砲少女は、見間違う筈もない、わたしと同学年の高尾さんだった。


「させるかぁ!」


 彼女は瓦を踏みしめて一階屋根を走り抜けようとしているがそうは問屋が卸さない。わたしはスタッフを相手の胴体めがけて発砲させた。一直線に彼女に襲い掛かった光弾は、しかし彼女が縦にかざしたソードに弾かれてしまう。


「嘘、防がれた!?」

「身体の中心、正中線だけをかばったみたいね……!」

「ぐっ、狙いが正確すぎたのが裏目に出るなんてありえないだろ~!」


 驚愕している間に高尾さんはわたし達に背を向けて一目散に駆けだした。名屋先輩方が追撃するものの結局彼女の逃亡を阻害させる事は出来なかった。

お読みくださりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ