表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/29

装備品を整えよう④・選定終了

 次は豊依の番となったけれど、彼女の場合は特筆する点は無い。何しろ部活で使用していた部の備品と全く同じ品を選んでいるのだから。試射を終えても「こんなものですか」と素っ気なく答えるだけだった。


 最後はわたしの番になった。標準品のスタッフよりも持ちごたえがあるし狙いも定めやすい。撃ってみると思った以上に反動が無く、光弾も五十メートル先の標的のど真ん中に吸い込まれるように命中した。ただこれだけなら今まで使ってたスタッフでも出来る。

 わたしは遊び心であえて撃ち抜いた標的を撤収させずにスタッフを四発ほど発砲させまくった。それは円の中心からは外れたものの、最初に当てた中心部と合わせてとある模様を描いてみせた。鳴海先輩がいち早く気付いて拍手を送ってくれた。


「南十字座じゃあないの。上手く当てるものねー」

「自分でもびっくりですけれどね。まさかこんなに上手く命中させられるなんて。射撃とか完全に無縁の生活送ってましたもの」


 中学生でこんな事を言うのも何だけれど、本当に人生は分からないものだな。この先も波瀾万丈なんだろうか?

 さすがに五十メートルぐらいだとあまり良く分からないけれど、精度は上がっているような気がする。何と言うか、持っていて照準がぶれないし思った所に当たり前のように当てられるし。後は数百メートル先の相手に当てられるよう練習を積むばかりだろう。


「じゃあ三人共買うのはそれでいいのね?」

「「「はいっ」」」


 わたし達はそれぞれ元気いっぱいに返事をした。何だかんだでわたし達はまだ小学生から上がりたてなのだ。鳴海先輩はそんなわたし達を眺めて満足そうに何度か頷くと、今度は先輩が何故か選んでいたロングスタッフを手に取ってそれを脇で抱え込むように構えた。

 的を見据える目線は鋭くなり、柄を包む手が強く握りしめられる。スタッフの先端を微調整して、呼吸を整える。


「シュート!」


 そして咆哮を上げるように掛け声をあげるとスタッフから光弾が射出された。それは一直線にぶら下げられた的へと向かっていき……その端をかすめて奥側の壁のシールドを大きく揺らした。先輩は更に何発か発砲させたものの、紙にすら上手く命中させられない。酷い時には的に届く前に床面のシールドへ激突するぐらいで完全に狙いを定められていない。

 鳴海先輩はスタッフを一回転させて汗をぬぐうと、大きく息を吐いた。


「やっぱ駄目ねー。わたしじゃあロングスタッフは使えないわ」

「あ、そっちに切り替えようとしたわけじゃあないんですね」


 神薙に聞いたけれどスタッフが長くなればなるほどクリスタルを制御する機能、術式とでも言えばいいのか、が複雑かつ緻密になって威力と有効射程が増すらしい。最大の問題は先にもあげたように小回りが利かなくなる点だが、狙いが定めにくいらしい。

 何せ魔砲競技では自動的に相手を捉えるわけじゃあない。こちらが肉眼で確認して狙いを定めて狙撃する必要がある。ただ超遠距離の相手を狙うとすればスタッフの狙いはほんのわずかなズレすら許されない。今の五十メートルで必中だろうとその延長線上のはるか向こうで的外れだと意味が無いのだ。数百メートル先の相手ならステッキサイズで十分だろう。

 そんなわけでプロリーグでも身長サイズのスタッフを使う魔砲少女はあまりいない。特に神薙のように超遠距離に特化したロングバレルスタッフを使うなんてごく少数だ。単に使う必要が無いし使いこなせないのだ。


「凄いでしょうー。あたしって小柄だからちょっとでも人とは違うコトしたかったんだー」


 とは神薙談である。そのおかげで神薙の魔砲スタイルはかなり異彩を放っているけれど。


「それじゃあ試し撃ちはこのぐらいにしてソードを確認しましょう」

「「「はいっ」」」


 わたし達はそれぞれ試射用のスタッフを返し、試射場から踵を返した。もうちょっとやっていたいと思った反面、たった五十メートルだと物足りないと思ってしまったのだから、わたしもすっかり魔砲の魅力にはまってしまったものだ。



 ■■■



 ソード選びは別段苦労も無かった。何せ展開される刃の色は学校で大まかに決められているから選びようもないし、柄部分だけでは趣向を凝らそうにも限度がある。結局わたしと葵は成長を見込んで少し長めの標準品を、豊依は薙刀タイプを選んだ。


 パーソナルパイロンの方はあれこれと話し合って性能こそ標準品相当なものの少し洒落た一品を三人とも選んだ。やっぱただの輪っかを手に通すなんてあまりにみすぼらしくて気が引ける。これなら普段から付けていても堂々と胸を張れる。

 ただ一つ気になったのはユニフォーム無しの値段は書かれていても込みだと時価と書かれている点か。傍に立てかけてあったカタログを見ると、初めは何のユニフォームも入ってないまっさらな状態で、後から追加データとしてインストールするらしい。


「へえ、標準品でもユニフォームデータは五つまで入るんですか。別に競技服を使い分けたり飾っても仕方がありませんし、これで十分ですね」

「神薙達は自分のに指定ユニフォームのデータを追加する形になるんだな。無駄にブレスレットを増やす必要が無くて良かったじゃあないか」


 ブレスレットを買い替える際もパーソナルパイロン内のデータを新しいのに移し替えられるんだそうだ。まるで携帯電話だな。ただ標準品だと中のデータをいじれなくて、出来るのは追加と削除だけか。本当に最低限の機能なんだな。

 先輩達みたいにユニフォームをカスタマイズするにはもうちょっと値が張る品を選ぶ必要があるようだ。それと更に値が張る高価な逸品になるとユニフォームの自作すら可能になる上に他のブレスレットにデータの配布も出来るらしい。


 となるとますます気になってくるのは肝心の那古屋南中魔砲部のユニフォームってどれぐらいかかるんだろうか? カタログで見る限りさっき試射場で見た地味なローブのデータすら結構なお値段みたいで、聞くのが結構怖いんだけれど。


「な、鳴海先輩ぃ。学校のユニフォーム代っていくらなんですか?」

「ん? 岡崎さんも装備品一式を揃えろとしか言ってなかったでしょう。こっちが強制して統一したユニフォーム着せるんだから、そのデータはこっちが無料で配布するわよ」

「へ?」

「代々隊長が引き継ぐパーソナルパイロンはマスター版で、データの受け渡しが出来るのよ。ユニフォームはずっと前の先輩が作ってくれた自作物だから複製も大丈夫。勿論部員個人個人にシリアル番号割り振って部外者にコピーデータが行かないよう厳重に管理しているけれどね」


 そのカタログにも書いてあるそれよ、と鳴海先輩は丁度わたし達が開いていたカタログを指差してにっこり笑ってきた。どうやらわたし達の悩みは杞憂だったみたいだ。

 ほっとした所で鳴海先輩は自分の手を二度ほど叩いた。


「はい、これで三種の神器ってわけじゃあないけれど装備品全部選べたわね。じゃあ悪いんだけれど大型連休中に一式買い揃えてもらいたいの。お金に困っているんだったら中古屋もあるし、最低限揃えるだけならそう苦労は無いわよ」

「いえ、今まで貰っていたお年玉で何とかなりますから、折角なので新品にしておきます」

「まだ中学生なんだから親にねだるもよし。誕生日プレゼントの前倒しにしてもいいし、さっき三人共言ってたようにお年玉から捻出するのも素敵ね。個人的には身銭を切って買った物って大切に扱うものだからそっち推奨だけれどね」

「ね、値段が値段なのでお母さんとも相談しますぅ……」


 そうしてわたし達の初めての装備品揃えの第一歩は終わった。



 ■■■



 後日、わたしは親に装備一式を揃えたいからお年玉を銀行から引き出して、と願うとなんと最初だけは出してあげると奮発してくれた。誕生日プレゼントも無傷なのでなんて太っ腹な、と両親に感謝した。曰く、小さい頃からあまり物をねだらなかったから、だそうな。

 豊依はなぎなた用の道着や道具一式は出してもらっているからと、魔砲装備はお小遣いとお年玉を動員したらしい。葵は事情を説明したところ、なんと彼女の親が装備一式をどこからか譲り受けて彼女に渡してきたらしい。少し使い古されているけれど十分使えるんだとか。


 これで魔砲部ユニフォームを貰い受ければわたし達は晴れて正真正銘の魔砲少女となるわけだ。

お読みくださりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ