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装備品を整えよう③・試射

 専門店にて購入を検討しているスタッフの試射を行うべく、まずは店員に試射場の使用を申請する。陳列棚に並べられた商品は全て盗難防止タグがつけられていて使用出来ないらしい。あと新品なのに試射で使い古した挙句に所謂アウトレット品にしないよう試射用は別に用意していて、その準備をするためなんだとか。


「君達学生さん? なら生徒手帳見せて」

「あ、はい」


 わたし達は手続きの際に店員に求められるがままに生徒手帳を提示する。店員は生徒手帳とわたし達を交互に見比べながらテーブルに並べられた書類に何かを書き込んでいく。不思議に思って少し首を傾げたわたしに鳴海先輩が耳打ちしてきた。


「魔砲装備って結構規定がうるさくて、個人用を買おうとするとどっかの団体に所属してないと厳しいのよ。多分犯罪防止だと思うんだけれどね。だから学生の身分だと部活か道場に通ってないと中々手に入りづらいかもしれないわよ」

「そ、そうなんですかぁ」


 今でこそサッカーやテニスのように世界で楽しまれているスポーツだけれど、魔砲の歴史と戦争は切っても切り離せない関係があるそうだ。死傷者が出ないよう競技用スタッフはそこまで殺傷能力は無いし競技用シールドは破られないよう厚くなっている。

 が、実は競技用から軍事用に改造が出来るらしい。勿論競技用のとは比べ物にならない純度のクリスタルに交換して、スタッフも軍用クリスタルの性能を極限まで引き出すよう細部に渡り手を加える必要がある。それでも決して不可能じゃあない。

 更に言えば使用範囲を制限するパイロンクリスタル無しでも運用が可能となるんだとか。勿論パイロンクリスタルの影響下にあった方がより性能を発揮するだろうけれど、それでも相手の攻撃をシールドで防ぎつつこちらはスタッフでの砲撃が可能となる。

 軍事用となったら最後、小銃よりも恐ろしい凶器としてその暴力が振るわれるだろう。そうした懸念と危機感から魔砲装備は登録制になっているんだとか。まるでアメリカの銃社会みたいだ、と思っていたらどうやらそれをベースに制度が定められたらしい。マジか。


「はい、問題ないね。じゃあ用意するからその階段から上にあがって、魔砲衣に着替えてもらえないかな? 無いならそれも貸すけれど」

「では後ろの三人だけお願いします。私は持参してるので」

「はいよ」


 店員は書類を書き終えると袖机の棚を開けて鍵を鳴海先輩に渡してきた。先輩は笑顔で受け取ってわたし達に付いてくるよう促す。


 試射場は店舗の三階に設けられていて、テレビで見た射撃競技の会場やバッティングセンターを思わせる作りになっていた。両サイドの壁には大きく立ち位置からの距離が記されていて、最長で五十メートルのようだ。狭いと言うなかれ、店舗の試し撃ちの場としては十分すぎる広さだろう。

 試射場の天井には所々に小さなクリスタルがシャンデリアのように飾られていた。多分あれが練習場でも目にしているパイロンクリスタルなんだろう。多分脇に逸れた光弾が壁に激突する前にシールドに阻まれるように範囲を設定しているんじゃあないだろうか?


「どうよ、中々しっかりした造りでしょう?」

「はいっ、こんな立派な設備があるなんて凄いですぅ」

「商品の試し撃ちだとそんなに長い時間は留まれないけれど、自分で装備一式を持参した上でお金を払えば射撃練習場としても使えるわ。むしろこの店舗の三階ってそれ目当てな客が多いと思う」


 なるほど、それでそれなりに人が入っているわけだ。その様子はさながら休みの日に自転車で横切るばかりの打ちっぱなしゴルフ練習場を連想させるな。わたし達は二階で受付を済ませたけれど、どうも三階にも受付がある造りをしているようだ。

 ただ最長五十メートルだとわたしにとっては話にならない。数百メートル単位で練習したいわたしにとっては非常に手狭と評価しざるを得ないのだ。試し撃ちならまだしも金を払ってまでここに来る理由ははっきり言って皆無だ。


 そんなわたしの考えが透けて見えたのか、鳴海先輩はにやけながら指を横に振った。


「魔砲って射撃競技みたいに個人の技を競う部門があるのよ。正式種目だと射撃と同じで五十メートルだからね。五十メートルで試射できるお店なんて県内でも指を折るぐらいしかないわよ」


 へええ、そうなのか。団体競技ばっかりクローズアップされているから個人競技までは知らなかった。準備に時間があるので少し鳴海先輩のお話を聞くとワンドやステッキを用いて正確性を競う競技だそうだ。あくまでうちの学校は団体競技メインだけれど、優秀な射撃能力があれば個人種目の大会にも出る事もあるんだとか。

 そう言えば気になったんだけれど、ワンドだのスタッフだの良く区別が分からないな。リレーバトン程度でワンド、一メートルぐらいでスタッフって感覚だったけれど、長さで違うんだろうか?


「正確には魔砲でも用いる杖は全てマジックスタッフってくくりよ。ただソードと同じでタイプがあって、ペンライトぐらいに手の平程度ならワンド、上腕ぐらいの長さならロッド、大人の脚より少し長ければステッキ、身長より長ければスタッフかしらね」

「じゃあ今まで使ってたのってマジックステッキとも言えるんです?」

「何人か身長より少し高い本当の意味でのスタッフを使う部員もいるわ。さすがに熱田さんみたいに自分よりはるかに長い超遠距離用を持つ部員はいなかったけれど。やっぱ長いと重いし森林とかで小回りが利かなくなるから、基本的にはステッキサイズが使われると思うわよ?」

「へええ」


 確かにファンタジー作品で見る魔法使いとかは片手でも使えるステッキだったり身長より長いスタッフだったりと様々だ。絵になるのはスタッフの方で間違いないけれど、この間神薙のスタッフ持たせてもらったら結構重かったんだよね。照準を咄嗟には合わせられないなアレだと。

 やっぱりわたしはステッキサイズが丁度いいだろうな、と思う。幸いにもそれで十分相手の魔砲少女には当てられるから高望みして近接戦を犠牲にする必要もないだろう。 


「そう言えば先輩、魔砲衣っていつも着ているユニフォームの事ですか?」

「ええ、そうよ。仮入部でも説明したけれどスタッフとソードはパーソナルパイロンと連動して駆動するから、ブレスレットはいらないけれどスタッフだけ欲しいって客の為に貸し出してくれるのよ。ただし、本っ当に必要最低限の機能しかないから、正直お勧めしないわ」

「えっ?」

「んー、あの人を見てもらえればわかるかしら?」


 そう言って鳴海先輩が指差した先では大人のお姉さんが射撃を楽しんでいるようだった。ただし質素なローブ姿に身を包んでいてとても魔砲少女とは思えない。むしろ修道女と言われた方が納得するだろう。


「……どうしてあんな姿なんです?」

「言ったでしょう、必要最低限のユニフォームになるって。学校とか企業とかプロチームだと自分達をアピールするために洒落たデザインのユニフォームになるけれど、本来はあれで十分なのよ。何なら作業着仕様もあるらしいけれど?」

「あ、あっちの方でいいです……」

「だから今度来る時はブレスレットだけでも持参した方がいいわね」


 あいにくまだ一年生は学校指定のユニフォーム仕様のブレスレットは無い。と言うか今日ここに来たのはそれの品定めの意味がある。折角華やかな姿になれるならそっちの方がいいに決まっているじゃあないか。くっそー。


 店員が人数分の指定したスタッフを運び入れてきたのはわたし達が着替え終わった頃だった。わたしと豊依のステッキサイズのスタッフ、葵のワンド、そして鳴海先輩のスタッフか。さっきは新品だったのでわくわくしたものだけれど、こっちは若干使い古されているのか持ち具合がよりしっくりくるので不思議だ。

 わたし達は各々のスタッフを手に取って縦一列に並んだ。あいにく横一列になれる空間も無ければ標的も無い。ただで試し撃ちできるだけ有難いと思わないとな。まずは葵から二十五メートル先の標的めがけて狙いを定める。


「もうちょっと脇を閉めて。それからスタッフの反動は腕だけじゃあなくて上半身で支えるようになさい。あとワンドだからって撃ち慣れない間はちゃんと両手で持つの」

「は、はいいっ」


 鳴海先輩は葵の傍らに立って手取り足取りで構えの姿勢を正していく。今までスタッフで培った姿勢にも通じるものがあるけれど、ちょっと長さが違うだけで微妙に違うものだな。


「標的は撃ち抜いたらすぐに別のが用意されるから、遠慮なく連射しちゃいなさい」

「は、はい!」


 葵は立て続けにワンドから光弾を射出させた。何と言うかスタッフから放たれる光弾とは明らかにサイズが違うけれど、標的を射抜くだけの威力はあるようだ。ぶら下げられた円がいくつも書かれた紙状の的に次々とゴルフボールサイズの穴を開けていく。

 何枚も紙を撃ち抜いていくものの円の中心には命中していないようだ。まあ、人間の体の大きさを考えると円の中にさえ当たっていれば十分相手に損傷を与えられるんだけれど。部活でスタッフを使っていた時より命中精度が目に見えて上がっている。


 一通り撃ち終えた葵は大いにはしゃいだ。こんなに嬉しそうな葵を見るのは初めてな気がする。


「す、凄いですぅ! ちゃんと標的に当たります!」

「へえ、美合さんはワンドの方がいいかもしれないわね。撃ち慣れたら二丁目に手を出すのもありだと思うわよ」

「は、はいっ!」


 葵は満面の笑みを浮かべてワンドを優しくなでた。これで葵のスタッフは決まったけれど、彼女のパートナーとなるスタッフはその試射用のじゃあないでしょうよ。もしかして軽く興奮して忘れていないだろうか?

お読みくださりありがとうございました。

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