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装備品を整えよう②・専門店

 放課後、授業を終えて廊下に出ると、階段付近で鳴海先輩が待ち受けていた。スカーフの色から三年生だと丸わかりな上に容姿が明らかに一年生のそれと違って大人に近づいているものだから、非常に目立ってた。

 先輩はわたしに気付くと手を軽く振ってくれた。


「お疲れ。あら、豊橋さんだけ?」

「わたし達は全員クラスがばらばらなので。でも同じ時限で授業終了ですから、ホームルームが終わったら出てくるんじゃあないです?」

「ちなみに他の一年生のみんなは誘ったの?」

「もう自分の装備を持ってる経験者を誘ってもしょうがないですし、他の初心者のみんなは都合が悪いらしいです」


 これは本当だ。なのでわたしからは神薙にすら伝えていない。まあ多分神薙には豊依が言い出してくれると思うから出る幕が無いと思ったのもある。葵は……引っ込み思案だから他の人に積極的に声をかけるのは想像も出来ないな。

 そんな他愛のない話で時間を潰していると、程なく豊依と葵が姿を現した。豊依は髪をかき上げて鳴海先輩にお辞儀をし、早足でこちらに向かってくる葵は大きく頭を下げてきた。


「すみません鳴海先輩、待たせちゃって……」

「ありがとうございます、わざわざ私達の為に貴重な時間を使っていただいて」

「いいのよ別に。今日は部活も無いしね。それに二年前は右も左も分からなかった私の方がこうして先輩に連れて行かれたから。三人共三年生になったらこうして初めての子に優しく教えてあげるのよ」

「「「はいっ」」」


 わたし達の威勢のいい返事に満足したのか、鳴海先輩はわたし達を引き連れて学校をあとにし、一路専門店を目指していく。

 空を仰げば雲が少しかかる程度で晴天と言ってよく、初夏も近づいているのか冬らしさは完全に無くなって温かい。こんな日に外に出て運動すると気持ちがいいに違いない。授業を終えて部活が無い生徒達がわたし達と同じように帰路に付いていて、同じ制服の子達が多く目に入ってきた。最近ほとんど授業が終わったら部活に勤しんでいるからこうした光景はまだ目新しい。


 そう言えばわたし達は下校途中で寄り道する形で専門店に行こうとしているけれどいいんだろうか? 入学の際に貰った生徒手帳をまだ全部は読んでいないけれど、下校で寄り道しないとか決められていないだろうか?


「この時間だったら別に補導とかされないから大丈夫よ。迷惑かけなきゃ店から学校に通報とかしないしね」


 鳴海先輩に一応伺ってみるとそんな返事が返ってきた。本来節度を守るべき運動部の副隊長がこれでいいのか、と頭をよぎったもののまあ先輩がこう言うのだから、と無理矢理自分を納得させる事にした。こんな些細な点で頭を悩ませても仕方がない。


「ほら、ここがそうよ。結構広いでしょう?」


 学校から歩いて数十分のところ、幹線道路沿いに魔砲の専門店はあった。たまに自転車でこの通りは横切るけれど、こんな所にあったなんて今まで気が付かなかった。灯台下暮らしとはこんな事を言うんだろうか?

 剣道や弓道の道具を売っている店を想像していたのだけれど、店舗の建物はサッカーとかテニスとかのスポーツ用品店とあまり変わらない近代的な作りをしていた。一階部分の駐車場には多くの車が停められていて、どうやら人の入りは良いようだ。

 同じ感想を思い浮かべたのか、豊依も葵も少し驚いているようだった。


 早速中に入ってみると、広大な店舗の中には様々な魔砲用具が所狭しと並べられていた。日本の伝統武道と世界的なスポーツとで市場規模が全然違うからって、他のアウトドアスポーツと特に変わり映えしない品ぞろえには圧倒されるばかりだ。


「このお店はユニフォームのカスタマイズも出来るからパーソナルパイロンもここで選んでいいわよ。その際那古屋南中魔砲部ユニフォームに、って指定しないと駄目だけれどね」

「へええ……」


 わたしは展示されていたブレスレットに目を移した。傍に貼ってあった紙にはユニフォーム指定出来ますと謳い文句がカラフルに書かれていた。成程、所属チームごとに発注するとなれば大口になるからそれぐらいの融通はって所か。

 陳列棚には今朝鳴海先輩が渡してくれた紙に描かれていたような無骨なものから少し造形に拘りがあるアクセサリーとしても機能する一品まで並べられていた。成程、確かに普段あまり拘らないわたしでもこれには目移りしてしまうな。


 ある程度目星を付けた所で今度はマジックスタッフのコーナーに移る。こちらもアニメやゲームでしか目にしないような派手な装飾な物から本当に必要最低限の機能しか持たない棒まで様々な形が棚の左右に広がっていた。


「豊橋さんと美合さんは標準品で良かったかしら?」

「鳴海先輩、実はもうちょっと有効射程が遠いスタッフが欲しいかなって」


 これまで練習を積み重ねてみて一つ分かったけれど、そうやらわたしだったらもうちょっとだけ欲を見て遠くを狙えるような気がするのだ。今わたしが使っているスタッフは中学生の体躯でも悠々と扱えるサイズの標準品だからか小さい。そのせいで遠くに離れた相手に当ててもそれほど損害を負わせられないのだ。

 かと言ってさすがに神薙ほど超遠距離に特化したロングバレルスタッフにすると近距離戦での立ち回りが全くできなくなってしまうので、せいぜい小銃サイズで十分なのだけれど。むしろあれだけ小さな体格で自分よりも数十センチは長い得物を持とうと思ったものだ。

 鳴海先輩は少し呻ってから棚の少し奥側を指差した。


「大人が使ってるサイズのなんてどう? 初心者からプロまで幅広く、最も世界で使われてるメーカの作品なんだけれど」

「ちょっと確認してみます」


 それは部活で用いるスタッフより十数センチだけ長い代物だった。確かにメーカ品なのでお値段は最低限使える程度の標準品より高い。ただ実際に手に取ってみると持ちやすくてしっくりとくるし意外に軽い。それに質素ながらも拘った造形美があってこれぞ機能美なんだって言い出したくなった。

 とは言え、見た目と持ち具合が良くたって実際の性能が良くなければ全くお話にならない。カタログスペックなんて正直眉唾物だし、サンプル動画を眺めたからってプロの模範演技がカッコ良くたって自分が使いこなせないんなら話にならないだろう。


「鳴海先輩、これって試し撃ちとか出来るんですか?」

「大丈夫よ。正規に魔砲道具を売っているお店は大抵小規模ながら試射場があるから」

「成程ー、その点は心配なしでしたか」


 さすがに本みたいにジャケット買いするにはあまりに高価すぎる。それに手に取っただけでその素晴らしさが分かるほど魔砲には精通していないから、確かめない限りは博打に近い。中学生の身で一か八かに出るのはあまりに無謀だしね。

 一応他にもあるかと探してみたけれど、カタログスペックと見た目と持ちやすさ、そしてお値段の全てを吟味すると鳴海先輩が紹介してくれた一品が多少背伸びしてでも一番バランスがいいと感じた。さすがは最大手メーカの作品だと感心するばかりだ。


「美合さんはどうするの? 部でも使ってる標準品でいいのかしら?」

「い、いえ。実はあれだと結構持て余しちゃって……。もっと小型の物とか無いでしょうか?」


 一方の葵はわたしとは逆に普段使っていたスタッフはお気に召さないらしい。確かに練習の間もあまり命中精度は良くなく、動き回りながらだと光弾があさっての方向に飛んで行ってしまう。団体戦だとソードで近接戦をする味方のサポートの機会も多いだろうから、誤射はまずすぎるだろう。

 鳴海先輩は少し悩んだ末、陸上のリレーで使うバトンよりも短いスタッフを指差した。天井から立てかけられたワンドと書かれている案内看板の真下にあったものだ。


「あれぐらいならどう? ソードに小太刀やナイフサイズがあるのと同じでスタッフにも拳銃と同じ要領で使えるものもあるのよ。アレだったらルール上二挺拳銃とかも認められてるし片手でソード持ちながらもう片方で相手の腹に光弾撃ちこむなんて芸当も出来るわよ」

「そ、そうですね。あれぐらい小さかったらあたしにも……」


 葵ははにかみながらワンドの一つを手に取った。どうやらそれも業界最大手の海外メーカ作品らしく、所々でわたしが選んだスタッフと造形が似通っていた。メーカとしてのブランド意識があってデザインを統一しているのかもしれない。

 そうわたし達三人が話していると、いつの間にか奥にいなくなっていた豊依がスタッフを持ってこちらにやってきていた。それは豊依が普段練習で使っているものと全く変わらない種類で、連射性能はいいものの威力はさほど無いといった物だった。


「私は別に遠距離戦にはそれほど興味ありませんので。今までのままで十分です」

「んー、まあ豊依は近距離戦が鬼のように強いからなー。だったらスタッフを乱射して相手への威嚇に特化したままでもいいか」

「あ、あたしもこれで上手く当てられるようになるかなぁ?」

「まあ今日は目星を付けに来ただけで、買うお金なんて無いでしょう? ほどほどにしなさいよ」


 確かに鳴海先輩の言った通り、わたしの手持ちのお金は自動販売機でジュースを買える程度だから千円以下しかない。別に登下校で電車やバス使ってるわけじゃあないからカツアゲや紛失対策に最低限のお金しか持ってきてないのだ。

 どうも葵も豊依も同じのようで、わたしが見つめると露骨に視線を外してくれたりした。分かりやすいなあ。


「お、お年玉貯金を持ってきますぅ」

「私は箪笥の奥深くにしまってあった筈ですから、母親に頼んでみます」

「あー、わたしはお年玉とかの大金って定期預金に入れられてるかもなー。相談してみるかな」


 わたし達は高価な道具を揃えるべく金銭面でのやりくりに頭を悩ませるのだった。

お読みくださりありがとうございました。

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