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体験入部最終日⑨・脱落

 わたしと葵がマジックスタッフから光弾を発射したのはほぼ同時だった。特に合図は送っていなかったけれど、わたしの狙いは岡崎隊長で葵の狙いは隣の二年生の魔砲少女で見事にばらけた。わたしの一撃は狙い通り岡崎隊長の額に突き進んでいき……、

 ――隊長が前方に向けたソードに跳ね飛ばされ、脇の木へと直撃した。


「……は? はあっ!?」


 わたしは思わず身を乗り出してしまった。バランスが崩れて木の枝から落ちそうになったのを慌てて押さえる。

 さっき一方的に狙撃した三人と違って隊長はソードを構えて進んでいたのは確かに不思議だった。けれど、まさかスタッフからの光弾をソードで弾かれるとは思ってもみなかった。アニメとかだと銃弾を剣で弾く場面が度々あったけれど、それを実際やってのけるなんて。


「そ、そんな! あんな一瞬でバレットを防ぐなんて無理なんじゃあ……!」

「い、いや、出来なくはない。けれどそれを隊長がやってのけるなんて……!」


 いつ見たか忘れたけれどバラエティ番組でマジックスタッフからの狙撃はピストルやライフルよりも遅く、弓矢よりも速いんだとか検証されてたっけ。別番組でも射られた弓を手で掴む芸当を見せた達人がいたし、魔砲の試合で光弾を弾きながら間合いを詰めるプロ選手もいた。

 だから不可能じゃあないけれど、まさか正面きっての射撃じゃあなく身を潜ませた狙撃に対処するなんて思う訳がない。確か夏に生中継する高校生の全国大会でだってそんな技を見せる選手は稀少な筈だ。

 これが、全国大会出場校を率いる隊長の実力か……!


 歯を強く噛み締めるわたし。葵も目に見えて狼狽えているからどうやら外したらしい。


「ご、ごめんなさい穂香ちゃん、当てられなかった……!」

「外れたからって点数が引かれる射撃競技と違うんだから、当たるまで撃つまでさ!」


 わたしは気を取り直して再び隊長に狙いを……って場所移動してる!? そりゃあ狙撃されれば捕捉されないよう動くのは当たり前か。わたしは双眼鏡で大雑把な位置を捉えてから再びスコープで狙いを付け、今度は着弾時に隊長がいるだろう場所めがけて発砲させた。

 ところがその隊長、再びソードを振るってわたしの光弾を弾いたではないか。動きながら切り払うなんてとても現実とは思えない光景だ。わたしは立て続けに体調を狙い撃つものの、光弾は悉く叩き落とされていく。

 隊長は森の中を駆け抜けながらもこちらの方向へと視線を送ってきている。あの様子だと場所こそ特定されていないものの狙撃される方向に目途は立てたみたいだな。


「ひいいっ! 動き回ってたり隠れちゃったりして全然当たらない~!」

「葵、今すぐここを放棄だ! もう先輩達には居場所がばれてると思った方がいい!」

「え、ええっ!?」


 こんな動きようもない場所で反撃されたらどうしようもない。隊長達はどんどんこっちとの間合いを詰めてきているから時間的余裕はあまりない。もう安全に降りていたら間に合わない、多少無茶をしてでも木から降りないと……!

 わたしは決意を固めると自分が乗っていた枝に手をかけ、そのままぶら下がる。そして下の枝に足をかけて同じ要領でぶら下がり、を繰り返していく。足を滑らせても最悪戦闘不能になるだけで怪我はしないだろうから出来る無茶だろう。

 わたしの様子を見てか、葵もまた慌てて降り始めた。さすがにおっかなびっくりな挙動だから結構遅いけれど、足がすくんで身動きが取れなくならないだけ十分マシだろう。


「葵、そこからならもう飛び降りられる! わたしが受け止めるから早く!」

「う、うん……。……!? きゃあぁ!?」


 わたしが地面に降りてようやく葵が半分を降りた辺りで、わたし達の登った木の脇を狙撃と思われる光弾が通り抜けていく。それも単発じゃあない、明らかに複数人から狙い撃ちされている。まだ距離があるから精度はそこまで高くないけれど……。

 と、そのうちの一発が葵のすぐ傍、木の幹に直撃した。激しい光と熱が生じ、それに驚いた葵の身体が木の枝からずり落ちる。落下する葵の身体をわたしは何とか全身で受け止めた。地面に背中を打ち付けて激しい衝撃を感じる。けれど不思議と痛くはなかった。シールドって凄いな。


「だ、大丈夫かー?」

「え、ええ大丈夫。ありがとう穂香ちゃん」

「礼はいいから一刻も早く移動しよう。さすがにわたし達二人で五人も相手にしてられない」

「わ、分かった」


 わたし達は急いで身を起こすとその場から駆けだした。直後、わたし達がいた場所の近くを光弾が通り過ぎていった。早い、もうわたし達が降りたって突き止められたか。

 わたしは迫りくる先輩の方を見やった。視界に隊長の姿は映らず、スタッフを両手に抱えて突撃してくる二、三年生達三人が目に飛び込んでくる。わたしと先輩が撃ったのはほぼ同時、前転にも似た形に回避したわたしの腕を光弾がかすめ、わたしの狙撃は先輩のわき腹に直撃する。

 体勢が激しく揺らいだけれどまだシールドダウンまでは行っていないのか、突撃の速度を緩めようとしない。そんな彼女に葵からの一撃がお見舞いされた。さすがに怯んで一直線に向かってくる相手はもうカカシ同然だ。


「あ、当たった……!」

「あと二人だよ葵!」


 わたしは残った二人のうち一人に対して射撃を試みるも、走りながらのせいで狙いがうまく定まらない。光弾は完全にあさっての方向へと飛んで行った。これは本格的に移動しながらの射撃を練習しなきゃあ駄目っぽいな。

 葵は迫る脅威を前にスタッフを乱射しだすけれど、そのほとんどが残った二人にかすりもしないでいた。ただ何発かを先輩は大地を蹴って大きく避ける動作を取って難を逃れていた。ただ、それは突撃の勢いを無理矢理方向転換させたのもあって、隙ってものですよ。


「そこだあっ!」


 葵の射撃と合わせるようにわたしはスタッフを発砲させた。葵の光弾を身をよじって避けた先輩の体勢は不自然なものになっているものの何とかバランスを保っているようだ。そんな先輩にわたしの光弾が襲い掛かる。さすがに成す術が無くその身に狙撃を受けた先輩は崩れて地面に倒れ込んだ。

 あと一人……! そう意気込んで狙いを切り替えたものの、既に相手は結構近くまで間合いを詰めてきていた。既に相手はスタッフからソードに手持ちを切り替えて中段の構えを取っている。まずい、今から対応しようとすればソードを相手に向ける前に一刀両断されてしまう……!


「調子に、乗るな!」

「あああっ!」


 少しでも時間を稼ぐべく全力疾走で逃げようとまで考えを巡らせる最中、掛け声をあげて先輩の振り下ろしをソードで受け止めたのは葵だった。仮入部期間中しか素振りはしていなかったけれど、それでも手先だけではなく腰も入っていて中々様になっているじゃあないか。


「穂香ちゃん、今……!」

「凄いぞ葵! ありがとうな……!」


 わたしはすかさず先輩のお腹めがけてスタッフを向けて発砲させる。思わぬ威勢での防御にも動じずに切り替えして葵を両断しようと試みていた先輩は避けようもなく、その身体を九の字に曲げて膝を地面に付いた。


「これで三人! 残るは……!」

「――それは、もう豊橋さんが考えなくてもいいでしょう」


 そんなこの場にふさわしくないほど冷静で落ち着いた声が耳を撫でた直後、わたしの肩から股まで何とも言えない感覚が走った。あえて表現すると一直線に冷たい金属棒を当てられた、とか不意に背中を指で撫でられた、とかだろうか?

 痛みは無かった。ただこの不快感はあまり味わいたくないものだ。思わず振り向いたわたしの目に飛び込んできたのはソードを振り降ろしていた岡崎隊長と二年生の魔砲少女だった。呆けるわたしを見て眉間にしわを寄せた隊長は、指でわたしの額を小突いた。


「豊橋さん、美合さん。残心があるとまだ戦闘続行可能と思われます。今度は上手いやられ方も学んでいくべきね」

「……あ、はい」

「わ、分かりましたぁ……」


 ようやく現実を受け入れられたわたしと葵は大人しく膝を付いた。既にわたしが手にするスタッフや葵が持つソードにはめ込まれたクリスタルの輝きが失われていて、ずっとわたしを覆っていた淡く温かい光が限りなく薄くなっているように見えた。

 何の事は無い、わたし達は目の前の相手に夢中になってしまい、チームメイトを囮に背後を取った岡崎隊長に切り伏せられるまで気づかなかっただけだ。


 ああ、負けちゃったか。

お読みくださりありがとうございました。

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