「すみません。俺、レバー苦手なんで」って面と向かって言えたらどれだけ楽か
「レバー大好きだぜ!」って方はごめんなさい。
とある休日の夕方、雑用で少しだけ会社に顔を出して、その帰りに晩御飯を食べようと立ち寄った中華料理店。カウンター席に座り注文を終え、あとは出てきた料理をじっくりと味わうだけ……と思っていると、声をかけてくる者がいた。私の上司である。
上司は本社から来たお偉いさんと一緒にテーブル席で食事をしていた。明日、私達の事業所を視察するために前泊してきたとのこと。当然、私はお偉いさんと上司の付き合いに加わることになった。「一人でじっくり食べたいです」などとは言えるはずがない。
お偉いさんは酒が入って上機嫌だが、上司は車で宿まで送る必要があるのでシラフである。私も車通勤なので酒は飲めない。酒が入らないとテンションが上がらない私はお偉いさんの話に相槌を打って合わせるぐらいしかできなかった。
休日の晩御飯の時間帯とあって混んでおり、注文した料理はすぐに届かない。それを見かねたのか、お偉いさんが私に言った。
「おう藤田、腹減ってんならここにあるやつ食べていいぞ」
お偉いさんか上司が頼んだのかわからないが、テーブルには食べかけの料理があった。それは私の大嫌いなレバーが入っているレバニラ炒めだった。
食わず嫌いではない。子どもの頃に一度食べたことがあるが、あの変な食感と臭みのある味のせいで吐きそうになった。それ以来すっかりレバー嫌いになってしまった。
ちょっと前に焼肉屋の食中毒死亡事故が起きて、その煽りでレバ刺しが全面禁止になったが、火を通したレバーすら食べられない私にとってはゲテモノ食いにしか思えなかったぐらいである。
他にも嫌いな食べ物はあったが、年を重ねるにつれて克服していった。しかしレバーだけはいまだにダメだ。
遠慮しているとお偉いさんがまた「食べていいぞ」としきりに勧めてくる。上司まで「食べていいぞ」と言う。そこまで言われたら口にせざるを得ない。
私は意を決して一個、口に入れた。
うぐ!!
三回ぐらい噛んでギブアップ。吐き出すわけにいかないので水で無理やり胃に流し込んだ。生臭さがまだ口に残っているのでニラともやしを口にして「浄化」する。以降はニラともやしだけ食べるようにした。
レバーはほとんどが手をつけられず残っているが、お偉いさんは酔いに任せて自分が話をするのに夢中でレバーには気が向いておらず、何とかごまかした形になった。
そうしているうちに私の頼んだラーメンセットが届き、ゆっくりと好みの味を楽しむことができた。
しかし神様は食べ物を粗末にすることは許さない。お偉いさんは不意に、レバーの数がさほど減っていないことに気がついた。
「結構残っちゃったな、勿体ない。なあ、ここって残飯の持ち帰りはできたっけ」
「できますよ」
上司が返事すると、
「よし藤田、お前が持って帰れ。で、明日の朝ごはんにでもしろ」
えっ……。
うん、わかっている。お偉いさんは親切で言っているのだと。「いえいえ、貴方様が宿に持ち帰って頂いて飲み直しの時のおつまみにでもどうぞ」と言えればどれだけ楽か。
だが年齢差と役職の違いがそれを許さない。私も所詮はノーと言えないジャパニーズサラリーマンである。
私は泣く泣く、レバーが詰められた容器を受け取った。その代わりラーメンセットは奢ってもらった。
お偉いさんと上司と別れて帰宅した後、レバーの処遇について悩んだ。嫌いな物とはいえ食べられる物を棄てるのはバチが当たる。
考えた末に、家にあったキムチと混ぜてビールのつまみとして、その日のうちに食べきってしまうことにした。明日の朝ごはんにしろと言ったが、二日間に分けて嫌いなものを食べるよりは一日で全部食べてしまった方が苦しみは長く続かない。
レバー独特の生臭い味はキムチの辛さとビール苦さと酔いである程度ごまかすことができたので、何とか食べきった。
しかしこれでレバーに目覚めた……というわけではなく、もう二度と食べたくないという気持ちが勝った。次から中華料理店で外食する時は、お偉いさんがいないことを確かめてから店に行こうと固く心に決めたのであった。
昔はシイタケもヘドが出るほど嫌いでしたが、こっちの方はどういわけか今では平気で食べられるようになりました。




