異世界転移主人公はファンタジーを所望する!
ドアの先には真っ白な空間が広がっていて、かなり薄着の白い服を着た女性が立っていた。
思わずドアを閉めて周りを確認するが、いつの間にかドアだけがその空間に立っていて見慣れた便器はそこになかった。
いつもの様に、目が覚めてトイレに行って用を済ませた後、ドアを開いたらそこはよくわからない場所だった。
これだけだと自分でも何言ってるのか分からないが、そうとしか説明できないのだ。
これは多分夢だな、そうに違いない。
そうなると、夢の中でトイレに行ったと言うことは現実がヤバい気がする。
早く目が覚めろと少し焦っていると
「あの~、そろそろこっちに来てもらってもいいですか?」
不意にドアの向こうから声がかかった。
ドアの横から覗くと女性がニコニコしながらこっちを見ていた。
「因みに夢じゃないですからね。おねしょの心配もないですよ」
渋々ドアを開けて女性に近づくと
「おめでとうございます。あなたに異世界に行く権利が当たりましたよ。」
「へ?」
「だから~異世界に行けるんですよ。よかったですね」
「は?困るんですけど」
「じゃあ説明に入りますね」
こっちの意見は無視して説明に入る女性の話をまとめると
1.目の前の女性は、神様らしいが名前を教えてはくれないそうだ。
2.如何やら異世界に行くことが決定しているらしい。
3.一応剣と魔法のファンタジーだとかそっち系の世界らしい。
4.スキルと言う能力を後で選んで取得することが出来るらしい。
5.今の自分の存在は、ドアを開けたところで記憶や容姿をコピーされてこの場所に呼び出された存在らしい。
6.オリジナルは普通にトイレのドアを開けていつも通り生活しているので俺に帰る場所はないらしい。
「と言う事です。何か質問はありますか?」
「これを断るとどうなりますか?」
「良い質問ですね。
簡単に言うとあなたは消滅し別の方のコピーを呼ぶだけですね。
コピーなんで誰にも迷惑掛からないからこういう時、楽ですよね~」
貼り付けたような笑みを浮かべてそんな事を言う女神に思わず背中に冷たいモノが流れた。
選択の余地はないと言う事か、じゃあ行くしかないか。
このまま消されるのも面白くないし、折角異世界に行けるんなら楽しんだもの勝ちかな。
「如何やら覚悟は決まったみたいですね。
それでは、スキルの習得に入りますね。これを」
そう言って渡されたのは、A4用紙くらいの大きさの真っ白な石板だった。
促されるまま石板の表面に触れるとタブレット端末の様な感じに文字が表示されて取得するスキルを選ぶことになった。
表示としてはこんな感じだ。
___________________________________
残り100P
【取得予定スキル一覧】
【取得可能スキル】
【武器】
【魔法】
【生産】
【補助】
・
・
___________________________________
上に表示されている100Pを使い自分の理想とするスキルを取得すると言うことのようだ。
ゲームみたいだな。
異世界の詳細を教えてほしいと言ったら取得可能スキルの【知識】を見るように言われ、確認すると先頭に≪異世界知識≫と言うスキルが有った。
1000Pだった…取らせる気はないらしい。
他にもいろいろ100P以上のスキルが存在するが、どういう事か聞いてみた所-100Pなどと表示されているものは、取得することで逆にポイントが増えるらしい。
確認すると確かに-数Pになっているスキルが有ったがどれも微妙と言うか致命的なものが多かった。
取りやすそうなモノで≪体臭≫と言うのが有った。
スキルにはレベルが有り最大10段階まで上げることが出来るが、レベルを一つ上げるたびに必要Pが2倍に膨れ上がっていく仕様だった。
≪体臭≫は-5Pから始まって10まで上げると
5+10+20+40+80+160+320+640+1280+2560と言った具合で最終的に5000以上のポイントが獲得出来るのだが10まで上げると臭いだけで人が死ぬらしい。
レベル4で有名なくさいと噂されるヨーロッパの魚の缶詰と同じレベルの臭いを常時発生させながら生活を送ることになるそうだ。
しかも、実際の体臭では無くあくまでスキルによって発生するので必ず相手が嫌がる臭いを放ち、清潔にしても臭いが無くなることはないそうだ。
まぁ無理だな。
体臭がきついと自分のテンションも下がる。
あとは、≪睡眠≫だ。
これは、一日必ず数時間は眠らないといけなくなると言うスキルでレベルを上げることで必要な睡眠時間が2時間ずつ増える仕様だ。
レベル3で6時間の睡眠時間を必要として、もしこれを破ると強制的に睡眠状態に持っていかれるらしい。
つまり最大稼働時間が18時間で徹夜などが出来ない体になってしまうのだ。
因みに、送られる世界も一日24時間だと言うことは教えてもらえた。
レベル10まで上げると、20時間の睡眠時間と引き換えに約2000P取得出来たが、4時間では生活が儘ならなくなるのでこれは却下である。
取りあえずレベル4まで取得することで30P増やしてみる。
8時間くらいならどうにか生活できるだろう。
次に記憶を消すことでもポイントが増えるらしい。
元の世界での記憶をどれだけ引き継ぐかを選ぶことが出来る。
ここだけは、人によって違うそうで俺の場合は趣味に関する記憶だけはやたらと獲得できるポイントが多かったが、こういう異世界転移モノで趣味の記憶が役立つことは多々あるので消すのはやめておくことにした。
消すとするなら、家族や友人などの対人関係の記憶だろうか?
この女神の言うことを信じるならオリジナルは別にいるので俺がこの記憶を持っていてもホームシック以外の効果はないと思うのだ。
と言う訳で、対人関係の記憶を消すことで50Pほど取得が出来た。
後になってこの選択がどのような結果をもたらすかなんて、その時の俺は考えもしなかった。
そうして合計180Pで取得するスキルを選ぶことにした。
まずは、【武器】の項目を選ぶ。
想像以上に大量の種類が有った。
と言うか、剣関係の種類を細分化しすぎだ。
剣、小剣、細剣、片手剣、大剣、刀、日本刀、太刀…とやたらと多いのだ。
一応、剣や刀がそれに類する武器全般に対して効果があると言うが、やはり専門に扱うスキルより効果が低いようだ。
取りあえず、護身用に一つぐらい武器スキルの取得をすることに決めて棒を選んだ。
この棒と言うのは、かなり汎用性の高いスキルで一定の長さが有れば棒として認識するらしく槍の様なものから杖までと守備範囲が広いのが特徴だ。
剣道三倍段とかの言葉があるのである程度リーチのある武器の方が生存確率は高めな気がしたからだ。
初期値が1Pなのでレベル5まで取得して31消費だ。
レベル5あれば、熟練者レベルの補正が動きにかかるんだとか。
実際に動いてみないと違和感とかは分からなそうなので取りあえずこんなところだろう。
次は、【魔法】だな。
基本属性の火、水、風、土と各属性からの派生特化と思われる爆発や氷などの魔法と光・闇・時間など少し特殊な系統の魔法が有り、基本属性は1Pで特化が2P特殊が5Pとなっていた。
取りあえず基本の4つと特殊の光、闇、電気、結界、治癒、農業6個をレベル1で取得し34P消費した。
農業魔法は、植物から種を作りだしたり土壌の改善を促したりできる魔法が使えるようになるそうで、これで取りあえず野菜に困ることは無くなりそうなので取ってみた。
特化は数が多くて揃えるのは無理そうだし、基本を突き詰めれば再現できそうな気もしたので取るのをやめた。
魔法に関しては、余り高いレベルで取得して使い方を誤って自爆なんてしてしまったら目も当てられないし、いろいろ使ってみたかったのでレベル1で複数所持してみることにした。
向こうの世界で特訓すればレベルを上げることが出来そうなのでそこまで高いレベルでの取得は必要ないだろう。
後は、【補助】を取得して終わりかな。
【生産】系も考えたが、物作りには向いていない性格なので取りあえずスルーだ。
補助は、身体能力向上などの所謂パッシブスキルと言われる常時発動するタイプのものでレベルは無いみたいだが、総じて取得するためのポイントが高めの設定だった。
≪身体能力向上≫10P、≪視力強化≫10P、≪感覚強化≫15P、≪魔力操作≫10P、≪体内魔力増幅≫20P、≪アイテムボックス≫30P、≪幸運≫20Pで115Pの消費だ。
≪身体能力向上≫は、現在の能力に補正が掛かるのと上昇値にも補正が掛かっていくみたいで将来的には一番化けそうな割に同じような名前の≪身体能力強化≫と比べると半分くらいのポイントだった。
まぁその分、強化の補正値の半分と言うデメリットはあるが上昇値補正の効果で何時か逆転すると思われる。
≪視力強化≫は、遠くまで見えるようになるらしい。≪千里眼≫とか明らかに上位のスキルが有ったが100Pを超える代物だったので取得は諦めた。
≪感覚強化≫は、5感+αが敏感?になるとかで気配などが分かるようになるかもと言うことで取得した。
≪魔力操作≫は、コレが無いと魔法が使えないと言うまさかの罠が張ってあったので迷わず取得した。
≪体内魔力増幅≫は、取り込んだ魔力を効率よく蓄えつつ増やすことが出来るようになるそうで、此方も魔法を使うなら必要と思い取得した。
≪アイテムボックス≫は、異世界転移物の基本スキルだと思うので荷物のもち運びにも便利そうなので取得した。
≪幸運≫は、残った20Pの使い道を探していたところ目に留まったので取得した。
まぁここに呼ばれた時点である意味、運が悪いのでこのスキルで今後の運勢をアップしてもらいたいものだ。
これで一通りの設定が完了した。
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取得予定スキル一覧
【武器】
棒 Lv5 31P
【魔法】
火 Lv1 1P
水 Lv1 1P
風 Lv1 1P
土 Lv1 1P
光 Lv1 5P
闇 Lv1 5P
電気 Lv1 5P
結界 Lv1 5P
治癒 Lv1 5P
農業 Lv1 5P
【補助】
身体能力向上 10P
視力強化 10P
感覚強化 15P
魔力操作 10P
体内魔力増幅 20P
アイテムボックス 30P
幸運 20P
【その他】
睡眠 Lv4 -30P
記憶削除 -50P
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思ったより多くのスキルの取得に成功した。
後は、向こうの世界に馴染めるかどうかが一番重要な部分だな。
「やっと終わったみたいですね。」
「はい」
「どれどれ、なるほど。」
「何か変なところはありました?」
「いえ、そういう事への口出しはしませんのでどうぞお好きにしてくださいね。」
「そう…ですか?」
「はい、それでは準備が整ったようですので彼方の世界に送らせてもらいますねよろしいですか?」
「ダメって言っても、送るんでしょ」
「その通りですよ」
女神がそう言い終わったかと思うと、俺の視界は暗転した。
頭の中で先ほど設定したスキルを取得したと言うシステムアナウンスの様なものが鳴り響いた。
そして次に気が付いた時には、辺りは荒野だった。
疎らに生えた草地と荒野を横切るように辛うじて道が1本存在していた。
道と行ってもアスファルトで舗装されていないなんとなく踏みしめられている様な気がする程度ではあったがこれを辿れば町へ着くことが出来るのだろう。
さて問題は、どちらに進むべきなのかと言う事だろう。
道の先を視力強化と感覚強化を最大限に生かしながら確認したがどちらの先にも町を見ることは出来なかった。
取りあえず感に頼ることにして東に向けて歩くことにした。
勿論、この星と太陽の関係が地球と一緒とは限らないので違うのかもしれないが日が昇ると思われる方角に向かって進むことにした。
最初の10分くらいでただ歩くことに飽きたので、取得したスキルについて試しながら進むことに決めた。
取りあえず護身用に長めの棒を探したが見つからなかったので、魔法スキルを試してみることから始めた。
魔力操作については、趣味による知識でしかないが体を流れる力をイメージし、それを集めて指先に火が灯るように念じながら「火よ」と呟いてみた。
その瞬間、思いのほか大きな火が指先に現れ、本当に出たことにビックリして集中が途切れた性か直ぐに消えた。
今度は、火力の調整だ。
ロウソクの炎をイメージしながらもう一度唱える。
今度は、イメージ通りの炎が指先に灯ったので其れを維持しながら空中を浮遊するイメージを追加する。
指先から離れた炎がユラユラと空中を漂っている。
10分ほど漂わせたあと消して、今度は水魔法に切り替えた。
やることは同じだ。
宇宙ステーションなんかの映像で見た水の玉をイメージしながら「水よ」と唱える。
すると直径5cmほどの水玉が現れた。
こんども、それを指先から切り離して空中を漂わせながら形を変えて遊ぶ。
丸から四角や三角へ形を変えてみたり、2つ3つと小さく分けてみたり思いつく限り試してみた。
そんな感じで取得した魔法を試しながら、2時間ほど歩いたところで急に体がだるくなってきた。
これは、もしかして魔力枯渇と言う症状か?
朦朧とする意識の中、調子にのって魔力を使いすぎてしまったことを反省しつつ道端に座り込んで魔力の回復に努めていると、道の先から足音が近づいて来ていることに気が付いた。
もしかして盗賊襲撃イベントか?
そう思って、音のする方を確認すると大きなキャラバン隊と思われる集団が護衛を連れながら此方へ向かってきていた。
行き成りの対人戦イベントへの発展は低そうなので安堵し、出来る事なら近くの町まで一緒に行けないかとキャラバンがこちらの前に到着するのを待った。
それから、30分ほどしてキャラバンの先頭が目の前を通りかかったので話しかけてみることにした。
「すいません」
「何者だ!」
護衛の一団が一斉に武器を構える。
慌てて両手を上げて、敵意が無いことを伝えながら
「ま、まってください。
道に迷ってしまったので、出来れば一緒に次の町まで同行できないかと思いまして話しかけただけです。」
「怪しい奴だな。
なんでそんな恰好でこんな所をふらついてやがる。」
護衛の彼が言うのも尤もだ。
俺の今の格好は、寝巻代わりのハーフパンツにTシャツ1枚だ。
その上、足元はなんとトイレ用のスリッパをはいていると言う、とてもこんな荒野を歩くような恰好じゃない。
「怪しいのは認めますが、怪しくないです。本当です。お願いします。」
「駄目だ、ダメだ。お前みたいな怪しい奴を招き入れる訳にはいかんさっさと去れ!
でないと撃ち殺すぞ。」
「そんなぁ」
「どうした!何騒いでやがる!」
項垂れて道の隅に避けると一際がたいの良い男が声を荒げながらやって来た。
「隊長!そこの怪しい奴が話しかけて来たんでさぁ」
「ん?こいつか…おい!顔を見せてみろ」
言われるがままに隊長と呼ばれた男の顔を見る。
歳は40代だろうか?日焼けした肌に刻まれた傷が歴戦の勇士と言った雰囲気を醸し出していた。
明らかに戦っても勝てる気がしない。
「何だってこんなところに居やがる。」
「気が付いたらこの辺りに居たんです。」
思わす本当のことを話してしまった。
この男の前では嘘をついてもバレそうな気がしたからだ。
「ウソつきやがれ、こんなところにそんな恰好でこんなところある言ってる奴なんている訳、無いだろうが!」
「おい!俺が話しているんだ。少し黙れ」
「すいません、隊長!」
男が隊員を黙らせてこちらを見る。
何かを見定めるような視線を向けられながら何個かの質問に答えた後、何とか監視付きではあるがキャラバンへの同行が許された。
「隊長の気まぐれにも困った物よね。」
そう言って横を歩くのは、黒い髪をポニーテールで結んだ褐色の肌をした女性隊員だ。
俺の監視役として隊長に呼ばれてやって来て以降、愚痴が止まらない。
完全に聞き役に徹しながら、この世界の情報を得ようと話題を振り、ついに本命の疑問を投げかけることにした。
「すいません、それって銃ですよね?」
「ええそうよ、それが何か?」
そう、このキャラバンの主兵装は銃なのだ。
先程突きつけられたときにはビックリしていて気が付かなかったが、全ての隊員はアーミーシャツの様なものを着て右肩にライフルを立て掛けながら歩いているのだ。
「皆さん魔法は使わないんですか?」
「あははっ、何処の田舎からやって来たの?
今どき魔法なんて使わないわよ。銃の方が早くて正確でしょ。」
そう言って満面の笑みで銃をひと撫でする女性隊員。
おい女神!
何処が剣と魔法の世界だよ!!
思いっきり銃社会じゃねえか!
しかも、話を聞く限りだとスペースオペラ寄りのむしろSFの世界じゃねえか!
俺は!ファンタジーを所望する!!
これは、剣と魔法の異世界と騙されてSF系異世界に転移させられた、魔法特化スキル構成主人公の物語である。
お読みいただきありがとうございました。
如何だったでしょうか?
タイトル落ち?的な話が思いついたので書いてみました。