悲しい過去と未来
あれからどのくらい時間がたったのだろう、気がつくと僕はベンチの上で寝ていた。しばらく星を眺めていたがそれに飽きたのか、ベンチから起き上がり辺りを見渡していた。
暗闇の真空間、点々と光煌く星たち、草むらから綺麗な虫の鳴く音、前にも見たことのある光景だ。
「平和でのどかな宇宙だな、きっとまだラグナロクが起きる前なのだろう」
そういえば時を止めたんだよな。でも今は動いている。動いているってことは動かした者がいるってこと。一体それは誰なのだろう、何者なんだろう、わからない…けど動いてることは確かだ。それともこれは夢なのか、いやそれはない、自分の頬をつねったりしたけど痛みを感じるだけだ。
自分がこれは夢かと自覚ができるはずがない、もしかして明晰夢か?それならもうそろ目が覚める頃なのだが。
でも時間を止めてるときに夢なんか普通じゃ見れない。そもそも時間なんて止まってないんじゃないか?
まあ今はこんなこと考えてる場合じゃないとにかく自分の家に戻ろう。
自分の家に明かりが点いている。
「おかしいな…誰もいないはずなのに」
家は家族を失って以来妹と一緒に光の国スフィリア帝国に引越して今は廃墟になっているはず。自分は今でもたまにここへ来て家族との思い出の品の整理や片付けなどをしている。
玄関の門を開けた。この家、いや土地が広いせいか、門から玄関まで15m
もある。豪邸というわけでもないが中世の建物の造りをしており、周りの民家よりは綺麗だ。しかし、レンガ造りの割りに屋根に風見鶏をつけていてダサい気がする。
元々この家は父さんの友人からいただいたものである。なぜ家をくれたのかと言うとこの家が手に入る前まではとても貧相な生活をしていたからだ。
それを見た父さんの友人は、彼が可愛そうだ、このままでは飢え死になってしまう、それにわたしは病弱で余命も残りあとわずかだ。その面倒をみてくれたのが父さん、毎日朝早くから夜遅くまで友人をみていてくれたのだ。
それで友人は彼に家をプレゼントしたのだ。彼が嬉しそうになっているのを見て私は泣いてしまった。この幸せをずっと見ていたいと。
しかし彼の余命は残りわずか、これから幸せになってくる友人とは会えなくなる。最後に僕からお礼の手紙、お別れの手紙を書こう。
翌日彼はペンを握ったまま息を引き取った。私は泣いた。ひたすら泣いた。余命わずかなのは知っていたが、いなくなると寂しい。ああ私はこれからどうすればいいのだ、幸せを手に入れたが、大切な友人が無くなって私はどうすれば…
彼のベットの横にあるテーブルに手紙が置いてあった。
親展と書かれてある。中を見てみると丁寧な文字でこう書いてあった。
この手紙を読んでいるということは私はもう既に君のそばにはもういないだろう。私は病弱でとても臆病なたちの人間だった。ちょっとした風邪でも入院になったりで大変だった。ある日のことだった。私は少し心臓が痛くてね病院にいったんだ。そしたらガンだとわかったんだ。私はもう助からない、いつのまにか家族までに見放されていたんだ。ガンの治療は高いからね、そんなある日一人の男が尋ねてきたんだ。私に会いたいとね。それが君だと知ってとても嬉しかったよ。
もう死ぬ運命なのに、見舞いに来たんだってね、思わず笑ってしまったよ。余命もない私に見舞いだなんて、でもね君が来てくれたおかげであの家を引き渡すことができた。元は甥っ子にあげようとしたんだが、あいつらは生意気でね、私に向かって早く死んでくれねえかな、そうすれば家を、あの豪邸を手にすることがでるのに、とそんなことを言っていた。そんなやつらに家は渡したくない、だから君にプレゼントしたのだ。そうすれば問題ないって思ってね。でもあいつらはもしかしたら私の家に来るかもしない、でも大丈夫私がいつまでも君を天国から見守っているから。いままでありがとう
愛する友より
僕は涙がでた。声もでなかった。ただひたすら泣いた。
気がつくと僕はいつのまにか寝ていた。まだベットの上には遺体が残っている。これから処理をするのだという。それと消灯時間だから帰りなさいと看護婦に言われたので帰ることにした。
時計を見るともう9時をまわっていた。
家に着つくと妻が食べ終え食器を丁度洗っていた。
「あら、遅いじゃない」
「さっきまで病院にいってたんだ」
妻に僕の友人が最後に書いた手紙を見せた。妻は泣いた。僕は妻をそっと抱きしめた。
「はあ…今日は色々とあったな」
僕の友人が亡くなってから結構な時間が立った。そういえば甥っ子がいるとか言ってたな 明日甥っ子の家に行ってみよう、今日は寒いし疲れたから風呂に入って寝よう。
朝になると妻はリビングのほうでコーヒーを飲んでいた。11歳になる息子と9歳になる娘は学校に行ってしまった。今日は平日だが仕事は休み。
僕は朝のコーヒーを飲むため、キッチンへと移動した。その直後に玄関のインターフォンが鳴り響いた。
「警察です。とにかく話は署でいいますので玄関を開けろ」
警察?どういうことだ、僕は何もやっていないぞ。おかしいなと思い玄関の覗き穴から外の様子を見た。
若い警察が2人、中年の警察が1人いた。僕は恐る恐るドアを開けた。次の瞬間金属バットのようなもので後頭部を殴られた。
今日は学校、二時間で授業が終わるから楽だ。学校に通ってきて3年は経つけど、毎回クラス替えをするから慣れない。別にコミュ症とかそういうわけじゃないが人が多いとなんか緊張する。それに今日は自己紹介をし掃除をやって終わりなのだが、妹をまたなければならない。妹の授業も僕と同じだが、クラスの手伝いがあるらしく、またなければならない。
10時半になった。しかし遅い。少しイライラしながらそういった。午後はゆっくり家で寝ていたいのに。
この学校は魔法学園というところで、魔法の練習や基礎、習得方法、属性による弱点などいろいろとある。なかでも魔法大会といった行事もある。好きな魔法をひとつ選んで障害物を壊すというゲームだ。もちろん強力のあるものじゃないと壊せない。狙撃魔法や攻撃力上昇魔法・命中率上昇魔法などの補助魔法を使うことは禁じられている。反則で即退場となる。それ以外のことはしてもよい。
で、僕の属性は水なのでほとんどが補助魔法で強力な魔法があまりないためこの大会には出たことはない。属性は変えることも出来るが、やり方が大変なため属性変換をしている人を見たことがない。
「なに考えとんの~」
いきなり頬つねられた。そう、こいつが僕の妹イブだ。夏なのに長袖長ズボンをはいている。暑くないのだろうか
「そんな格好してると、熱中症になるぞ。」
スフィリア市の今日の気温は35度、猛暑だ。
「大丈夫、暑くないよ」
とかいいながらタオルで流れてくる汗を拭いている。やっぱ暑いんじゃないのか、冷たい飲み物をかってくればよかったな。まあそれよりかえるとするか
急に胸騒ぎがしてきた。なんだか嫌な予感がする。狙われている気がする。もしかしてアサシン(暗殺者)かなにかか?僕はいつ敵がきてもいいように隠密スキルの準備をした。ドクッと心臓の高鳴る音がする。本当に狙われているのかもしれない。手に汗を握る。しかし僕の予感はこれだけではおわらなかった。
家に着くと玄関の扉が開いていた。周りにお巡りさんが4人、医者が1人、刑事が3人いた。
「あ、あの…一体何があったんですか」
「近所の人から通報があったんだよ、隣の家から血の臭いがするってね、もしかして君のご両親かい?」
「う、嘘だろ…」
僕はその場に倒れた。
気がつくと僕はヴァルハラ宮殿の休憩室のベットで寝ていた。何があったのかさっぱりわからない。確か家族が殺されて…
「あれ?そうだったかなぁ…思い出せない」
なんでだ、ついさっきまでの出来事だったのに思い出せない。もしかして記憶喪失か?
「やあキース、実は君に頼みがあるんだ」
応接間から来たのはオーディン、過去にスルトとの戦いで負けてしまい、今は復讐の準備をしているってことだ。
「頼みとは…もしかしてラグナロクの件ですか?」
「その通り、でそのことなんだが君は地球という星を知ってるかね」
地球とは太陽系の周りを回っていて青く澄んだ色の星だ。この地球という星には酸素があり生物なども沢山いる。中でも人間という知能が高いものもいて言葉をはなすことができるらしい。
「知っています。ですがこれの話はラグナロクとどんな関係が…」
「地球にはな、彼を倒す方法が載っている資料がある。どのへんかはわからんが」
「つまりその資料を取って来いというわけですね」
「いやまだ行くな、話しは最後まで聞いてくれ」
僕はベットから起き上がり、彼の話をまじめに聞くことにした。
「でその地球という星のことなんだが、こっから行くとするとかなり遠い」
こっから地球までは100万光年もある。ワープ装置か何かがあれば…
「ですが、人間という僕たちぐらいの知識を持った者がたくさんいるんですよね?襲ってきたりとかはしませんよね」
「大丈夫、そういうときは人間に成り済ませばいいのさ、さあ急いでくれたまえ。時間がないんだ、しかしどうやっていくかだ。ワープ装置があるけど今は故障中だ、とすると…」
彼はテーブルの上にある書類をみながら
「そうだ。あいつに頼め、私の愛馬スレイプニルなら地球までひとっ飛びだ、よし早速準備をしよう」
スレイプニルとはオーディンが扱ってる伝説の馬のことだ。足が8本もあり空を飛ぶこともできる。ラグナロク戦でも登場している。とても優れていている。
「そういえば地球に行っても魔法とかは使えるが魔法力の3分の1になる、しかも回復できる手段がないからこれを持ってけ」
渡されたのはごく普通の腕輪。だがMP(魔力)を回復する効果を持っている。
「1日一回しか使えないから気をつけろよ」
「はい、では行ってきます」
「うむ…」
ヴァルハラ宮殿のホールまで戻ると、外から馬の鳴き声が聞こえた。あれが伝説軍馬スレイプニル。見た目は普通だが、頭にユニコーンのような角を生やしており、身体が普通の馬より、少し大きい。
「では、気をつけてください」
ヴァルハラの戦士、ベルセルクとヴァルキリー達がそういった。
そういえば今日からこの星とお別れになる。暫くは地球の方に滞在する予定だから、一回家に戻って荷作りをしよう。
家に着くとやっぱり誰もいない。妹はどこに行ったのだろう。家族が殺されて墓参りでもしてるのかな、僕も後で行くとするか。
よく見るとテーブルに手紙が置いてあった。
しばらく地球に滞在します。あそこは綺麗な海があって、美しい山もあって景色とかも素晴らしくてまるで夢の国みたなの、だから私は気分転換ってことで。私のことは心配しないで。それより体調とかにお気をつけて。
愛する妹 イブ
地球に滞在か、これから行くばしょなのに、まあ丁度いいか、仕事とはいえちょっとした気分転換にもなるし、でもこの家がしばらくの間留守になるな
「あら、出掛けるの?気をつけてね」
愛想がよく、面倒見がいい隣のおばさんがそういった。
「あの…しばらく地球に滞在しないといけないのでこの家しばらくるすになるのですが…」
「それなら私がこの家を見ていてあげるわ、それにしても地球にいけるのは羨ましいわ」
「でも仕事なんであまりゆっくり楽しめないですけどね、オーディンからの頼みごとなので」
妹もそっちにいるらしいからな。僕はリュックを背負いマップを取り出した。リュックの中には、水、着替え、一週間分の食料が入っている。そこまで準備しなくてもたぶん大丈夫だけど一応緊急時に備えた。
「じゃ、気をつけてね」
「はい、では行ってきます」
あれが太陽か、眩い光を放ちながら輝いている。そして、水星や金星、地球、土星、天王星、海王星の星が太陽中心に時計回りで回っている。
目的地はあの青く澄んだ星地球だ。
「よし、いくぞスレイプニル」
馬に鞍をつけて馬にまたがった。