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スクールトリップ In The Another World  作者: 厨二病@人間卒業なう
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プロローグ 身の上話

ダーク強めのファンタジーにしていく予定です。

お気に召しましたらブックマーク登録、評価などお願いします。


 人間は、分岐した道程の果てに死に行く。


人生とは、人間が生を得た時間の事を指す。そして、運命とは、切り開く分岐路を示す。


 幼稚園、保育園、小学校、中学校、高校、大学。成人し、大人と呼ばれるまでに人という生命体は幾多数多の二択を突きつけられる。二択、それは「受け入れるか」「拒否するか」である。


 エリートを目指し、出世街道まっしぐらとばかりに死に物狂いで生きる道もあれば、いつまで経っても親の脛を齧って寄生生活を送る道もある。倫理観的に後者は確実に人として終わりなのだが、道という言葉の前には善悪関係なく平等なものとなるのだ。


人間という生命体は、長くとも百年と少ししか生きられない。

幾星霜にも渡って紡がれてきた歴史を、紐解いては後世に託し、そうやって積み重ねられてきた。


だからきっと、生きるか死ぬかの分岐路からが、スタートなのだろう。


 生を受け入れるか、拒否するか。後世に自身の功績を残す為に、自らが先陣を切ってあらゆる理不尽や不合理を真正面から浴びて、尚理想を追い求める。その姿勢をいつまでも保てるのか、否か。


━━人間には二つの選択肢がある。


生きるか、死ぬか。


人間における最大の命題にして、一生解かれる事のない回答不可能な難問。

生きる意味、死ぬ意味。託す意味、手放す意味。


追い求め、突き詰め、理論を重ねて、事象を起こす。


人間はそうやって奇跡を巻き起こし、神さえも凌駕する圧倒的な技術を生み出してきた。

全ては選択肢の上にある。イエス・ノーの二進法で進んだ先に、世界はあるのだ。


しかし、それでも。


━━選ばない、という第三の選択肢がある、という事もまた然りなのである。


だが、そうやって回答を先延ばしにすればする程。

ツケとしてやってくるペナルティは酷く肥大化していくものだ。


それでも選択しない。先へ進まず、後へ退かず、その場で立ち尽くす。

その事を甘んじて受け止めて、受け入れて、体内で濾過されたそれは、正当性を持った矜持となる。


しかし、果てなく続く運命と輪廻の円環連鎖に、個人の矜持も何も関係した事ではない。


自然の理に反した罰は、唐突に、何の脈絡もなく訪れる。


それも。


その少年の周囲全てを巻き込んでしまう程の、途轍もない規模で。








◆      ◆      ◆








 昼間の呑気な日光をその身一杯に浴びながら、俺はくぁ、と伸びをした。


俺の名前は南城燈夜みなしろとうや、常磐第一という高校に通う高校二年生だ。


 常磐第一は県内屈指の実力を誇る進学校だ。日本最高峰の東京大学は勿論、世界に名高いハーバード大学やケンブリッジ大学への入学を決める生徒も数多くいる。


だが、俺は違う。

確かに、ここに入学した頃は俺も天才と呼ばれる程度には頭が良かっただろう。


でも、もうそれは過去の話。俺は今や授業を平然とサボっては、屋上で寝るのが日課になっていた。


「(………結夏のヤツ、真面目にやってんのかなぁ…)」


そんな俺ではあるが、時折気になる事は脳内を過ぎったりしてしまう。

特に多いのが、俺とは血縁関係には無いが、戸籍上兄妹となっている、妹の南城結夏みなしろゆいかだ。

 結夏は才色兼備の麗女として名高く、常磐第一の第二学年におけるマドンナ的存在である。頭脳明晰にして運動神経も抜群、その上人当たりの良い柔和な性格が相まって、今では男女共に人気を勝ち取っている。本来妬まれ、疎まれるその座に居座る彼女は、ある種のカリスマもあるのかも知れない。


俺と結夏は血縁関係にない兄妹だ。

無論、俺が結夏の事を案じる必要性は全くの皆無であり、その逆もまた然り。


だからこそ、結夏は俺を説得して授業へ参加させようとしない。

否、説得する事を放棄したのではなく、諦めてしまったというべきか。


「(…良いんだ、俺は、これで)」


ゴロリ、とコンクリートの上で寝返りをうって、そのまま仰向けの姿勢で空を眺めた。

何処までも続いていく果てのない青い空は、俺の悩みさえ吹き飛ばしてしまいそうだ。




 俺がこうなったのは、色々と理由がある。


まず一つに、俺の両親がもう既に此の世に居ないからだ。


 身体の弱かった母親は俺を産み落とすと同時に絶命し、父親は俺を六歳まで男手一つで育て上げていたのだが、育児と仕事の兼ね合わせで過労死してしまった。父親が所属していた会社の社長が、常々俺のことを気に掛けていたらしく、引き取ってもらうこととなり、今に至る。


つまり、南城家は俺にとって命の恩人にして父親の仇なのだ。


 現在当主を勤める南城久朋みなしろひさともは、当時のオーバーワーク気味だった父親を止めようとしなかった。その事に多少なり罪悪感を感じていてのことだろう、俺には好きな物を買い与えてくれたし、今後一切関与していく上で俺の自由を剥奪しないと固く誓ってくれた。


だから、俺は俺の自由を拘束されない。

生憎、金なら南城には幾らでもある。泡銭とでも呼ぶべきそれが。


だが、その悪行に加担しているのはあくまで南城の現当主とその妻だけだ。

娘である結夏は、その手を汚していないし、関与してないとさえ言える。


だから結夏は気に掛けつつも、俺はしかしながら南城の名を酷く恨んでいた。



……そして、もう一つ。


俺は常磐第一において、友人関係を上手く築くことが出来なかった。


 俺のルックスはお世辞にもカッコイイとは言えない。長髪は目元に至り、何処となく根暗な雰囲気を漂わせるし、皮肉っ気の溢れる語調は初対面では中々話しづらいものもあるだろう。俺は知らぬ間に仲良くなっていくクラスメイトを傍目に一人、過疎地域同然に孤立していった。


勉強はその頃から手をつけなくなった。

面倒になったのだ。学校というシステムが、コミュニティというしがらみが。


身の上話に過ぎないが、これでも学校に来てるだけマシと思って欲しい。

本来なら退学して、家でプータローをやっているトコロなのだから。


「(……帰るか。いや、保健室で粘るか? 授業中に道具取りに行くのは非常に怠いしな)」


ゴロゴロと寝返りを打ちながら、どのタイミングで道具を取って帰ろうか考える。

一分一秒が惜しかった。そのたった何秒間でも、俺はこの空間に居たくなかったのだ。


「(周囲は敵だらけ、身内も居ない。頼れる人間は誰一人居なくて、完全孤立。断崖絶壁。世界を相手に一人で戦うとかカッコイイんだけどな、俺には荷が重い。七十億を越える数の暴力に、たった一人の人間が、無力で抵抗の意思を持たない人間が、勝てるわけがないんだ)」


世界全てが俺の敵と言えた。

それは流石に言い過ぎだが、全世界統計の世界人口の約八割は俺の敵であろう。


 人とは大切な物を失って初めて失われた物の本質に気づく。だが、それは贅沢だ。失う物があるだけ、そいつには救いがいがある。俺には、失う物さえない。本質に囚われ、失うような物は持ち合わせないように心掛けているのだ。


飢餓に苦しむ子供達、貧困に喘ぐ子供達。

俺とは全く趣旨の違う辛苦を味わう彼らは、それでも俺の仲間と言えるに違いない。


彼らはきっと世界を恨めしく思っているはずなのだ。

その地に生まれたから、その時代に生まれたから、なんて言うのは都合の良い言い分だ。


それじゃあ、俺は生まれなければ良かったというのか。


 確かに俺という確立された生命体がもし存在しなければ、身体の弱い母親は俺を産むのと引換に死ぬことも無かっただろう。父親も俺を育てる事を放棄出来るのだから、過剰労働に励む必要性もない。そうだ、言ってしまえば俺が諸悪の根源だと言い切れる。


でも、時間は戻らない。何より、意思は揺るがない。

きっと、俺の父親も母親も、死を覚悟して俺を産み、育ててくれたのだ。


だったら、そう簡単に死に急ぐ事など出来るわけもない。

しかし、その実この世界は生き辛いものだ。自立だって他者に支えられなければ不可能である。


だからこそ、俺はこの場に甘んじている。

妥協している。事実を放棄している。現実から逃避している。


俺の体内に流れる時間は、相対的には動いていても、統計的には動いていない。

針は時刻を刻むが、それは空虚なものに過ぎず、底のない瓶に水を詰め込むような行為に近い。


俺というオンボロな機械を動かす為に、幾ら油を注いでも、重要なタンクに穴が開いているのだ。

ぽっかりと。直しようのない、不可解なまでの巨大な穴が。


「(…………はぁ)」


何度思考を重ねても、何度想いを募らせても、現状は打開されない。

俺という異分子がどんなに世界に働きかけたって、返ってくるのは無残な結果だけだ。

ならばいっそ何をするでもなく、与えられた時間を消費するのが真っ当ではなかろうか。


━━と、普段通りの曖昧模糊とした下らない自己弁護を呈していた所。


ぐわぁん、と視界が揺らいだ。

俺は気持ちが悪くなって、うっと軽く呻いて、平衡感覚を無くした身体で強引に立ち上がる。

フェンスに寄りかかるようにして、俺は呼吸も荒く、それでも昇降口を目指す。


「(……まさか、水分不足、か? 日光を浴びすぎた…? そんな馬鹿な、熱中症? いや、有り得ない。おかしい、身体がグラつく。まるで俺が豆腐か何かになったみたいに、骨が揃って丸ごと取り出されたかのように………うッ!?)」


ぐらり、と一際大きく揺らいだ瞬間、俺はその場に倒れ込んだ。

ぜひゅー、と気持ち悪い呼吸音が肺を通して響く。


視界の揺らぎは収まったが、しかし、今度は脳を直接揺さぶる衝撃を覚えた。

ガンガン、と海馬辺りを強引に鉄槌で殴り飛ばされるような、酷く重く、しかし連続する衝撃。


「あ……が、……うぇ…」


言葉にならず、紡がれた音は、静かに佇む空へと消えていく。

仰向けになって瞳孔の定まらない瞳で空を見上げ、右手を伸ばす。


「(……誰にも看取られずに死ぬのも、悪くはないな)」


ガンッ!! と脳を突き破るような激しい爆発音にも似たそれを感じ、俺は意識を失った。


暗黒へ引き摺り込まれる感覚に、しかし抗い難く俺は飲み込まれる。

望んでいた末路かも知れない、きっとこうなる事を心の何処かで期待していたのだろう。


━━だが、俺はその時知らなかったのだ。


まさか、俺以外の99名、常磐第一高校二学年全ての生徒が。

俺と同様の症状に冒されて、抵抗の余地なくその場に倒れ込んでしまったいたなんて━━━




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