夕暮れ、君から逃げて。
『笑満っていっつも笑ってるよねー。
どうやったらそんなに笑って生きられるの?うらやましい~。』
友達が言った。
『あははっ。簡単だよ?
だって、世界は楽しいことであふれてるでしょ?』
嘘。
心を殺せばいい。
幸せだと暗示をかければいい。
そうすれば、いついかなる時も笑顔で過ごせるのよ?
『えー?世の中は理不尽なことであふれてるでしょ。笑満ってホント不思議ー。』
『えー?そんなことないのにぃ。』
そのまま話題はうつろう。
窓から外を見れば秋の空。
寂しげに風が葉を揺らす。
(そう、心を殺して暗示をかけて。私は幸せよ?)
世界で一番幸せなお姫様。
うらやましいでしょ?
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「ふざけんな!!」
頬に、鈍い痛みが走る。もう慣れた。
「お前、誰にモノ言ってんだよ。ああ"?」
「……ごめんね?口出しすぎちゃった。次から気を付ける~。」
軽い口調で、笑う、道化の私。
「わかりゃいいんだよ。」
名前:篠田 陸
職業:下っ端ヤクザ
年齢:22歳
備考:私、秋咲 笑満の彼氏。
今日で付き合って2年目。
はっきり言って、彼氏は屑だ。
それでも付き合ってるのは、もうどうでもよくなったからか。
秋咲笑満、15歳。高校1年生。
中学2年の時、心を殺すことを覚え、幸せになる偽りの方法を見つけた。
今でも覚えてる、中3の教室、秋に交わされた会話。
「……イタイなぁ。」
ふと、つぶやくけど、誰も私の傍にはいないわけで。
彼氏?そんなのすでに外に出てったよ?賭け事しにいくんじゃない?
お金をたからない部分だけはいい奴かもしれない。まあ、冗談だけども。
「帰ろっかな。」
鞄を持って、家に向かう。
どうせ、家に何かあるわけでもないから途中コンビニによって湿布と晩御飯を買う。
あとお菓子?
「1034円です。」
ちょうど1034円はらって外に出る。
はぁ、と吐いた息が白く染まる。
「あぁ、もう秋から冬になるんだ。」
秋の夕暮。
紅い中を歩く、頬の紅い少女。
お似合いでしょ?
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誰もいない静まり返った教室。
「むぅ……。」
目を開けて、ぼんやりとあたりを見渡す。
「あぁ、寝ちゃったんだ。」
今日は何もないから構わないけど。と誰にでもなくつぶやいて、鞄をつかむ。
何気なく窓の外を見て、動きを止める。
紅い紅い空。
秋の夕暮。
白い雲はオレンジピンクに染まって、少し水色が混じってるところが綺麗。
「ねぇ、秋咲さん。どうやったらいつも笑ってられるの?」
外を眺めていると突然声をかけられた。
反射的に振り向けば、扉の前に立っている黒髪翡翠の瞳の猫みたいな美少年。
名前:有矢 斗鬼
年齢:16歳
備考:永琳学園高等部1年4組。
イギリス人のハーフだと言うクラスメート。
授業中は大抵ねてるくせに頭がいい。
「いきなりどしたの?有矢くん。」
笑って、話しかける。
「ん?何となく、気になって。」
一歩、近づかれて、一歩、後ろに下がる。
「うーん、簡単だよ?だって、世界は楽しいことであふれてるでしょ?」
中3の秋、中等部の教室であの少女に答えたのと同じ答え。
「嘘でしょ、それ。」
違うのは返ってきた答えと、問うた人。
「え?なんで?」
一歩近づいて、一歩離れる。
「だって……。」
トンと窓に背がつく。
彼の手が窓に置かれて逃げられない。
私は165cm、彼は192cm。
覆いかぶされるような感じ。
そっと、耳元に持って行かれる口。
「秋咲さん、目が死んでるから。」
少しの間、頭が真っ白になる。
「ねぇ、秋咲さん。答えてよ。ほんとの答えを。
なんで君はいつもそんなに上手に笑っていられるの?
……そんなに傷までつくって、どうして傍にいられるの?」
―――こ わ い―――
知られてる。
知られてる。
笑顔を向けられた。
いつも寝ている彼が笑う。
嫌な汗が背中を伝う。
本能が逃げろと告げている。
「…っいや!!」
それほど強く押し付けられてたわけではなかったみたいで、簡単に彼から逃れられる。
胸にかばんを抱いたまま、後ろを振り向かず、一目散に逃げ出した。
笑っているのに笑ってない心に気付かれた。
目が死んでいると気付かれた。
怖い。怖い。怖い。怖い。
あの、見透かすような翡翠の瞳を、はじめて怖いと思った。
(アレに、捕まっちゃダメ―――――。)