帝都への道
騎士団とメイドと一戦交えてからだいぶたった。
あのあとすぐ近隣の町で装備を整えた私は情報を求めて帝都へ向かう。かつて私を召喚した忌まわしの地へ。
保存食もだいぶ減った。地図を広げてみても王都まではまだ一週間以上はかかりそうだ。どこかでまた色々と必要になるものを買わなければ。
ふと、何か動く気配。私は買った安物の剣を抜く。全力で使えばまたすぐに壊れてしまうが無いよりはましだ。それに剣があれば何かと役に立つ。
茂みから出てきたのは小型の魔物だ。黒いウサギのような姿をしているが、鋭い一本角が生えていて、獰猛だ。基本的に群れで行動し、集団で獲物に襲い掛かる。
こうした知識も前回召喚されたときに身に付けたものだ。黒いウサギがもう一匹茂みから出て気た。
がさがさ、と音がする。まだまだいるようだ。私に狙いをつけていた一匹が突っ込んでくる。その自慢の一本角で私を串刺しにしようとする。
私は体を少し逸らす。それだけでウサギの直線状から離れる。私の横を通り過ぎていくウサギを切り落とす。もちろん首を狙う。地面に落ち切る前にウサギの頭を掴み、二匹目へ投げる。鋭い角がウサギの首に刺る。
たったそれだけで目に映るウサギはすべて死んだ。後は隠れているやつらだが、どうやら適わないと判断したのか逃げ出していた。
「今日の晩飯はこれだな」
私は二匹のウサギを回収してまた歩き出す。そして日が暮れそうになってきたので、野宿するために頃合いの場所を見つけ、野営の準備をする。といっても枯れ枝を集め、火を焚く程度だが。
町で買った解体用のナイフを取り出す。肉厚で頑丈なナイフだ。多少の無茶でも刃こぼれしない逸品だ。それでウサギの毛皮を剥いでいく。ウサギ二匹を木の枝に吊るす。足首のほうから皮を剥いでいく。基本的に四本足の魔物の解体はいつもこうしている。
血抜きは既に済ましている。内臓も取り除いている。その際に小粒の、アーモンドほどの結晶を見つけたが捨てた。
この結晶は魔力が体内で結晶化したもので、クォーツと呼ばれ基本的にどんな生き物にも存在する。勿論人間にも存在する。この結晶はどうにも魔力を生み出すためのものであるらしく、魔力が多ければ多いほど、クォーツは大きくなる。
だが際限なく大きくなるのかというとそうでもないらしく、人間なら拳ほどが最大だ。種族によって最大の大きさは違う。種族ごとの最大値まで大きく育ったクォーツはその後、純度が高まるらしい。
つまり大きくて透き通っていればそれだけ魔力を多く含んでいるということになる。それで先ほど捨てたクォーツは小さく、くすんでいた。これでは二束三文の価値にもならない。この魔物で金になりそうなものは角と毛皮くらいだった。
肉の塊とかしたウサギを一口大に切っていく。食べやすいように筋も断つ。その肉を枝に差し、香辛料やハーブを塗り込んで臭みを消す。あとは火のそばに置いて、焦げないように注意しながら焼いていく。
肉が焼け、肉汁が滴る。食欲をそそる匂いが立ち込める。香辛料もいい味を出している。そろそろ食べごろだろう。試しに一本試食してみる。
「うまいな」
野生で生きているだけあって肉の弾力は強く、脂身は少ないが旨みは十分ある。香辛料やハーブをふんだんに使っているだけあって臭みはない。
この世界の魔物は食用にできる魔物と食うに値しない魔物と二種類ある。今回のウサギは食える魔物だ。この世界の面白いところはゴブリンやオークといった人型の魔物も食えるところだろう。まあどちらもゲテモノの部類になるが。たとえばゴブリンやオークの睾丸は滋養強壮が高く、珍味とされている。
勿論、食べたいとは思わないが。
食後の運動も兼ねて、いつもの日課をこなす。安物の鉄製の剣を抜く。柄は何かの革がまかれている。滑り止めになるのかと問われれば微妙と答える。安物は安物だ。
剣を振るう。とても落ち着いた自然体で。飛び方を教わらなくても鳥が飛ぶように、泳ぎ方を教わらなくても魚が泳げるように。私は自然に剣を振る。横に薙ぎ、下から切り上げ、上から振り落ろす。それを止めどなく、途切れることなく繋げていく。
私の剣はほぼ我流だ。ほぼというのは剣の振り方などの基本的な部分をかつての仲間に教えてもらっているからだ。
一連の動きを続ける。機械が動作に異常がないか点検するように隈なく感触を確かめる。そしてどんどん加速していく。自分の限界まで加速し、限界を超えるために加速する。呼吸をする暇もなく、息が苦しくなる。それが限界に達し、私は停止した。
「くそがッ!」
自身の荒げる呼吸がうるさい、激しく鼓動する心臓の音がうるさい、酸欠で思考が定まらないことに腹が立つ。そして何よりこの程度で音を上げる自身の身体が情けない。かつての最高点を知っているだけにその落差に落胆する。
魔力を使えないとこの程度が限界か。
「どうにかしてチカラを得ないとまずいな」
思い出すのは最近の戦闘。メイドとの心躍った戦闘。氷属性の魔法と双剣の使い手。目を瞑らなくても鮮明に、あの時の殺し合いの光景を思い出すことができる。
あのレベルの強者はこの世界でのトップレベルだろう。あれが中堅レベルではチカラのバランスがおかしくなる。人間を辞めた強さだった。もしかしたらあのメイドはかつての勇者の仲間たちよりも強い可能性もある。あの特異な魔法も考慮するとそう結論がつく。
もしかしたらこの世界は私がいなかった五十年で大きく変化しているかもしれない。各国のパワーバランス、一定レベルを超えた強者、超越したといえるような化け物どもがいるかもしれない。
もしかしたら私は本懐を遂げれないかもしれないな。
私は焦りを感じながら、どうしようもない現状に焦れる。焦げ付きそうだった。
強くなる、強くならなくては、強くあらねば……
私は剣を振るう。これからもずっと。強くなるために。今日も剣を振るう。
数日が立ち、ようやく町に着いた。ここはどうやら帝都へ通じている道中、最後の町だ。ここから先はもう補給に寄れる町や村などない。魔物対策の城壁がそびえる町へ通じる門を通る。人の往来を監視している兵士もいたが特に反応はなかった。
今日はもう何か行動するのはやめる。宿で一日泊り、明日出発する。まずは宿を探す。王都ほどではないがそれなりに活気がある町だ。そして王都と同じようにここにいるのは人間のみ。他の種族はいない。やはり王国圏内にはもうた種族はいないのだろうか。そうこうしている間に宿を見つけた。
「いらっしゃい。おひとりかい?」
「ああ、翌朝まで頼む」
「はいよ。食事は?」
「必要ない」
「そうかい。じゃあ銅貨四十枚ね。先払いだよ」
「ああ」
受付のおばさんに金を渡す。部屋の鍵を渡される。取りあえず不要なものが多いのでまずは部屋へ。部屋はベッドと小さなテーブルしかない質素な部屋だ。私は背負っていた大きなカバンを下す。中には採取した魔物の毛皮や爪、保存食などが入っている。
まずはこういったものを換金して、保存食などを買うとするか。それからどうするか……
「まあいい。予定を済ましてから考えるか」
必要のない毛布や非常食をカバンから出す。売るものだけをカバンに詰める。一応用心のために剣は持っていく。宿屋の受付のおばさんにしばらく出かけると告げ、町へ繰り出す。
目指す場所はギルドだ。もちろん、ギルドには所属してはいないが換金するにはここぐらいしかない。他には商人に直接売り込むぐらいだが、売れるものもそれほどないので安く買いたたかれる。それならギルド員ではないため多少値引きされるがギルドで売ったほうがマシだ。
ギルドのいいところはどこにでもあることぐらいだろう。あとは一攫千金の夢が見れるくらいだ。私がいた五十年ほど前にはダンションと呼ばれる迷宮は存在していなかったがいつの間にかそういった場所が生まれていた。ますますゲームのような世界に感じてしまう。ダンジョンがあり、悪の権化たる魔王がいる。まるでファンタジーだ。けれども今私は生きてここにいる。ここはどうしようもなく現実だ。
ギルドについた。ギルドはやはりどこも同じような形態をしている。依頼を受注する場所であり、酒場でもある。冒険者と呼ばれるごろつきどもももちろんいる。老若男女関係なく、力があれば誰でも富と名声を得ることができる。冒険者、所詮は戦うことしか能がない人間の行き着く場所だ。
「買い取りをしてほしい」
「ではギルドカードを提示してください」
「登録はしていない」
「そうですか。登録なら銀貨一枚でできますが?」
「いや、いい。生憎、冒険者には興味がないので」
「そうですか。多少は値引きしますがよろしいですね。では素材を出してください」
そう言われカバンから魔物の素材や薬草などを取り出す。
「ラビーワールの毛皮と角がそれぞれ十本。黒牙狼の素材ですか。これを狩ることができるのでしたら冒険者として十分やっていけますよ?」
道中魔物のもそれなりに襲われたため、素材が増えていた。
「さっきも言ったが興味はない」
「理由をお聞きしても?」
魔王が出現し、魔物が狂暴化している今、冒険者の必要性が上がっている。勿論、使えない駆け出し同前の初心者でなく、ある一定レベルの実力者をだが。
だからこそこのギルドの受付嬢は私に目を付けたのだろう。
そこで私はギルドに所属すべきなのだろうか。前回は所属しなかった。帝国からのバックアップは万全でここにいる必要は一切なかった。だが今回、私の後ろ盾となる存在は一切ない。私は私というこの身一つで生きていく必要がある。
ギルドに所属するということは戦闘で生計を立てることができる。ギルドカードは身分証にもなる。だが単独でやっていくのは何かと面倒だ。何が面倒かというと必ずからんでくるやつがいる。それが厄介だ。一人で行動するのが私にとって好都合だ。それに金はそれほど必要としていないこともある。やはりギルドに所属するのは魅力的な提案ではない。
第一、逃げ出した私が目立つようなことをするべきではない。目立つ前提で考えてはいるが私の性格を考えると目立つだろう。強いものと出会ってしまえば、退屈に支配されている私の心は満たされるために戦闘本能を呼び覚ましてしまう。だからだめだ。まだ……
「何度も言うが興味はない。冒険者というものに何の魅力も感じないからだ」
「そうですか。そこまで言うのなら仕方ありませんね」
久しぶりにこの世界にきた私は忘れていた。私は神様というものにとことん愛されていないということを。




