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勇者の紹介

十六夜紅月、私は本名を名乗った。かつて使っていた偽名ではなく。これにはわけがある。どこまで前回勇者として活動した行動が知れ渡っているか知るためだった。私の本名を知っているのはほんの一握りで、今の行動に意味はないかもしれないが、確かめる必要がある。だが、その思惑は外れる。


「では勇者様がた、あなた方には超常のチカラが我らが母なる月神さまから授けられているはず。どうかご確認を」

「えっと、どのようにみるのですか?」


月島光輝がおずおずと王様に尋ねる。


「なんだお前ら、この世界に来て真っ先に気が付かなかったのか?」


黒月真宵が、疎い奴らだと呆れたように声を出す。


「目を閉じて意識してみろ。頭に声が響いて教えてくれる」

「あっ本当だわ。女の人の声がするわ」


かつての私も同じように自身のチカラを確認した。少し懐かしい気持ちになる。だがそれもすぐに消える。どうやらあの女神は私には新しいチカラを授けなかったようだ。それもそうか……


「ああ、でもチカラは育てなければいけないみたいだね」


三人の勇者は不安を隠せずにいた。特に黒月真宵はひどく驚いた様子である。最初から無敵状態でいるとでも思っていたのだろうか。


「それで、僕たちはどうすればよいのですか?」

「ふむ。前回にのっとり勇者様方にはこれから冒険の旅に出て、自らを磨き、勇者様方に与えられたチカラを育て、強くしていただきたいのじゃ。前回がそうであったので今回も踏まえようと考えているのじゃが……」

「わかりました」

「うむ。では旅に出てもらうとしようかのう」

「王様、僕たち四人でパーティを結成するのですか?」


すると大臣が進言する。


「勇者様方には別々に仲間を募り冒険に出ることになります」

「それはなぜですか?」

「勇者様方にはそれぞれ戦闘スタイルや適性が違うので、勇者様方に見合った仲間を見つける必要があります。具体的に申し上げますと、月島光輝様は前衛、騎士職。黒月真宵様は後衛、弓職。大山美月様は後衛、魔法職。十六夜紅月様は前衛、剣闘職となっております」


これには驚いた。なぜこうまでも知られているのか。その疑問はすぐさまわかる。


「詳しくはこの石版に刻まれているからでございます」


大臣が抱える石版に私たちの大まかな情報が刻まれているようだ。いったいどの程度わかっているのか気になる。だがそれはこちらから見えない。


「では仲間は明日用意するとしておこう。なにぶん、今日は日が傾いておる。勇者殿、今日はゆっくり休み、旅立つのがいいであろう」

「ありがとうございます」


それぞれの言葉で感謝を示し、その日は王様が用意した来客部屋で私たちは休むことになった。

そして私たちは今、一つの部屋に集まっている。


「はぁ……大変なことに巻き込まれたね、みんな」


光輝は溜息を吐く。しかしそれは期待に満ちた感情が隠せずにいる。


「何故私たちを呼んだんだ、光輝?」

「うーん、たいした理由じゃないんですけどね、十六夜さん。ただこうして出会ったことですし、親睦でも深めようかなと」

「そうか」

「それに十六夜さんのこと気になりますしね」


そういうと光輝はほかの二人を見やる。真宵と美月は同意するように頷き、質問を投げかける。


「どうして迷彩服なんてきているのかしら?」

「私は傭兵だ」

「へぇ、じゃああんた。人を殺したことがあるのか?」

「ああ、数えきれないほどな」


表情を変えることなく、淡々と興味無さげに言う私を見て、光輝は顔をしかめる。ほかの二人は少し驚いた様子で、だがどこか納得している。


「そんなことはどうでもいいだろう。今、話すべきことはこれからについてだ」


そう、これからについて。私がどう行動し、何をなすべきなのか。


「……僕はこの世界を救いたい」

「そうか」

「俺はごめんだな。いちいち死ぬような危ない目に飛び込んでいくなんて馬鹿がすることだ」

「それでも僕は見捨てることなんてできないよ」

「あっそ。好きにすれば。俺は俺の好きなように行動させてもらう」

「真宵君は何とも思わないの?」

「思うところはあるさ、俺だって。どうしようもないほど追い込まれて、勇者召喚という奇跡に縋るしかない奴らを哀れに思うさ」

「ならッ!」

「けど俺が死ぬのは納得がいかない。フェアじゃないだろ。それに無償奉仕するほど俺は聖人君主じゃないんでね」


勇者としての使命を放棄しようとする真宵を、光輝は悲しそうなまなざしで見つめる。


「少し落ち着きなさい、光輝君。真宵君も何も見捨てるなんて言ってないでしょ。死ぬほど危険な目に合わなければいいといってるじゃない。ということは無双できるほど真宵君が強くなれば魔王だって倒してくれるわ」

「おいおい、無茶いうなよ」

「だってそうでしょう。それに私も命を無駄にするつもりはないわよ。せっかくの異世界ですもの。楽しまないと損ってものよ。光輝君、あなたもそう思いつめないほうがいいわ」

「そうだぞ、光輝。これはゲームだって思えば気が楽だぞ。まあ実際ゲームみたいな世界だけど」

「ありがとう真宵君、美月さん……一緒に頑張ろうね」


そして三人がそろってこっちを見る。真宵と美月はお前だけ逃げるのは許さないぞと言いたげだ。無論、逃げるつもりはない。そして私は彼らとの親睦を深めていく。


「ああ、そうだ。みんなはどんな能力があるんだ?」

「何故そんなことを聞く?」

「何故って気になるだろ。ほかにどんなチカラがあるのかとか、自分だけすごく弱かったりしたらいやだろ」

「それもそうだね。僕の特殊能力は聖剣騎士。魔法適性は光と治癒だよ」

「へぇー俺とは逆だな。俺は魔法適性は闇と呪。特殊能力は鉄火の帳」

「私は魔女の礎。わかりやすく言えばすべての魔法に精通することかしら」


そして私も言うことになった。詳しくは教えなかったが。彼らも内容は言わなかったんだ。あとで文句を言われる筋合いはないはずだ。


こうして勇者との会話は終わる。私は私の目的のために行動する。

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