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死の都

町を出て数日。環境はどんどん変化していく。草木はどんどん減っていき、生き物の気配は少なくなっていく。空はどんよりとした薄暗い雲に覆われる。大気に充満している魔力は異常な濃度で、まだ生存していた自然に悪影響を与えている。


「すっごい場所だな、ルナクス。ナディア様はわくわくしてきたぞ」

「そう思うのはお前だけだろうよ」


普通の人間なら気を失ってしまうほど魔力の濃度は高いというのにナディアはぴんぴんしている。普通の人間より抗魔力が強いのだろう。私はというと魔力が充満している環境は平気だ。もともと莫大な量の魔力を内包していた器は現在は空っぽだ。器を満たそうと身体が貪欲に魔力を吸収しているが、満たされる気配はない。そもそも吸収しすぎているせいで魔力の濃度が私の周囲だけ下がっている気がする。だからナディアも平気なのだろう。


時折、見たこともない魔物が現れる。


「今度はすごいな。頭が二つあって足が六本もある狼だ。しかもでっかいなー」


わくわくとした顔でナディアは現れた魔物に襲い掛かる。巨大な大剣を体の延長のように自在に扱いながら、魔物の手足、首を切断していく。魔物が弱いわけではない。ナディアが強いだけだった。


魔法は身体強化系だろう。身体能力を上げて大剣で敵を殲滅する。大まかに分類すれば私と同じタイプ、圧倒的な身体能力を武器に戦うスタイルだ。


「どうだ、ナディア様は強いだろ」

「そうだな」

「おいルナクス。もっと気持ちを込めて言え」

「はいはい。先行くぞ」


気が狂いそうな魔力濃度。捩子曲がり枯れている木。水分を失い乾ききった大地。かつては清らかだった川はどぶのような色をしている。さすがにナディアは気持ち悪そうにしている。


「お前、ここで休んでいろ」

「馬鹿言うな。せっかくここまでこれたんだ。もっと行くぞ」

「死ぬぞ?」

「ナディア様をなめるな」


だがいくら虚勢を張っても限界であることは明白だ。息は上がり、思考はままならず、意識の混濁も始まっている。典型的な魔力酔いだ。このままでは最悪死ぬだろう。


「しょうがない。お前はもう帰れ。足手まといだ」

「くっ……」

「いくら馬鹿なお前でもわかるだろう。ここは人間のいれる場所じゃない」


じゃあ私は何なのだろうな。人間なのか、人間じゃないのか。


「しょうがない。お前がまともでいれる場所まで戻るか」


それでもわがままを言うナディアを置いてきた私はようやく帝都についた。かつての美しかった帝都の街並みはもうない。いまだその姿を残しているのは巨大な城壁と城ぐらいだ。


「一体何があったんだろうな」


ここに来てみれば何かあったのかわかるか期待したがだめだ。時間が経ちすぎていて痕跡は風化している。民家の扉を開ける。腐りきった木の扉は壊れてしまった。民家は荒れ果てていた。そしてこの家の家主の姿もある。家族だったのだろう。干からびて朽ち果てた亡骸が三つ。寄り添うように横たわっていた。


逃げる暇もなかったのだろう。他の家も覗いてそう確信する。本当に突然だったのだろう。突然、人間には、いや生物には生存を脅かすほどの魔力に襲われた。あまりにも唐突に意識を奪われ、そのまま死んでいけただけ、まだ安らぎはあった。


そして私は原因であるものを見つける。城の頭上。大きくて巨大な黒い太陽のようなものがある。その黒い穴とでも呼ぶべき黒さのある球体から尋常ではない魔力があふれ出している。


「一体、あれはなんだ?」


確かめるために私は城へ向かう。だがその足を止めざるを得なかった。剣を抜き、後ろへ振り向く。


「なんだお前?」


そこにいるのは長い黒髪の男。瞳は怪しく輝く紅色。手には長い杖。先端に魔法石がついている。材質は不可思議な光沢を放つ金属製だ。服装は黒のローブ。歳は私とそう変わらないはずだ。そんな男がここにいる。生物の立ち入りが許されないこの場所に。


「俺はバアルだ。そうだな。ナディアの仲間といえばわかるか」

「そうか」

「すまなかった。かなり振り回されただろう」

「そうだな」

「いきなり置手紙だけのこして出ていったから慌てて追いかけてきたんだ。それで俺の仲間がナディアを保護しているから心配しないでくれ」

「ああ、助かる。ここまでついて来ようとして困っていたんだ」


けれども私は抜いている剣を納める気にはならない。この場所にいて平然としている時点で普通でないことの証明である。そんな得体のしれない男を警戒しないはずはない。バアルと名乗る男も同じだろう。だから魔法発動の補助となる杖を握っている。


「それで君はここに何の用が?」

「自分の眼で見たかっただけだ」

「帝都を?」

「ああ。用が終わったのなら私はもう行くが」

「だが俺もここに興味が湧いた。ご一緒しても」

「……ああ、構わない」


そうしてバアルという名の男と一緒に探索することになった。妙な緊張感を持ちながらの探索はストレスしか感じなかった。そして城の粗方を探し終わった。


「あとはここか」

「そうだな」


城の中心部にある部屋。巨大な扉から漏れ出す濃密な魔力。嫌な魔力の波動だった。そしてこの場所は私が召喚された部屋であり、異世界へとこの世界を繋げる召喚陣がある。ナニカが呼ばれたのだろう。


バアルと名乗った男が扉を開ける。凶悪な魔力、それは衝撃を伴って私たちに襲い掛かる。


「なんだこれは?」


召喚陣は起動していた。それは輝き続ける魔法陣が証明している。魔法陣をよく見ると私が召喚されたときのものとは違った。そもそも魔法陣は巨大な一枚岩の上に描かれていたのだが、ここにあるものは床に血と金属と解けた宝石で描かれている。元々あった魔法陣は王国に強奪されているのだろう。だから私が今回も召喚されたことに納得できる。あれは魔王を倒す可能性のあるものを呼び出す効果がある。


だがこれは少し違う。魔法陣の意味が違う。単純に強大なチカラがあるものを呼び出すだけのものだ。しかもきちんとした計算の上での儀式的な意味のあった魔法陣を使用せず、急ごしらえな魔法陣を使用した結果、このようなことになった。本来ならこのような地脈や龍脈といった土地のチカラも考慮せずいい加減な計算式で作られた魔法陣は発動しないのだが……

幸か不幸か、偶然にしてか必然にしてか魔法陣は発動した。


問題なのが召喚陣の上にあるそれだ。この世のありとあらゆる色を混ぜればこんな色になるのだろう。黒よりもなお深い漆黒。ぽっかりと穴が開いているのではないかと錯覚するほど、その色は濃い。それは人型のナニカ。それが召喚陣の上でうずくまる形で横たわっている。この世の者とは思えない、生き物であると思えない。いや、それは生きてはいないのだろう。亡骸かそれとも抜け殻か。そしてこれが今回の魔王の欠片なのだろう。


私はかつてこれに似たモノを知っている。


「亡骸かそれとも抜け殻か」


驚いたことにバアルという男も同じ結論にたどり着いた。いったい何者なのだろう。だが今はそれに気を取られている余裕はなかった。私たちは感じ取っていた。何か良くないものだ。よくないことが起きると。こんなものを野放しにしていてはだめだ。


バアルと名乗った男が魔法の詠唱を開始する。莫大な量の魔力が周囲の濃密な魔力も巻き込みながら魔法へと変貌していく。


黒い異形のナニカを囲うようにびっしりと文字が刻まれた壁が四方八方を塞ぐ。その文字は魔法に使用される、かつて神々が使用していた神聖なモノであり、一文字一文字に複数の意味をもち、世界を変革させるチカラがあるものだ。


この神聖な言葉は発音しようが描こうがどちらでも構わないという特徴がある。要するにどんな手段であっても、この文字を表せれるなら何だっていい。


そしてこの男は発音しながら中空に文字を描いていく。


魔法が完成する。それは破壊神のチカラ。加護を受けていないはずのこの男が神のチカラを顕現させる。尋常ならざることをこの男は成し遂げていた。


破壊神のチカラの残滓に過ぎないそれでも、その効果は絶大だった。黒の異形は粉々に砕かれる。その結果、この黒の異形から生み出されていた濃密で禍々しい魔力の発生は止まる。これから何十年と時間を経れば異常な魔力濃度は下がっていくだろう。


「……これは早急に対策を考えなければならないな」


バアルはそうつぶやく。このような異形の本体はまだどこかにいる。それがどのような災厄を撒き散らすのかは不明。我が身に降りかかってきても厄介極まりない。


「ここにきて正解だった。これはだめだ。よくない」


世界はいったいどうなっているのだろうか。このような異端が生まれるほど混迷しているのか。あの女神の管理下にあるのではないのか、この世界は。


確かめなければならない。女神に会うことはできない。ならかつてチカラを借りた神々に会いに行こう。ここから一番近いのは風属性を司るウンドか。


「私はもう行く。バアル、ナディアにはよろしく言っといてくれ」


ナディアは連れてはいけない。彼女との旅は楽しかっただけに残念だった。


「おいおい。勝手に行くとナディアは怒るぞ」


その顔はこっちも面倒だからきちんと直接言ってからにしろと言っている。だけどそんなことに構ってはいられない。私は私のために生きる。私の目的のために行動する。


「それは任せた。またどこかでと言ってくれ」


私は全力で走り出した。人外のチカラをもってして私はこの場所から離脱した。






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