珍道中の始まりへ
俺はゴブリンと呼ばれる種族だ。
ありとあらゆる他種族に忌み嫌われ、蔑まされる種族。
スライムと同等クラスの力しか持たず、突出しているのは回復力のみ。
そんなことの何が良いのだろう?
スライムと同等に数えられてはいるものの、スライムには無限の可能性がある。
現に、現存する七体の魔王の内一体はスライムである。
それに比べて俺達はどうだ?
スライムの特徴が類い希なる『環境適応能力』。
魔王になることすらできる可能性のあるスキルだ。
一方ゴブリンの特徴は圧倒的『繁殖力』。
通常なら起き得ない他種族との子供を作ることの出来る能力だ。他種族から嫌われても仕方の無いスキルと言えよう。
…………………同じ最底辺(ワースト1位)の種族ですら、この差だ。実質ゴブリンが最底返でも問題ない。
しかしこう言う者も居るだろう。
ゴブリンには、スライムには無い『知恵』というモノが有るではないか、と。
本当に?本当にそうか?
本当にそうだと言うのなら、どうか今までの俺の日常を見て欲しい。
◆◆◆◆◆
俺が生まれて一ヶ月頃、人間の冒険者が洞窟のある森に入ってきたことを斥候が伝えてきた。
「ギィ、ギギギギィ(ニンゲン、メス、メス、オス!)」
「ギギ、ギギギギィ!(オス、コロセコロセ!)
そうして他の仲間たちは、人間共を倒すために森の奥へと消えていった。
…………………………………………全然帰ってこない。
え?何それ。もしかして殺られたのか?
そう思った俺がまだ回らない口で必死にどうなったか聞くと、
「ギギ、ギギギギィギィ。(ダイジョウブダ、モンダイナイ。)」
あ、そうなの。まだ倒すのに時間が掛かっているだけか。
ホッと一息つくと、安心して周りを見渡す。
以外と俺以外にも赤ちゃんゴブリン多いな。
その後しばらくウトウトしていたんだが、斥候の金切り声で目が覚めた。
「ギギギギィギィギィギィギィギィギィ!(ナカマ、ゼンメツゼンメツゼンメツ!)」
「ギィギィギギギ!(アダウチアダウチ!)」
と、アホみたいに騒いでいたゴブリン達もやがて眠くなったのか次々に倒れるように寝やがった。
まぁ、これはまだましな方だ。
本当に俺が『ゴブリン』に愛想を尽かしたのはそれから大体一ヶ月後ぐらいだったと思う。
まあそれまでも同じ様なミスをし、ソレを見る度にイライラがつのっていた俺もようやくマトモに力を出せるようになり、小動物などを堅実に捕まえていた。
「ギギギギギギィギギギ!!!(テキシュウ、テキシュウ!!!)」
「ギギギギギギィギギギギィ!(テキ、タクサン。メス、タクサン!)」
「ギギギギィ!(メス、トラエロ!)」
「ギギギギィギギギギィ(オス、コロセコロセコロセ!)」
洞窟に潜った俺が見たものは、十人程度の何かの毛皮で作られた防具を着込み、大剣や杖、弓などをつがえた人間とゴブリン達が対峙する姿だった。
正直な所、この時点でゴブリンに愛想を尽かしたのだと思う。
なぜなら、生きるものならどんな生物にだって分かる、強者の気配。捕食者の気配が人間のほうから濃密に流れ出ていると言うのに一向に逃げる気配すら無い。
そして愚策にも一体ずつバラバラに走りながら別々の敵に群がっていった。
そして、僅か数分後。
百体は居たゴブリン達は俺をのぞいて全て死んでしまった。
「あーあー、依頼で来たは良いけど割に合わねーよ。」
「だな。ゴブリンキングも出なかったしな。」
「そうそう、あの魔石がなかなか儲けとして旨いけどさ、出ないと鬱になるよなー。」
そう話しながら帰って行く人間達。
そして、俺は一人になったのだ。
◆◆◆◆◆
で、今俺は一人でボーッと空を見ている。
俺は何をするべきか?
まず、一人はイヤだ。
ゴブリン達が全滅してから今日まで寂しくて寂しくてしょうがなかった。
だから一人はダメだ。
でも、ゴブリンと一緒に居たくない。
そうすると、自然と他種族と一緒に居ることになる。
だが、俺はーーーいや、ゴブリンは嫌われ者だ。
どうする?
どうすればいい?
思いつかない。
せめて俺がゴブリンじゃなければ……………。
……………………………? ん?
いや、待てよ。
俺にはまだ方法が有るじゃねえか。
迷宮にある『進化石』。
アレを使えば俺はゴブリンから『進化』できる。
きっと蔑まされることも無いし、快く受け入れてくれる他種族も出てくる。
よし、迷宮に行こう。
そうして俺は一人静かに森を後にした。