空を飛んでみたかっただけ
プルプルと足が震えるのがわかる。
ヒュオオと風を切る音がして、私の背中を押していくよう。そんなに私に空を飛んで欲しいの?と問いかけても風が返事をするはずもなく、返事の代わりとしてかただただ私の背中を押してくる。あなたたちの助けなんかなくても私は空に羽ばたけるわよ、と嫌味ったらしく言ってみれば強い風がふき揺れるスカートに乱れる髪。
「あっ」
思わず声をあげてしまったのはあまりにも風が背中を押すものだから体が前に傾いたから。
何すんのよ、と口を尖らせ言ってみれば勇気がでないんだろと馬鹿にするようにピタリとやんだ風に苛立った。何よ、さっきまで早く飛べといわんばかりに背中を押してきたくせに、ずるい。
いいわよ、私独りで飛べるわよ、むきになり足をふみだそうとすればプルプルと震えている足。怖いわけじゃないわ、ただ風があまりにも寒いから震えてるだけよと自分に言い聞かせ踏み出そうとした瞬間、風は先ほどとは逆向きに私を突き飛ばすかのようにふくものだから私は思わずしりもちをついた。
「いっ……た……」
勢いがあったせいか、じわじわとくる痛みに苛立った。
何よ、何でよ。
止めたり、押したりして、何よ、馬鹿にして。
馬鹿にしないで、私は独りでも空ぐらい飛べるわ、自由に飛べるわよ、あの鳥みたく。
考えれば考えるほど自分がいまだ空を飛べていないのが身にしみて虚しくなって顔が熱くなるのがわかる。折角上靴だってご丁寧に脱いで飛ぼうとしてるのに、なんで飛べないの。
ぼろぼろぼろ、透明な水滴が零れ落ちる。全部、あんたのせいよ、風のせい。静かになんて泣けるわけないでしょう。わんわんと産声をあげるみたく泣いた、それさえも風は掻き消すものだからなんだか悔しかった。なんだか悲しくなってぎゅっと顔を膝にうずめる。ぼろぼろと零れ落ちるそれを無視してぎゅっと強く握ったせいで皺になったスカートの裾をまた握る。
すくりと立ち上がり、後一歩踏み出せば空を飛べそうなところまで行く。
大丈夫だと自分に言い聞かせて。
中途半端な私、せめてこれくらいは達成したいの、じゃなきゃどうせまた馬鹿にされるんでしょう。それなら私はあなたたちができないようなことを達成させてあげるわ、風だって空を飛ぶことはできないでしょう、流れるだけで。
下唇を噛み締める。
大丈夫よ、大丈夫。
ガチャリとドアが開けられて誰かが何かを叫んだような気もするけれど、私には風の音しか聞こえない。
私を馬鹿にするのはやめて、私だってできるんだから。
私に罵声を浴びさせるのはやめて、あんただって空をとぶことはできないでしょう。
ぎゅっと握っていたスカートの裾から手を離し一歩を踏み出す。
つぶっていた目はなにもかもみてやるといわんばかりにぱっちりと見開いて。
私は今日、空を飛んだ。
私ははじめて何かを達成できたきがしたんだ。
気分がいい、爽快だ、こんなに幸せなのははじめて。
私だっておちてくことしかできないのにね。
泣きながら叫ぶ地べたを這うひとたちのことなんてもう知らない。
私は今日、鳥になった。
ぐちゃりと醜い音をたてて。
書いてて悲しくなりました。