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おにく1000% ~おい俺の筋肉~  作者: 竹月 力内人
第0章 ダンジョンでマッスル100%
8/13

7.200日目

この年の瀬にインフルエンザで大変でした。仕事的な事も含めて。


戦闘スタイルの完成形への前振り的なものなので、今回は完全に説明回です。そして八極拳詳しい人には申し訳ないです。拳児が好きなんです。

知らなかった人にはちょっとだけイメージが掴めて貰えれば幸いです。



 様々な本で八極拳を調べた結果、わかったことを正直に述べようと思う。八極拳を学ぶことは―――不可能であると。

 そもそも武術を知識だけで得ようとした僕がバカだった。全ての武術家にごめんなさいと謝るべきだろう。最近筋肉が付いて調子にのっていたのだと思う。

 先ほど気付かされたのだが、100日間で得た僕の強さは、努力で得た強さとは別の強さだと言うことなのだ。

 確かに死線を超えた経験を得た。だがそれも最初の頃だけで、それ以降は安全マージンを取りつつ死なないように戦っていた。そして戦っているだけで強くなった。

 だからこそ勘違いしてしまった。説明書を読めば武術を覚える事が可能なのだと。

 読めばアビリティやスキルを覚えるかもしれないという甘い考えが頭の片隅にあったのだと思う。

 そして本を読んだ結論が、不可能という答えだった。

 なぜか、それは師事する相手がいないという致命的な事である。

 

 では今からでは何も出来ないのか。いや、それも違う。だから僕は八極拳を勉強する事にした。

 結局の所、師事する相手がいないのはどの武術も一緒。ボクシングだろうが空手だろうが、師事する相手がいない事は変わりない。

 つまり自己流の八極拳もどきをしようと考えたのだ。

 師事することで伝えられ教えられることは、本で得られないような事だろう。だけど、本でも得られる事も多々あるはずのだ。

 


 本を読み、自己流八極拳を覚える上で目標は一つ。〈発勁〉を出来るようになること。

 〈発勁〉とは、別に手の平から気の様なエネルギーを放つという意味ではない。本を読み自分なりの解釈になるのだが、まず〈勁〉とは運動エネルギーのようなもので、筋肉の動きから重心移動や重力など内的要因から外的要因まで、自らを動かす運動量エネルギーであろうと考えた。その〈勁〉を集約し一点にて発するのが〈発勁〉であるとしたのだ。

 例えばボクシングのストレートパンチを例に挙げてみると、右足で蹴り左足で踏み込む。ここに右足で蹴ったその運動量と重心を移動する運動量、重力によって踏み込む運動量。そして各種筋肉によって拳を前に出す各々の運動量。その全ての運動量を集約し最適のタイミングで拳を相手に当てる事で衝撃となる。この時の運動量が〈勁〉で、相手に与える衝撃を生み出す運動量が〈発勁〉と言える。

 筋肉の勁、重心の勁、重力の勁、全ての勁を把握し、最適に集約させ発する。これが〈発勁〉。

 〈発勁〉が出来るようになるには、動きの基礎を作ること。

 基礎を作るにはどうするか。套路とうろを反復練習し、功夫クンフーを練り上げる。

 套路とうろとは、空手や剣道などの型と言われるものに近い。型とはまた違うらしいのだが、自分にはその区別がまだわからないが。

 馬歩と呼ばれる馬に乗っているような姿勢を訓練する。基本功と呼ばれるこの訓練で姿勢の基礎を練功し、小架である小八極という套路で動きの基礎を練功し、大八極や六大開の套路で実技を練功する。

 本物の八極拳を使えるようになるならば、師事することでこれらの套路の秘訣を教えて貰う。秘訣は一つとは限らず、師事するべき師によって違うらしい。八極拳の中でも沢山の流派がありその数だけの套路があると言われている。

 しかし僕には師事するべき相手がいない。だから自分なりの秘訣を見つけなければならない。

 だからといって何十年も時間があるわけではなく、少ない時間で身につける必要があるのだ。


 そして僕の八極拳修行が始まった。タイムリミットとして200日目まで、約100日間を修行に費やす事に決めた。





 基本功は筋力があるからか1日ですんなりと出来る様になった。

 

 小架式の小八極の練習を始める。まずは筋肉の動きを考えながら練功する。次は重心だ。常に自分の中心を意識し身体のバランスから今自分の重心が何処にあるのかを把握する。次に重力だ。熊歩という歩法があり、身体の力を抜き、倒れる寸前で片足で一気に身体を支える。この歩法で沈墜勁という重力を使った勁を身体に染みこませる。そして最後に動作の一致。碾歩という歩法があり、歩を進める時に馬歩の体制に持ってくる。この動作で足から腰、そして腕への動きを一致させる。

 ここまで出来るようになるのに60日を費やした。残り39日。


 大八極の中から自分が使いたいと思える套路をピックアップし練功する。それと連動して他の中国武術の中から使えそうなものもピックアップしてしまった。無茶だけど時間が許す限りやってみる。


 最後の5日は中国武術で言う散打、空手で言う組手ができなかったので、モンスターで色々と考察しながら試したりしていた。


 そして200日目を迎える。消費した生活費100日で約20万。所持金の3分の2近くが消費された。




 

 スライムとの散打(?)にて、八極拳には関係無いが今まで気付かなかった事実が、幾つか判明した。

 まず一つが、攻撃力の変化である。攻撃と判定されるような攻撃ならば、噛みつこうがダメージが相手に通る。実際に噛みついたことは無いのだが。そして攻撃方法や力の入れ具合でATK以下のダメージが入る事だ。気合いの入れたデコピン一発でスライムを倒せたのは驚いた。ATKが上がれば気合いの入れてないデコピンでも倒せるようになることだろう。

 もしかすると発勁の出来た攻撃はATK以上の攻撃力が出せるのかもしれない。

 次に気付いたのはステータスに命中率と回避率が無いことだ。今までの戦闘を鑑みてみると、命中と回避はステータスに関係無く戦闘技術が関係してきているのではないかと推察できる。今まで素早いモンスターが出てきてこなかったので、避けられるという事がなかったのだが、今後素早いモンスターが出てきたときに、自分のSPDで当てる事が可能なのかが今のところの懸念材料の一つである。だからといってSPDを上げようとはまだ考えてない。それよりも筋量増やしたいからね。もしそのときが来たらその時で対策は考えてあるから大丈夫なはずだ。

 自己流八極拳の成果は想像以上に良い。今までやってこなかったのが悔やまれる程だ。

 ゴブリンを沖捶ちゅうすいという打突技で屠り、そこから隣にいたもう1体のゴブリンを外門頂肘がいもんちょうちゅうという肘打ちで屠った。今までのように只殴るだけだったのと比べ、なんとスムーズに倒せる事か。

 最後に確かめるべき事が残っていた。【マッスルハイ】中の僕が自己流八極拳を扱うかどうかだ。

 


 目の前のゴブリン2体に対し僕は頭のスイッチを切り替える。

 

 俺はゴブリンに向かい歩き出し、拳を握る。さぁ狩りの始まりだ。

 

 ゴブリンの1体が棍棒を振り上げ突っ込んでくる。


 とりあえずぶん殴る。拳を振り上げようとして―――止めた。筋肉が喜んでねぇ。

 

 俺は自己流八極拳の構えを取る。両拳を力を入れず軽く握り、右手を肩の高さへ、左手を鳩尾の辺りに持ってくる。右足を前へ弓歩という套路の形である膝が足の甲の上へと来る様に60°位に曲げ、左足は馬歩の形とする。

 構えをとると筋肉が喜んでいるのがわかる。


 これだこれぇ!

 

 そこから身体が正面を向く様に左足を右足より前へと動かす。この時右腕を前へと伸ばし、左拳を腋へと引く。


 もう目の前まで来ているゴブリンを確認しつつ左足を大きく踏み込む。重力も使った震脚。同時に右拳を引きつつ腰を鋭く回転、左拳を前へと繰り出す。沖捶ちゅうすい

 

「はっ!」


 パンッ!

 

 左拳がゴブリンの顔面に吸い込まれると同時に顔面が弾け飛んだ。


 崩れるゴブリンの後ろから隠れる様にしてもう1体のゴブリンが剣を持って飛び込んでくる。


 さっきと同じように今度は右足で踏み込み馬歩の形へ。さっきとは違い今度は右拳を引き肘を下から抉り込む様に前へ。裡門頂肘りもんちょうちゅう


「はっ!」


 ドンッ!


 右肘が飛びかかってきたゴブリンの胸へと当たる。胸に大穴を開けながら吹っ飛んでくゴブリン。


 きんもちいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!


 頭のスイッチが切り替わる。

 驚いた。ちゃんとやってることに驚いた。

 発勁を行う事で筋肉が生み出すパワーを無駄にすることなく使う。

 だからこそ【マッスルハイ】時の僕も自己流八極拳の方が良いと感じたのだ。俺も僕なのでよくわかる。

 


 

 自己流ながら武術を得た僕は、探索を再開する。もちろん八極拳の修行は継続しながら。



次話で一気に進みます。

次次話でダンジョン編も終わり、年内にはアップしたいです。


妖精さん《マッチョ》は出ませんでしたが、いつも後方にて応援ポージングしております。

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