1.1日目
ストック無しの順次投入。
少しだけ片鱗を。
視界を埋める白い光が赤く染まりだし、光が消えると【ワープ】する前とあまり変わらない空間にいた。
黒い10畳ほどの部屋というのは変わらず、ただ違うのは青白い光ではなく赤白い光が部屋を仄かに明るくしている。
振り返ると見覚えのあるドアがあり、開けた先は洞窟だった。
つまりあの部屋でのみ【ワープ】とショップが使えるのだろう。迷わないようにしないと不味い。
洞窟の広さは横に3m、高さも3mといった半円筒状型である。まるで大きな岩をセッセと掘り進めたようなゴツゴツとした岩肌に、所々に入る亀裂から水が染み出し、さらにその水によ
って光を発する苔のようなものが生えていた。気温としては15℃~20℃くらいか、少々肌寒さはあるが風も無く、湿り気のある空気が充満している。
何があっても良いように両手で釘バットを握り直し、ゆっくりと歩く。10mも歩かないうちに前方に光に照らされた何か半透明の物が見えた。
警戒しながらゆっくりと近づいていく。その半透明の物まで10歩程まで近づくと、ハッキリと確認できるようになった。
高さと横は1m程の丸形、乳白色の半透明の身体の表面をウネウネと動かしこちらに向けて動いている。
超有名モンスターであるスライムと言われたら納得の姿。ただゲームで感じるよりも大きくて気色悪い。
そのスライム擬きはこちらには気付いてないのか、動く速度は変わらない。試しに壁際に寄ってもただ道の真ん中を動いているだけで、こちらには来る様子がない。
気付かれないうちに先に攻撃するか、もう少し様子を確かめてアクティブなのかノンアクティブなのか確かめるか。
少し考えた先の結論はやばかったら逃げるという事で、様子を確かめる事にした。
まず釘バットで地面を叩いて音を出す――気付かないようだ。ノンアクティブの可能性が上がった。
次はいつでも対処できるように釘バットを構えつつ横歩きをしながら壁際を歩く。スライム擬きとすれ違うが、気付かれた様子がない。
スライム擬き、いやもうスライムで良いな。スライムはどうやらノンアクティブのようだ。こちらから攻撃しない限り大丈夫だろう。たぶん。
だが先制攻撃できるならこちらにとっては十分有利な相手だ。
もしもの時のために逃げ道確保するべく警戒はしながらもスライムの横を通り過ぎ、5歩の距離を取ってカウントを始めた。
スライムが2歩の距離まで近づいてきたら攻撃する。
4歩……3歩……2歩
今だ!
高校の授業で習った剣道を思い出しつつ、大きく右足を踏み込みながら、上段から釘バットを振り下ろす。
ドムッと鈍い手応え。だがスライムに何の変化も起きない。もう一発。一歩下がり右足を踏み込んでの上段からの振り下ろし。
ドムッと変わらない手応え。もう一発だ。同じ動きで下がり釘バットを上段に振り上げた時だった。
スライムの頭頂部から腕のような物が生えたと思った瞬間、胸に衝撃。
痛い!
痛みと共にHPが12減ったのがわかった。
硬直した身体に活を入れて釘バットを踏み込み振り下ろす。もう一発。下がったら今度は腹に攻撃をくらってしまった。
今度は10ダメージを負う。
痛みを堪えつつ踏み込んでの攻撃。
グシャッと釘バットがスライムにめり込むと、そのままボロボロと崩れおちていった。
何とか終わった。HPは22減ったようだが、打たれた胸と腹に痛みは残っていない。
とにかく初戦闘はクリアできた……あれ?
急に膝に力が入らなくなり、景色がグルグルと回り出す。
尻に衝撃――――暗転――
「―――っっっっっはっぁっ!? はっ! はっ! はっ! はっ! はっ! はっ! 」
しかけた所で視界が戻ってきた。
呼吸が徐々に落ち着いてくる。
あーー、呼吸するの忘れてた?
身体を起こしつつ、異常がないか確かめる……よし異常なし。
うわぁ、自分が思ってたより緊張していた? 呼吸忘れるなんて始めてた。
別にスライムを殺した(?)事に何ら感じる事はないけど、初めての戦闘に達成感に似たような何かを感じている。
ただ若干口の中に残るのは、ダメージを受ける事で感じた痛みによる死に対する苦み。
自分では冷静に対処していたようで、出来てなかった事が悔やまれる。
慣れるしかないな。先に進もう。
歩き出した僕の前に再びスライムが現れたのは約10分後、奥に二叉に別れる道の手前で発見した。
ノンアクティブだろうとわかってはいるが、もしものためにゆっくりと近づき、音を立てるなりして確かめる。
やはり動く以外に何の行動もしてこない。
深呼吸を何度かして再びの戦闘へ突入した。
今度は呼吸を忘れずに、釘バットを振り下ろすと同時に息を吐き出す。
鈍い手応え。すぐに一歩下がると同時に息を吸い込み、吐き出しながらの振り下ろし。一歩下がる。スライムからの攻撃、避け――れずに腹に衝撃。10ダメージ。
痛みに歯を食いしばりつつ、息を吐き出しながらの振り下ろし。スライムからの攻撃を避けようと先に右後方に移動――が左脇腹に衝撃。11ダメージ。
ちくしょうっと思いながら、息を吸い込み、今までと違い左足を斜めに踏み込みつつ袈裟懸けに振り下ろす。その一撃がスライムにめり込み、崩れ消滅する。
後には何も残っていなかった。
少し荒れた空気を幾度かの深呼吸で整え、とりあえず今回わかった事を考える。
先制攻撃だからか、1撃目に反撃はないが2撃目の後は1撃の攻撃毎に反撃が来る。たぶん何処に動こうと今の僕の強さでは避けられない。
ATK16で4撃、単純計算でHP64。DEFが幾つあるかわからないので、今はこれで良い。スライムからのダメージは10~12、わかる事は僕のDEFが8あったからATKは20くらい。
数字のバラつきから単純にATK-DEF=ダメージというわけでは無いのだろう。
現在の僕のHPは……そう考えると脳裏に365と浮かんだ。総計43のダメージだったのに計算が合わない。時間で回復してるのか他に何かあるのか。
座って時間で回復するか確かめてみる。
5分程でHPを確認するが365と何も変わっていない。もう少し確かめよう。
更に5分程で確認するが変わらず、先に進もうと立ち上がった俺の前に乳白色のプルプルした物体が地面から湧き出てきた。スライムだ。
一定時間で復活する仕組みなのかな?
まぁ、とりあえず戦闘だ!
4発目の僕の釘バットがスライムに叩き付けられるとスライムはバラバラになり消えた。相変わらず避けることができずにくらったダメージは19と22の総計41。
自分のHPを確かめたら328だった。4回復してる。今まで倒した3体で12回復した計算だから、1体倒すと4回復するようだ。
よしもう一度ここで戦闘しよう。
その場で座って10分ほど待つと、さっきと同じようにスライムが湧き出てきた。
さぁ戦闘だ。
4発目の釘バットの振り下ろしをくらい、スライムがバラバラになると同時。
ピロリロリーン
脳内に効果音のような音が流れる。
もしかしてレベルアップ?
「ステータスオープン」
名前:高田 勝 年齢:21歳 種族:日本人 所持金:0
LV 2(_10)
STR 6 AGI 1 DEX 1
VIT 6 INT 1 MND 1
FP 10
HP 292/500 MP 250/250
ATK 16 MATK 3
DEF 8 MDEF 1
SPD 1 MSPD 1
WEIGHT 15
職業:―
称号:―
信仰:―
アビリティ:【ワープ】
アクティブスキル:―
パッシブスキル:―
状態:―
武器:釘バット
防具:学生ジャージ
他:純銀のピアス
やっぱりレベルアップしていた。あの効果音がレベルアップなのだろう。更にゲームみたいだ。
HPとMPが100ずつ増えている事とレベルアップしてもHPは元に戻らない事が伺える。
ふむ。ここは思い切ってこうしよう。
名前:高田 勝 年齢:21歳 種族:日本人 所持金:0
LV 2(_10)
STR 16 AGI 1 DEX 1
VIT 6 INT 1 MND 1
FP 0
HP 329/500 MP 250/250
ATK 26 MATK 3
DEF 8 MDEF 1
SPD 1 MSPD 1
WEIGHT 25
職業:―
称号:―
信仰:―
アビリティ:【ワープ】
アクティブスキル:―
パッシブスキル:―
状態:―
武器:釘バット
防具:学生ジャージ
他:純銀のピアス
STRに全部振ってみた。WEIGHTが増えすぎ。そして隣に表示された全裸の僕の身体が少し大きくなった気がする。
思い切って【OK】を押す。
「ステータスクローズ」
やっぱり身体が少しゴツくなっている気がする。
さぁ、戦闘して確かめよう。
10分後の戦闘では、スライムを3発で倒し、21のダメージ1発で済んだ。4の回復を含めれば1体で17のダメージ。まだ戦えるが、何か身体が重い。
この場でもう少し戦おう。
1時間少々この場で6体倒し、HPが210になった所で、戻ることにした。
途中で1体のスライムと戦い、赤い光の黒の部屋に入る。
「ワープ!〈マイルーム〉!!」
赤い光から白い光へ、そこから青い光へと変化し、青い光の黒の部屋へと戻ってきた瞬間、脳内に文字が浮かんだ。
『スライム12―――――60 TOTAL60』
チャリーンっと音がして所持金が60増えたのがわかる。
なるほど、こういう仕組みなのか。モンスターのドロップが無いからどうなるのかと思ってたら。
特に買い物の必要は無いと思い、そのままリビングへ。
時刻は14時半くらいか。2時間半くらいいた計算になる。
初めてだからか、凄く疲れた。精神的に。
今日はもうここで終わりにして、ゴロゴロして過ごした。
夜中にもう1話投入予定。
次は3日目だよ。