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長いものに巻かれろ

作者: 人魚の涙
掲載日:2026/03/12

長いものに巻かれない。

自分はそうやって生きてきた。

権力に抗い、運命に逆らい、自分の正義を貫く、否 押し付けるが正しかったのかもしれない。きっとそうだ。



もう雪が溶けようとしているこの季節に、私は卒業する。学校にも、クラスにも、先生にも別に思い入れなんてなかった。友達もそれなりに嫌いじゃないけど、別に寂しいというほどでは。そんなこんなで何にも執着していない私は、卒業を多少環境が変わる程度にしか捉えておらず、みんなの卒業ムードにすこしうんざりしていた。そんなこんなで、卒業の日は私たちにたどり着いた。

朝、いつも通りの時間に起きる。6:50に鳴り響くアラームと、ダイニングから香るトーストの香り。いつも通りだ。歯みがきを済ませ、可愛くもない重い制服に袖を通し、髪を結う。卒業の為に、何か可愛い髪型にするでもなく、いつも通り。家族はどうやら、カメラを充電しているみたい。ハンカチ持って、通知を確認して。あいも変わらず登下校の約束などしていない。なんで、スマホなんか開いたんだろう。家を出ようと荷物を持った時に、イレギュラーに気付く。いつも重たいはずのリュックサックが軽い。そりゃそうだ。卒業式、なのだから。いつも通りの登校と朝のHR。たったの90分だ。思いを込めない卒業式などすぐに終わってしまう。教室に帰って、気付くイレギュラー。

いつも通り過ごすはずだった、LHR(ラスト・ホーム・ルーム)。みんなが泣いている。みんなに含まれる、大多数が私は嫌いだ。長いものに巻かれすべてを諦めた者や、羽ばたこうと頑張るペンギンのフリッパーを踏み潰すような、そんな人間ばっかりだ。でも、自然といい気持ちにはならなかった。だけれど、みんなと同じように寂しくなることもない。


卒業式が終わって「しまう」。いつものリュックが軽い。されたカメラの準備。来ないはずの通知の確認。嫌いなやつらが、友達が、先生が、普段はいないはずの保護者すら泣いているHR。卒業が日常に散りばめた、大なり小なりのイレギュラー。それらに気付いた時に見え隠れする自分の本心。

私はここや誰かに執着心がない(少なくともそのつもりだ)し、つられて泣くこともしたくない。したくないのに。


私の頬に、雨漏りの水がたれた。数少ない、嫌いじゃない人種が、水滴を拭った。そんくらい自分で拭えるけど。優しさで、寂しさに気付いたりなんかしてないけど。「友達との日常」の価値なんか感じたりしていないけれど。

ほんとは、もっと喋っていたかった。登下校誘えば、遊びに誘えばよかった。ずっとずっと、私のいつも通りの中に君たちがいてほしかった、だなんて。柄でもなく思ってしまったんだ。


今だけは、感情という長いものに巻かれて。雨漏りを直さなくてもいいだろうか?

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