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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

「力が欲しいか?」と善意で配っていたら、世界最凶の黒幕にされていた件

作者: 黒い招き猫
掲載日:2026/01/21

俺には、子供の頃から憧れていた人物がいた。

それは、小説や漫画に出てくる「力を与える謎の男」だ。


主人公が絶望の淵に立たされた時、突如として現れ、「力が欲しいか?」と問いかける。

そして圧倒的な力を授け、颯爽と去っていく――なんてカッコいいんだ!


俺も、いつかあんな風に誰かを救いたい。

そう思い続けて三十年。


気づけば独身のまま、趣味は中二病妄想という人生を送っていた。


そんな俺に、突然のチャンスが訪れた。


謎の光に包まれ、気づけば異世界へと転移していたのだ。

しかも、神様から「他者に力を授ける能力」まで授かった。


これは運命だ。

ついに、あの「与える者」になれる!


森を抜けると、ちょうど目の前に魔物に襲われている村があった。


「これだよ、このシチュエーション!」


俺は興奮で震えながら、黒いマントを翻して村へと向かった。


村の広場では、巨大な狼型の魔物が暴れ回っていた。

村人たちは逃げ惑い、一人の少年だけが震えながら鍬を握りしめている。


「く、来るな……!」


完璧だ。

これぞまさに、主人公が力を得る瞬間!


俺は演出にこだわった。

魔物の前に立ちはだかり、黒マントをバサリと広げる。


少年の目が希望の光を宿す――完璧だ!


「少年よ」


俺は低い声で問いかけた。


「力が欲しいか?」


少年は涙目で頷いた。

よし、ここで一気にバフを盛る!


俺は手を少年の額に翳し、持てる力のすべてを注ぎ込んだ。

赤黒いオーラが少年を包み、その瞳が妖しく光る。


うん、演出完璧!カッコいい!


「これで君も村の英雄だ!

正しきことのために、この力を使うんだぞ!」


俺は満足気に背を向け、颯爽とその場を去った。


後ろで魔物が倒される音が聞こえる。

ああ、最高だ。これぞ俺の求めていた生き方!


しかし、俺が去った後――


村人たちは蒼白になって、少年の周りから離れていた。


「見たか……あの黒い男が少年に触れた瞬間……」


「空が、血のような赤に染まって……」


「少年の背後に、巨大な死神の影が見えた……!」


村人の一人が震えながら囁く。


「あれは……禁忌の力だ……」


一方、その頃の少年――


「これが……力……!」


少年、いや、もはや元・少年は、己の内に渦巻く圧倒的なパワーに全能感を覚えていた。


魔物など一撃だった。

拳を握るだけで地面が割れる。


そして、脳裏に甦る黒マントの男の言葉。


『正しきことのために、この力を使うんだぞ』


「正しきこと……そうだ、あのお方は仰っていた!」


少年の目がキラキラと輝く。


「この村を苦しめる重税は、間違っている。

役人たちの横暴な振る舞いも、間違っている。


つまり――既存の法律こそが、正しくないんだ!」


少年は拳を握りしめた。


「あのお方は、力で世界を書き換えろと言っているんだ!

俺が、新しい秩序を作るんだ!」


翌日、王国の徴税官が村を訪れた時、少年は躊躇なく彼らを叩きのめした。


血まみれで倒れる役人たち。

村人たちの悲鳴。


「これで村は救われる!

みんな、俺についてこい!新しい世界を作るんだ!」


少年は村人たちに武器を配り始めた。


恐怖で震える村人たちだったが、少年の狂気じみた力の前に、逆らうことができなかった。


命からがら逃げ延びた役人の一人が、震える声で王都へと報告する。


「謎の黒ずくめの男が現れ、村の少年に禁忌の力を与えました。


少年は『新しい秩序を作る』と叫び、村を武装化しています。


恐らく、反乱軍への加担……

いえ、反乱軍そのものを創設しようとしています……!」


数日後、俺は王都へとやってきた。


「おお、すごい活気だな!」


城下町は人でごった返し、何やら慌ただしい雰囲気だ。


きっと、あの村の少年が魔物を倒して、お祝いのお祭りでもやってるんだろう。

俺の「力の授与」が間接的に役立ったと思うと、胸が熱くなる。


だが、実際には――


「黒ずくめの男だ!」


「反乱の首謀者!」


「包囲しろ!」


俺が城門に近づいた瞬間、騎士団が一斉に俺を取り囲んだ。


「おっ、熱烈な歓迎か?」


俺は微笑んだ。

異世界の人は礼儀正しいなあ。


だが、騎士たちの顔は蒼白で、その瞳には恐怖が浮かんでいた。


「邪悪な笑みを浮かべている……!」


「間違いない、こいつが黒幕だ!」


いや、ちょっと待って。

なんか雰囲気おかしくない?


次の瞬間、騎士たちが一斉に剣を振りかざした。


「討て!」


ガキィン、ガキィン!


俺に向かって剣が振り下ろされるが、神様の加護のおかげでダメージは一切ない。


でも、なんだか騎士たちがすごくピリピリしてる。

緊張しすぎだよ、みんな。


「そんなにいきり立っちゃダメだよ」


俺は優しく微笑み、騎士団全員に手を翳した。


「みんな、もっとリラックスして!」


俺は全力で**「リラックスの力(超高濃度バフ)」**を全員に与えた。


瞬間、騎士たちの体が硬直し――

そのまま全員、幸せそうな笑みを浮かべて、その場に崩れ落ちた。


「よし、これでみんなゆっくり休めるね」


俺が満足そうに頷いていると、城壁の上から絶叫が響く。


「近衛騎士団が……一人残らず……!」


「抵抗もできず、魂を抜かれた抜け殻のように横たわっている……!」


「なんて残酷な魔法なんだ……!

精神破壊魔法マインド・クラッシュで廃人にされた……!」


城壁の兵士たちが、絶望に顔を歪める。


「化け物だ……!

人の心を破壊する悪魔だ……!」


え、ちょっと待って。

みんな気持ちよさそうに寝てるだけなんだけど。


城門が開き、震える王様が現れた。


「な、何が望みだ……!

我が王国に何の恨みが……!」


王様はめっちゃビビっている。

どうやら誤解されているようだが、せっかくなので俺の夢を語ることにした。


俺は胸を張って、遠くを見つめながら言った。


「私はただ、みんなが『力』を持って、自由に生きる世界が見たいだけだよ」


その瞬間、その場にいた全員が絶句した。


「……世界中に力をバラまき、既存の秩序をすべて破壊する気か!」


「国家という概念そのものを否定し、暴力の時代を始めようというのか……!」


王様は絶望に顔を歪め、その場にくずおれた。


翌朝。


昨日は変な目に遭ったなあ。

そう思いながら宿を出ると、遠くから轟音が響いてきた。爆発音だろうか。


「おお、今日も大きな音がするな。

祭りは何日も続くものだもんね」


俺は上機嫌で城下町を歩いた。


すると、見覚えのある姿が目に入る。

あの村の少年だ。


彼は俺を見つけると、駆け寄ってきて深々と頭を下げた。


「あの時は、ありがとうございました!」


少年の目は輝いている。


「僕たちの夢は、もうすぐ叶いそうです!」


「そうか、よかったな」


俺は嬉しくなった。

ああ、英雄とかになりたかったのかな?立派な夢だ。


「でもな、少年」


俺は彼の肩に手を置き、優しく語りかける。


「これからは、自分の進むべき道は自分で決めるんだぞ。

俺が与えた力は、あくまできっかけに過ぎない。


君自身の意志で、未来を切り拓いていくんだ」


少年は感動で目を潤ませ、力強く頷いた。


「はい……!

必ず、世界を変えてみせます!」


「ああ、頑張れよ」


少年は何かを決心したような表情で、仲間たちの元へと駆けていった。


俺は満足げに微笑む。

ああ、いい子だ。きっと素晴らしい英雄になるだろう。


そのまま城下町を歩いていると、路地裏で瓦礫の山に座り込んでいる少女を見つけた。


豪華なドレスは破れ、髪は乱れている。

貴族の娘だろうか。


少女は俺を見上げた。

その瞳には、深い絶望が宿っていた。


これだ。


俺の胸が高鳴る。

国を失い、すべてを失い、復讐に燃える少女。


これこそが、物語の新しい主人公に相応しい絶望の淵だ!


俺は黒マントをドラマチックに翻し、少女の前に膝をついた。


そして、絶望に震える彼女の顎を指先でクイと持ち上げ、

練習通りの低い声で囁く。


「……少女よ。力が、欲しいか?」


少女の瞳が、わずかに揺れた。


背後で王都が燃え上がり、世界の終わりのような光景が広がる中。


俺は次の「物語」が始まる予感に胸を躍らせ、

彼女の額へと手を翳した。


俺の異世界生活は、こうして予想外の方向へと――

いや、理想通りの方向へと転がり始めたのだった。

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