「力が欲しいか?」と善意で配っていたら、世界最凶の黒幕にされていた件
俺には、子供の頃から憧れていた人物がいた。
それは、小説や漫画に出てくる「力を与える謎の男」だ。
主人公が絶望の淵に立たされた時、突如として現れ、「力が欲しいか?」と問いかける。
そして圧倒的な力を授け、颯爽と去っていく――なんてカッコいいんだ!
俺も、いつかあんな風に誰かを救いたい。
そう思い続けて三十年。
気づけば独身のまま、趣味は中二病妄想という人生を送っていた。
そんな俺に、突然のチャンスが訪れた。
謎の光に包まれ、気づけば異世界へと転移していたのだ。
しかも、神様から「他者に力を授ける能力」まで授かった。
これは運命だ。
ついに、あの「与える者」になれる!
森を抜けると、ちょうど目の前に魔物に襲われている村があった。
「これだよ、このシチュエーション!」
俺は興奮で震えながら、黒いマントを翻して村へと向かった。
村の広場では、巨大な狼型の魔物が暴れ回っていた。
村人たちは逃げ惑い、一人の少年だけが震えながら鍬を握りしめている。
「く、来るな……!」
完璧だ。
これぞまさに、主人公が力を得る瞬間!
俺は演出にこだわった。
魔物の前に立ちはだかり、黒マントをバサリと広げる。
少年の目が希望の光を宿す――完璧だ!
「少年よ」
俺は低い声で問いかけた。
「力が欲しいか?」
少年は涙目で頷いた。
よし、ここで一気にバフを盛る!
俺は手を少年の額に翳し、持てる力のすべてを注ぎ込んだ。
赤黒いオーラが少年を包み、その瞳が妖しく光る。
うん、演出完璧!カッコいい!
「これで君も村の英雄だ!
正しきことのために、この力を使うんだぞ!」
俺は満足気に背を向け、颯爽とその場を去った。
後ろで魔物が倒される音が聞こえる。
ああ、最高だ。これぞ俺の求めていた生き方!
しかし、俺が去った後――
村人たちは蒼白になって、少年の周りから離れていた。
「見たか……あの黒い男が少年に触れた瞬間……」
「空が、血のような赤に染まって……」
「少年の背後に、巨大な死神の影が見えた……!」
村人の一人が震えながら囁く。
「あれは……禁忌の力だ……」
一方、その頃の少年――
「これが……力……!」
少年、いや、もはや元・少年は、己の内に渦巻く圧倒的なパワーに全能感を覚えていた。
魔物など一撃だった。
拳を握るだけで地面が割れる。
そして、脳裏に甦る黒マントの男の言葉。
『正しきことのために、この力を使うんだぞ』
「正しきこと……そうだ、あのお方は仰っていた!」
少年の目がキラキラと輝く。
「この村を苦しめる重税は、間違っている。
役人たちの横暴な振る舞いも、間違っている。
つまり――既存の法律こそが、正しくないんだ!」
少年は拳を握りしめた。
「あのお方は、力で世界を書き換えろと言っているんだ!
俺が、新しい秩序を作るんだ!」
翌日、王国の徴税官が村を訪れた時、少年は躊躇なく彼らを叩きのめした。
血まみれで倒れる役人たち。
村人たちの悲鳴。
「これで村は救われる!
みんな、俺についてこい!新しい世界を作るんだ!」
少年は村人たちに武器を配り始めた。
恐怖で震える村人たちだったが、少年の狂気じみた力の前に、逆らうことができなかった。
命からがら逃げ延びた役人の一人が、震える声で王都へと報告する。
「謎の黒ずくめの男が現れ、村の少年に禁忌の力を与えました。
少年は『新しい秩序を作る』と叫び、村を武装化しています。
恐らく、反乱軍への加担……
いえ、反乱軍そのものを創設しようとしています……!」
数日後、俺は王都へとやってきた。
「おお、すごい活気だな!」
城下町は人でごった返し、何やら慌ただしい雰囲気だ。
きっと、あの村の少年が魔物を倒して、お祝いのお祭りでもやってるんだろう。
俺の「力の授与」が間接的に役立ったと思うと、胸が熱くなる。
だが、実際には――
「黒ずくめの男だ!」
「反乱の首謀者!」
「包囲しろ!」
俺が城門に近づいた瞬間、騎士団が一斉に俺を取り囲んだ。
「おっ、熱烈な歓迎か?」
俺は微笑んだ。
異世界の人は礼儀正しいなあ。
だが、騎士たちの顔は蒼白で、その瞳には恐怖が浮かんでいた。
「邪悪な笑みを浮かべている……!」
「間違いない、こいつが黒幕だ!」
いや、ちょっと待って。
なんか雰囲気おかしくない?
次の瞬間、騎士たちが一斉に剣を振りかざした。
「討て!」
ガキィン、ガキィン!
俺に向かって剣が振り下ろされるが、神様の加護のおかげでダメージは一切ない。
でも、なんだか騎士たちがすごくピリピリしてる。
緊張しすぎだよ、みんな。
「そんなにいきり立っちゃダメだよ」
俺は優しく微笑み、騎士団全員に手を翳した。
「みんな、もっとリラックスして!」
俺は全力で**「リラックスの力(超高濃度バフ)」**を全員に与えた。
瞬間、騎士たちの体が硬直し――
そのまま全員、幸せそうな笑みを浮かべて、その場に崩れ落ちた。
「よし、これでみんなゆっくり休めるね」
俺が満足そうに頷いていると、城壁の上から絶叫が響く。
「近衛騎士団が……一人残らず……!」
「抵抗もできず、魂を抜かれた抜け殻のように横たわっている……!」
「なんて残酷な魔法なんだ……!
精神破壊魔法で廃人にされた……!」
城壁の兵士たちが、絶望に顔を歪める。
「化け物だ……!
人の心を破壊する悪魔だ……!」
え、ちょっと待って。
みんな気持ちよさそうに寝てるだけなんだけど。
城門が開き、震える王様が現れた。
「な、何が望みだ……!
我が王国に何の恨みが……!」
王様はめっちゃビビっている。
どうやら誤解されているようだが、せっかくなので俺の夢を語ることにした。
俺は胸を張って、遠くを見つめながら言った。
「私はただ、みんなが『力』を持って、自由に生きる世界が見たいだけだよ」
その瞬間、その場にいた全員が絶句した。
「……世界中に力をバラまき、既存の秩序をすべて破壊する気か!」
「国家という概念そのものを否定し、暴力の時代を始めようというのか……!」
王様は絶望に顔を歪め、その場に頽れた。
翌朝。
昨日は変な目に遭ったなあ。
そう思いながら宿を出ると、遠くから轟音が響いてきた。爆発音だろうか。
「おお、今日も大きな音がするな。
祭りは何日も続くものだもんね」
俺は上機嫌で城下町を歩いた。
すると、見覚えのある姿が目に入る。
あの村の少年だ。
彼は俺を見つけると、駆け寄ってきて深々と頭を下げた。
「あの時は、ありがとうございました!」
少年の目は輝いている。
「僕たちの夢は、もうすぐ叶いそうです!」
「そうか、よかったな」
俺は嬉しくなった。
ああ、英雄とかになりたかったのかな?立派な夢だ。
「でもな、少年」
俺は彼の肩に手を置き、優しく語りかける。
「これからは、自分の進むべき道は自分で決めるんだぞ。
俺が与えた力は、あくまできっかけに過ぎない。
君自身の意志で、未来を切り拓いていくんだ」
少年は感動で目を潤ませ、力強く頷いた。
「はい……!
必ず、世界を変えてみせます!」
「ああ、頑張れよ」
少年は何かを決心したような表情で、仲間たちの元へと駆けていった。
俺は満足げに微笑む。
ああ、いい子だ。きっと素晴らしい英雄になるだろう。
そのまま城下町を歩いていると、路地裏で瓦礫の山に座り込んでいる少女を見つけた。
豪華なドレスは破れ、髪は乱れている。
貴族の娘だろうか。
少女は俺を見上げた。
その瞳には、深い絶望が宿っていた。
これだ。
俺の胸が高鳴る。
国を失い、すべてを失い、復讐に燃える少女。
これこそが、物語の新しい主人公に相応しい絶望の淵だ!
俺は黒マントをドラマチックに翻し、少女の前に膝をついた。
そして、絶望に震える彼女の顎を指先でクイと持ち上げ、
練習通りの低い声で囁く。
「……少女よ。力が、欲しいか?」
少女の瞳が、わずかに揺れた。
背後で王都が燃え上がり、世界の終わりのような光景が広がる中。
俺は次の「物語」が始まる予感に胸を躍らせ、
彼女の額へと手を翳した。
俺の異世界生活は、こうして予想外の方向へと――
いや、理想通りの方向へと転がり始めたのだった。




