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永田町へ行ってきます ~いろいろありまして、次の職場は国会議事堂に決まりました~  作者: のらりくらり


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第1章 『地獄への片道切符』

第1話 兄は名(迷)トレーナー


「日も暮れてきたことだし次でラストだ」


やった。これでようやくこの地獄から解放される。

いさおは、グラブを胸の位置で固定すると、最後の球が来るのを待った。


「行くぞ」


うっ……。


球がグラブに収まった瞬間、左手が死んだのを確信した。


あれだけ速くて重けりゃ、そうなるわな。


グラブから抜いた左手に目をやると、案の定、真っ赤に腫れ上がっていた。


「帰るぞ」 


偉そうに。何が「帰るぞ」だ。毎回、ビクビクしながら練習相手になっているこっちの身にもなってみろ。この野球馬鹿。


と言えたらどんなによかったか。


現実は、小脇にグラブを挟んで悠々と原っぱから出て行く兄、新平しんぺいの後姿を見ながら心の中で毒づくのが精一杯だった。

    

「ただいま」


小4から1日も欠かさず3キロのランニングと筋トレで鍛えているだけあって新平は、フットワーク軽く玄関を駆け上がって家の中へ入った。


兄ちゃん凄いな。こっちは喋る元気もねぇよ。


功は、クタクタの体を引きずりながら無言のまま新平のあとに続いた。


「あー。さっぱりした。功、次はお前の番だぞ」


「うん」


新平に続いて風呂に入った功は、ちゃちゃっと頭と体を洗って湯船に浸かった。


揉むのも疲れたし、そろそろ終わろうかな。


少しだけ腫れが引いたのを確認した功は、かけ湯をして風呂を出た。


居間に入ると、母親と姉の由紀子ゆきこが夕食を卓袱台に並べていた。


この日のメニューは、トンカツだった。功は、それほど好物ではなかったが、お肉大好き人間の新平と由紀子は、今にも小躍りを始めそうな勢いで喜んでいた。


眠い……なんか知らんけど凄く眠い……。


夕食が始まってすぐだった。味噌汁を口にしたところで功は、猛烈な睡魔に襲われた。


なんでだろう?兄ちゃんとキャッチボールすると、なぜかいつもこうなるんだよな。


功は、必死に睡魔と戦ったが、脳が送り続ける命令に勝てる人間はいない。


気が付くと瞼は閉じ、首もコクリ、コクリと上下に大きく揺れていた。


「功。どうしたの?ご飯もおかずもまだ残っているじゃない」


ハッ。


母親の声で一瞬、我に返ったが、そこが限界だった。


「ごめんなさい。疲れているからこれ以上は食べられそうにないよ」


「そんなに疲れているの?」


母親は心配そうに言っていたが、こうしている間にも睡魔は追撃の手を緩めない。


「仕方のない子ね。今日はもう休みなさい。その代わり、明日の朝はしっかり食べるのよ。約束できる?」


「はい」


功は、ゆっくりその場を離れて部屋に戻った。そして、部屋に戻ると最後の気力を振り絞って布団を敷いた。


半分、いや、3分の1でもいいから無理してでも食べておくべきだったかな。もし、夜中に目を覚ましたら朝まで腹ペコ地獄だよな。


体を動かしたことで少しだけ眠気が弱まった功は、床の中で早々に夕食を切り上げたことを後悔していた。


しかし、兄ちゃんってなんでいつもあんなに元気なんだろう?プロ野球選手を目指している全国の中学生ってみんなあんな感じなのかな?


<功のこのトンカツ全部いただき>


<お兄ちゃん、ばっかりずるい。私もトンカツ大好きなのに。ねぇ。これ、6キレもあるんだから、半分こしようよ>


<謹んでお断りします>


<なに、それ、ボケたつもり?全然、笑えないんだけど>


<何とでも言え。俺はこれを食って体をデカくしてしないといけないんだよ>


<もう、十分デカいでしょ?>


<あー。美味しい>


<無視しないでよ。ムカつく>


居間を出る際に背後から聞こえてきた新平と由紀子の掛け合いは、横になっている功の脳内を駆け巡っていた。


兄ちゃんみたいにはなりたくないけど、でも、あの、逞しさというか図太さは見習わなきゃ。


この時に得た教訓が、時を越えて役に立つとは知る由もなかった。


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