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第18賞 めぐり逢い 

中山競馬場では有馬記念レースが大盛況のうちに終わり、夜8時頃になっていた。

大井競馬場はその日には、トゥインクルレース(ナイター競馬)が無く、すっかり馬場は暗闇に包まれていた。

その暗くなった観客席に一人佇んでいる女性がいた。

マー君、今年の(大井競馬場)最終レースが明日やるよ。

マー君の仲間(馬)たちが走るから、天国からでもいいから観に来てほしいな・・・。

雪乃の目には、薄っすらと涙がにじんでいた。会いたいよ・・・。


~遡って、今日の15時40分の話である。

有馬記念が全国放送テレビで放映され、大井競馬場の職員達も食い入るように見ていた。

長沼や雪乃らも一緒に見ていたが、雪乃にはハヤブサイチバンが走っている姿が、いるはずもないマーズにダブって見えてしようがなかった。

「マー君、頑張れぇー。」咄嗟にこの言葉が口をついていた。

その声は周りの職員達の大きな歓声にかき消されていたが、隣にいた長沼や吉村は気が付いていた。

まだ、雪乃はマーズのことを引きずっているんだと・・・。

レースは大方の予想通りハヤブサイチバンが優勝し、騎手のペルドがにこやかな顔をして優勝インタビューを受けていた。

マー君じゃなかったんだ。そうだよね。マー君はお空(天国)にいるんだから。

結局、雪乃はマー君の呪縛から離れられないでいた。~


大井競馬場の競走馬が馬場へ入る通行口近くから、コツ・コツ・コツと音が聞こえて来た。

その後に、タンタランタ、タラタラタンタンと響く音や馬のいななきのような声が・・・。

まるで、吉村(師匠)がマーズ(弟子)へ教えた馬ダンスのような。

「マー君、マァークン、そこにいるの?」雪乃は音がする方へ大声で叫んだ。

それと同時に大井競馬場施設内の照明がドミノ倒しの如く次から次へと点いていった。

「誰かいるのですか?」男の声が聞こえた。

「私、長沼厩舎の虎谷です。」

「そこへ行きますから待ってて。」また、同じ男の声が。

暫くすると雪乃の前に現れたのは如雲ペルドだった。

何で騎手界のスーパーヒーローがここ(大井競馬場)にいるの?

それも業務をしていない大井競馬場に・・・・雪乃の頭の中が混乱していた。

「ごめんなさい、(大井競馬場の)馬場には誰もいないと思って。あぁ、自分は如雲と言います。」

「え、えぇ、存じてます。いつもテレビでお姿を拝見してますから。」

「いやぁ、お恥ずかしいなぁ。ところで、先ほど厩舎の方と名乗ってらっしゃいましたが。お仕事中でしたか?」

「い・いいえ。仕事から帰宅する前に急に馬場を観たくなって、・・・気がついたら観客席にいました。」

「あぁ奇遇ですね。私も仕事(有馬記念騎乗)が終わり、なんだか無性に大井競馬場の馬場が見たくなり、見知っている職員の方へ無理を言って入れてもらいました。まさか、施設の照明で全て明るくしてくれるとは思ってもいませんでしたが。あはは。」ペルドは恥ずかしそうに苦笑した。

「失礼ですが如雲さんは、髪の毛の色を変えられたのですね。薄墨色で大変お似合いです。私の親しいマーズに似ていて。」

「これ(髪の毛)は、入院中、昏睡状態から抜け出た時に勝手に色が白髪のように数時間で変色したらしいんです。ストレスによる変色かな?長い間寝てたのにストレスはないか。はっはっは。」

雪乃の心はざわめき始めていた。確か如雲さんが昏睡状態から抜け出たのは、丁度、マー君が殺された時だったはず。『如雲ペルド復活』と新聞に昏睡状態から抜け出た日時まで載っていた。そんなことってあるの?

もっと、如雲さんのことを聞かないと。

「如雲さんは、タップダンスをいつからやられていたのですか。それに、あのダンスの曲はどこでお知りになられたのですか?」

「いやぁ、聞こえてました。恥ずかしいな。ダンスは習ったことがないのですが、退院してから嬉しいことがあると勝手に足が動いてしまうんです。それに、馬のいななきのような声もくちずさんでしまうのです。変でしょ。」

雪乃は、その答えを聞いて、これは、マーズの導きとしか思えなかった。

それとも、あなたがマー君なの?

「君、お名前は虎谷さんでしたっけ。私の髪の色と似ている、その親しい方とは競馬関係の方ですか?」

「マーズ・・・。イダテンヤリオルと言う亡くなった競走馬です。私の厩舎にいた。」

「えっ、イダテンヤリオル!はお宅の厩舎だったんですか。私は直接にはその馬を観てませんが、素晴らしい名馬だったと周りの方々から聞いていました。一度騎乗したかったなぁ。本当に残念です・・・。そのぅ・・・。今日はこれから、祝勝会でスタッフ皆と、銀座で飲むことになってますが・・。」

「すみません。そうとは知らずにお話しをして・・・いて。」

「みんな、飲みたいのが主で、自分が行かなくてもいいかな・・・と。急な話ですが、あなたに会ったことがあると想えて仕方ないのです。出来れば・・でなく。是非、これから、ゆったりお話しをしたい・・・恵比寿駅近くのところに洒落たカフェがあるので、ご一緒に・・・。無理ですよね。」

「マァークン。うん、いいよ。あなたにまた会えて、幸せ!」と、雪乃はペルドへは意味不明な言葉を敢えて言った後に、頷いた。

『うん、再会できたね。嬉しいよ。でも、僕、何時もは、お空(天国)にいてマーズじゃ会えないんだ。でも心配しないで、この人は、僕の分身だからね。大丈夫だよ。』何故かしらマーズの心の声が雪乃へと染み渡っていった。

「ホントにっ、本当にいいの。良かったぁ!」ペルドは、雪乃の意味不明な言葉の返答を知っているか知らずか、只々、喜んでいた。

二人はお互いを見つめ合いながら、観客席から立ち去って行った。

馬場には凛々しい姿のマーズの幻影が現れ二人をそっと見送っていた。

ひひひーん。


「長沼さん、マーズの鳴き声が聴こえませんでしたか?」

「そう言えば、馬の鳴き声がしたなぁ。多分、厩舎にいる他の馬だろう。」

「そうですよね。弟子マーズは天国にいるんじゃ声はここには届かないか。」

ここにもペルドと雪乃を見送った男が二人いた。

「長沼さん、大丈夫ですか。勝手に照明を全部つけちゃって。あっ、誰か来ますよ。」

「吉村君、逃げ馬になるぞ。いいかぁ。走って走りまくるマーズのように。」

施設の照明を全て明るくしたのは、この二人だった。

「不審者ぁー。」警備員二人が大声で叫びこちらへ迫って来る。

二人は韋駄天イダテンの如く走り出した。

「長沼さぁ~ん、どこまで逃げるんですか?」

「そっ、そうだな。(平和島)駅前の町中華まで、逃げろー。その店で(マーズへ)献杯をしよう。」

「がってん。承知の助。」

「君(吉村)は、いつもは言葉を知らないようで・・古い言葉を・・、ハァ、ハァ、きついなぁ。」

「やめろと言われてもぅ。それから、どうした。どうした。今では遅すぎたぁ~♪(歌:激しい恋)」

「君、(西城)秀樹か?、ホントに平成生まれぇ?・・、ハァ、ハァア、しんどぅ。」

二人の横には幻影のマーズも走っていた。優しく見つめながら。ずっと・・・。



~最終レース(物語)終了~



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― 新着の感想 ―
拝読させていただきました。本小説は良い意味で、まず、まーず(マーズ)でやりおる(ヤリオル)だっちゃ。
雪乃(人)とマーズ(馬)→ペルド(人)の恋に引き込まれました。
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