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第二の懺悔:匂いフェチ大神官

 「主よ、懺悔いたします……」

今日も懺悔室にひとり、私は跪き、両手を組んで神に祈ります。


「私は…魔物との戦いで足を負傷し、しばらく入浴できなかった期間がありました。その後、包帯と添え木を外した時に放たれたむわっとした匂いを、近くにいた大神官のノア様に嗅がれたのです。以来、彼はその匂いを『神の祝福』として祈りの対象にするようになってしまいました……」


***

 

──すべての始まりは、足を負傷してしまったことでした。


出先で足を骨折し、しばらくお風呂に入れない生活が続いたある日。ようやっと拠点に帰ってきた私は、怪我を治すために神殿に向かいました。

『聖女の怪我だから』と、大神官のノア様が直々に診てくださることになりました。


ノア様に包帯と添え木を外してもらった瞬間、自分でもびっくりするくらいの、こもった匂いがしました。

刺激臭と言っても良いでしょう。

それが、むわりと空気中に広がりました。

 

「あッ…!?ご、ごめんなさい! ここに帰るまでお風呂に入れなかったもので…!ッすぐ清めますので、ノア様はご退出を!!」


私が慌てて足を隠そうとしたその時、大神官・ノア様は、うっとりと微笑んでこう言いました。


「これは…!なんて生命力に溢れた香り…私にこんなに尊いものをお与えくださるとは…ミア様は、まさに『聖女様』ですね」

「……は、はい?」


その笑顔は、聖職者らしく、穏やかで清らかでした。

……でも、彼の瞳だけは、穏やかさとは相反する何かで燃え滾っているように見えました。


それからでした。

ノア様の様子が、少しずつ変わりはじめたのは。



***


◇エピソード①:ハンカチコレクション


「ミア様。本日も、訓練お疲れ様です」

「え、ノア様!?お疲れ様です!」

 

ノア様は、最近よく訓練場にいらっしゃいます。

最初は、魔王討伐のために訓練に励む私を激励してくださっているのだと思っていました。


「おや、汗をかいていますね!汗をそのままにしておくのは危険です。拭いて差し上げましょう」

「え、そんな…!自分で拭けますから大丈夫です」

「お気になさらず。私が出来ることをしたいのです!さぁ!さぁ!」


彼は、異様に私の汗を拭きたがりました。

大神官様にご自身のハンカチで私の汗を拭かせているなんて、とてもじゃないですが恐ろしかったです。

もしかしたら追加で冷や汗をかいていたかもしれません。

 

後日、せめて大神官様のお役に立とうと、神殿の倉庫を整理していました。

その時、うっかり聖女の魔法が発動し、封印のかかった箱を開けてしまったのです。

箱の中には、同じようなハンカチが20枚以上、丁寧に重ねられて並んでいました。


 

いちばん左端のハンカチを手に取ると、金の糸で刺繍がしてありました。『祝福の香 No.01:○月×日』

刺繍の文字を頭で反芻して、ふと気付いたのです。

 

(あれ?これって、包帯外した日……?)


答え合わせをするように、ハンカチからはツンと酸っぱい独特の匂いがしました。

私はハンカチに何かが包まれていることに気が付きました。

恐る恐る開いてみると、中身は包帯でした。


「ッ…!?」

考えたくありませんが、きっと私の包帯です。

一緒に箱に入っていたハンカチをよく見ると、それぞれにナンバーと日付が書かれていました。


包帯…汗…

それだけで、済めばよいのですが…。

 


◇エピソード②:


神殿の書庫。静寂に包まれたその部屋で、私は古代語で書かれた教典を開いていました。


「ここの解釈は…うーん、やっぱり難しいな……」


眉を寄せて呟いたその時でした。


「……お困りですか、ミア様?」

「ノア様!?いつからそこに!?」


足音がしなかったのでまったく気付きませんでした。

彼は大神官様ですが、泥棒の才能がある気がします。


突然の登場に驚きはしましたが、せっかくの機会なので、私は素直につまずいていた部分を指差しました。


「この章……読み方が難しくて」

「ふむ…それでは、少し後ろから失礼を」

 

(……ん?後ろ…?)

 

ノア様は、宣言通り私の背後に立たれました。

そして、当然の様に私の頭のすぐ上に顔を近づけました。


「………………ああ……」

小さな吐息が、私の耳に届きました。

ふいに、彼の手が机に置かれ、ノア様は私に覆い被さるような格好になりました。


「今日の香は、いつもよりやわらかく、甘く……少し汗の……まじった……くッ…!」


突然、机の上にあった彼の手が、震えました。


「ああッ!いけません。これは、これはただの知識の補助……スーッ。…冷静に……」


(…一体なにと戦っているんですか?)


私が恐る恐る振り向こうとした瞬間、ノアは咄嗟に私の肩に手を置いて静止させました。


「お、おやめくださいミア様!今こちらを向かれると…髪が揺れて…残り香で…!はぅんッ!」

「え、ちょ、ノア様!?ノア様〜!?」


振り向くと、ノア様は目の焦点が合っていませんでした。

息は荒く、指先はかすかに痙攣しておりました。

肩を揺すりますが、うわごとばかり。


「……香り……ミア様の存在の芳香………」


そしてそのまま、はぁはぁ言いながら彼は机に突っ伏しました。

ぷるぷると痙攣しながら、「……ミア様の髪の、根元のあたりが……とても……罪深い……」と言い、涎を垂らしながら魚のようにビクンビクンと震えていました。



***


「主よ…私の罪を赦し、大神官ノア様の心に再び理性をお与えください。彼の祈りが、私の汗や髪の根本ではなく、あなたに向けられますように。できれば……今後は彼の鼻息を感じながら経典に触れることがありませんように…アーメン…」

 

 


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