表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第一の懺悔:ドM騎士団長


 「主よ、懺悔いたします……」

静かな懺悔室の中で、私は両手を組み、そっと瞼を伏せました。


「私は……敵の術にかかった騎士団長を止めるため、

 拘束し、殴り倒し、涙をこぼしながら叱ったのですが……それ以来、彼は『私に縛られ、殴られ、叱られること』に快感を覚えるようになってしまいました……」



***



──でも、あのときは、本当に仕方なかったんです。


魔王軍の1人との戦いの最中、騎士団長のレオンさんが、罠を踏んで催眠ガスにかかり、そのまま敵に操られてしまったのです。


催眠にかかったレオンさんは、私に勢いよく剣を向けました。

「この偽物め…!お前のような者が聖女ミア様を語るとは許せない!」

そう言って、怒鳴りながら切りかかってきたんです。


彼、騎士団長ですよ?

いくら敵に操られているとはいえ、このまま抵抗せずにいたら、私なんて簡単に死んでしまいます。


だから私は咄嗟に、聖女の魔法(鎖)で彼を地面に拘束しました。

何度も彼の名を呼び「正気に戻れ」と叫びましたが、催眠ガスは強力なようで、私は言葉では届かないと察しました。


その時は、仲間は後方で別の敵と戦っており、私とレオンさんの2人しかいない状況でした。

私は『仕方なく』魔力強化のフルスイングパンチを、3発ほど顔面にお見舞いしました。

壊れたテレビを治すのと同じです。

操っている本人が近くにいないのなら、本体に刺激を与えて正気を取り戻させるしかない。

 

私は必死でした。

「戻ってきてくださいレオンさん!!…私、あなたのこと、信じてますからッ!…うッ!!オラァ!!」


半泣きでレオンさんを殴り続けていたら、しばらくすると彼は気を失いました。

私は彼を引きずって仲間と合流し、拠点へと戻りました。

 

その後、目覚めた彼は、私を敵とは認識しませんでした。

でも、彼は…それ以来どこか変わってしまっていました。



***


◇エピソード①:訓練


騎士団の訓練中。

私はたまたま通りがかっただけだったのですが、レオンさんは部下との模擬戦の最中、私が見ていることに気付いた後から、明らかにタイミングをズラして部下に殴られにいっていたのです。


「ふッ…やるな…」

「や、やった!!ご指導ありがとうございます!」


(………ん?……え…?)



そして訓練後、顔にあざを作った彼が私の元にやってきて、こう言ったんです。

 

「ミア様…私は今日、部下に一撃を喰らいました。騎士団長だというのに、本当に情けない。ぜひ…未熟な私をお叱りください……………そうしていただけると大変助かります」

「…は?」


後半にかけてはかなり小声だったので「よく聞き取れなかった」と言ってその場を去りました。



◇エピソード②:魔物戦


任務中、私たちは仲間とともに、突然魔物の群れに囲まれました。

そんな魔物との戦闘中、明らかに回避できた魔物の攻撃を、彼は私の目の前でわざと受けたように見えました。


「ぐッ……!」

「レオンさん!?」

 

私が心配して駆け寄り「なにしてるんですか!?死んじゃいますよ!」と怒鳴った瞬間、彼の口元が、明らかにゆるんだんです。


「ああッ!!……その怒声…!…も、もっと…!」

「ハァ!?!?」


私はぎょっとして聞き返しました。

「……い、今、喜びました……?」

「まさか…!全ては私の注意不足!!ミア様、不出来な私を叱ってください!そう!思い切り!さぁ!さぁ!!」

「ちょ、戦闘中に何言ってるんですか!?馬鹿なんですか!?いいから敵を倒してください!!魔物に囲まれているんですよ!!」

「ッはうぅ…!!!勿論です!魔物を蹴散らしたら踏んでくださいますか!?」

「本当に何を言っているんですか!?」




◇エピソード③:日記


ある日、レオンさんに用があった私は、騎士団の宿舎に出掛けました。

レオンさんの部下から、彼の書斎で待つように言われた私は、一冊の本が落ちていることに気が付きました。


拾って開いてみると、それは日記帳のようでした。

そこには___


『至福の一撃記録』

第一打目:頬右側。直撃。言葉「戻ってきて」→衝撃強

第二打目:顎下。涙声あり。最高

第三打目:鼻先。泣きながら。昇天しかけた


備考:今日のことを永遠に覚えていたい。できれば今後もあの愛の鞭を与えて欲しい。

今後の希望:後ろから抱きしめられたあとに叱責されたい

理想:不意打ちビンタと謝罪のコンボ



(……この人……私に、殴られる理想パターン考えてる……!?)



日記の日付は、あの催眠ガスの日でした。

私は日記を元あった位置に『落とし』ました。


その後、レオンさんの部下を捕まえて

「後日手紙でご連絡するので今日は帰ります」と伝え、可及的速やかに彼の書斎から離れました。




***

 


「主よ…私の罪を赦し、どうか彼を元の素晴らしい人格者に戻してください。でないと…そろそろ本気で気持ち悪いので、つい加減を間違えてしまいそうです…………アーメン………」



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ