現実世界C
あの全裸事件から一か月ほど経った。俺は相変わらずのバイトと大学の生活を送っていたのだが、300万のおかげで今までよりもずっと楽な生活送っていた。結局あのあとも遊んで使い果たしてしまった幹久と要と違い俺は貯金したので、貯金ができ、今まで一杯一杯だった生活に余裕ができたのだ。
「なぁ、ガンちゃん。またゲームセンターに行ってリアルダンジョンしようぜ。ひょっとしたらまた前みたいにお金が手に入るかもしれないんだぜ?」
「だから、前に電車で隣町までいってゲームセンターに入ってプレイしてみたけどダメだったじゃないか。」
そうなのだ。あれ以来味をしめた二人にこうして何度も誘われている俺なのだ。そして確かにあれほど楽にお金が稼げるならと俺も立ち入り禁止になった近くのゲームセンターではなく隣町のゲームセンターまでわざわざ出向いて500円を入れたのだが、あれ以来本当のゲームの世界に入ることはなく、ゲームのできない俺はあっさりと死んでしまいそれ以来行っていない。
「偶然ゲームの世界に入れ無かっただけかもしれないだろ?ね、今度一緒にいってくれたら次はあきらめるから、っていうか、そろそろ普通にプレイしても二人で攻略するのはきついんだってお願いだよぉ。」
「は?お前らまだあのゲームやってたのか?」
発売から二か月もたちプレイヤーの中には難易度の高すぎる設定に嫌気がさして離れて行ったものも多い中、幹久と要はまだ続けているらしい。まぁ、この会話は何度もしてきたので、実際に二人がゲームを続けてきたことは知っているのだが、お約束というものは存在するわけで、俺は毎回この言葉を言いながら、二人からのゲームへの勧誘を断り続けている。
「前にガンちゃんのカードが原因かもしれないって借りてプレイしたこともあるから、ガンちゃんのキャラも武器の切れ味全部20まで上がってるからさ。お願いだって。」
「切れ味20って確かお前ら二人じゃLV2ダンジョンまでしか攻略できないって言ってなかったか?」
以前幹久と要から、どうしてもと言われてカードを貸し出していたのだが、その時もなんの変化もなかったと言っていた。あの時に何度も何度もコンテニューして武器の能力を上げていたらしい。
「流石にLV3ダンジョンは攻略できるようになったぜ。それに、いつも二人ってわけでもないし、野良PTさそって偶然四人組になった時なんてLV5もクリアしちまったぜ。」
「なるほどな。幹久のゲーム熱は解ったが、俺はあの300万だって偶然手に入れたお金で十分生活が楽になったんだ。これ以上は望まないぜ。」
「でもでも、LV5ダンジョンのクリア報酬1000万だよ?二段階までの武器を全部鍛冶屋にしても余るほどの報酬が入る設定になってるんだってさ。LV6をクリアしたらもっと儲かるかもしれないし、さらに第二段階の武器はこれ以上切れ味を上げることができないんだから鍛冶屋代は浮くはずだぜ。」
「はいはい。ゲーム脳ゲーム脳。結局それだけ稼いでも現実の金は増えないんだから意味ないだろ。」
本来から言えば俺の発言はおかしくないはずだ。しかし、そこを何故かゲームの中に入った為に300万円もの大金を手にしていた俺が言ってしまうとあまりにも説得力が無い。そんな互いの空気が伝わったのか、幹久はまだ食い下がろうとはしない。
「だからガンちゃんに来てほしいんだよ。ガンちゃんだったらひょっとしたら成功するかもしれないだろ?今回は俺と要が着替えちゃんと持って行くからさ。」
「解った。だが俺は隣町まで行くのが面倒だからやめておく。」
「じゃあ、近くのゲーセンならいいの?」
「まぁそうだな。ゲームの世界に入る云々というよりもお前らに付き合って一回くらいゲームしてやってもいいぜ。」
高飛車なセリフだが、こんな会話は幼馴染であり、悪友としての互いの信頼があるため、冗談の範囲内だ。幹久もそのあたりはあまり気にしていないらしく、それよりも重要な内容があったため、軽くスルーして自らが持ってきた情報を話しだす。
「サンキューじゃあ、駅前に新しくできたゲームセンターにリアルダンジョンが導入されてるから行こう。」
「なにぃ。いつの間にそんなもんができたんだ。」
「ガンちゃんは原付持ってるのに行動範囲狭すぎだよ。道場と学校とバイト先以外行ってないの?」
「自炊のためにスーパーにも言ってるぞ。」
「結局それ以外行ってないんじゃないか。そんなことでは大学生活が灰色になってしまう。さぁいざ駅前のゲーセンへ。」
ゲームセンターに行ったところで、俺がこの一か月で移動した場所にゲームセンター一回が増えるだけで何にも灰色の生活から抜け出していないような気がしたが、そこはつっこまないでおこう。高校こそ違ったが大学で偶然一緒になったこいつらとは腐れ縁、たまにこうして遊びの誘いにのること自体は悪い気はしない。
「おお、本当にガンちゃんが来たよ。どうやって誘ったんだ?」
「俺の説得スキルをなめるなよ。最後なんてどうか一緒に行かせてくださいと拝み倒される始末だ。」
「幹久、妄想もたいがいにしろよ。リアルダンジョンに本当に入れるかなんてわかんねぇけど、近くにゲーセンができたから一緒に来てって言われたからな。たまにお前らと遊ぶのに理由なんていらないんだけどな。」
「確かにそうだね。今回もしリアルダンジョンの中に入れなくっても楽しんじゃおう。」
「要もなかなか良いこと言うじゃねぇか。」
「ふふん。僕はいつだって正義の味方だからな。」
要は昔から、ヒーローとか勇者なんて言葉が大好きな奴だった。本人は物腰柔らかそうな対応の中に黒い発言をガンガン入れて来るというどちらかというと、影の支配者とか、悪代官的なキャラクターなのだが、それはコンプレックスの裏返しなのかもしれない。
「すまん。さっきの発言はなかったことにしてくれ。」
「うそぉん。そんなこと言わないで、早くリアルダンジョンしようよ。楽しみにしてたんだからさ。僕たちの操作テクニックの上達に驚くんじゃないぞ?」
「俺は相変わらずゲームはできねぇから、アーチャーにでもなって後方支援といきますかな。」
「そうだね。ゲームの中に入れ無かったらそうしてもらうよ。」
幹久はまだゲーム内に入れる云々と俺らに言い募ってきたが、とりあえず、二か月もたって参加人数が減ったらしいリアルダンジョンには順番待ち一回で三人揃って行けることになった。