現実世界B
「幹久、ガンちゃん早く帰ってこないかな?」
「さぁなぁ。ノーコンテニューで低LVダンジョンに籠ると流石に待ち続けてるほかの客に迷惑だと思って次のダンジョンに進めって言ったけど、普通に進めてるじゃん。」
こういったゲームはコックピット内に侵入するのは財布などのスリなどの恐れもあるためにプレイ画面だけが外から見られるようになっている。これでマナー違反の操作者がいた場合は強制的にゲームセンターのスタッフにより排除されるのだが、画面を見ている限りソロで敵を倒すことに時間がかかり過ぎるということを除いては何も悪いことをしていない。
LV3ダンジョンをクリアした時はもろ手を上げて喜んだ二人だったが、LV4ダンジョン攻略に1時間近くかかりしかもクリアしてしまい、LV5ダンジョンに鍛冶屋以外に行かないで挑む様子をみてあきれるのだった。
「そろそろ帰ってくるね。でも、LV3とLV4ではアイテムを回収するようになったから、かなりお金持ちになって帰ってくるよ。」
「くそう。絶対に俺たちの方が先行してガンちゃんの悔しがる顔が見えると思っていたのに、これじゃあ計画がおじゃんだぜ。」
「まぁいいじゃん。これでガンちゃんもゲームが好きになってくれたら、またこのゲームしに来れるんだからさ。」
「なるほど、俺たちはガンちゃんにゲームをはまらせるためにわざと負けたと言えるわけだな。」
「本当に?」
「う・・・リアルでガンちゃんの操作に負けた気がするぜ。奴は体感型ゲームのスペシャリストか?」
そうなのだ、岩倉翼の操作技術は二人が感嘆するような素晴らしいものだった。立体的な世界観というのに重点を置いたゲームの操作はそれほどコマンドが多い訳ではない。しかし、先ほどから踊るようにして戦っている岩倉翼の槍さばきを見るに、通常自分たちが行える攻撃よりもずっと強い攻撃力で、相手の動きに呼吸を合わせるかのように避けまくる動き、自分たちでは決してマネのできない芸当だった。
「いやいや、確実に始めてって感じだったよ。」
「「はぁ・・・」」
自称だけでなく他称でもゲームオタクと言われてそれなりにゲームに関しては自信のあった二人だった。実際、普通の人と比べたら前回二人で潜ったの一回と今回の二回さらに認証カード代のたったの1800円でこれほど操作ができるようになったのはすご腕といってもおかしくないのだが、岩倉翼の体感型ゲームに対する操作スキルのすごさに、今日何度目かの溜息が洩れるのだった。
「なんじゃこりゃぁぁぁ!!」
「帰って来た?」
幹久は翼が入っていたゲーム機から奇声と共にゲームを終えたことに気づく。
「ガンちゃん?終わったの?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、今すぐ出たい気持ちは山々なんだが、悪いが上着を貸してくれないか?」
「は?何をいってるんだ?」
ゲーム機の中で、何やら良くわからないことを叫び出した友人に疑問を浮かべるが、それ以上になにかが起きてしまったらしく、慌てまくりの様子にとにかく落ち着くように話しかける二人だが、上着を貸せの一点張りだった。
「いいから少し隙間を空けるから上着を貸してくれ。」
「嫌だよ。今日は外めっちゃくちゃ寒いんだぜ?」
「それ以上に恐ろしいことになってるんだとにかく貸してくれ。」
「幹久、別に今すぐゲーセンから出るわけでもあるまいし貸してあげなよ。」
「ああ、別に良いけどさ。」
幹久は了承すると、翼は小さく隙間をあけてさっと幹久の上着を取るとゴソゴソと中で音がする。
「悪い。要、お前の上着も貸してくれるか?こっちはすぐに返せると思うけどさ。」
「別にかまわないけど、事情だけでも言ってよ。まさか体感型だったためにゲームに夢中になって服が破れてたとかそんなの?」
「いや、それだったらまだ良いんだが、とにかく後で説明するから今は貸してくれ。」
「ヘイヘイ。」
要は先ほどと同じように隙間から上着を貸すと今度はすぐに翼が出てきた。
「は?おまえひょっとして、破れ過ぎて全裸?」
先ほど幹久が渡した上着を着ているが、それ以外にはぱっと見た感じ何もつけていないように見える。幹久の上着は偶然大きなサイズの物だったためすっぽり隠れてしまっているだけかもしれないが、それにしても先ほどゲームセンターに入った時は履いていたはずのズボンまでないのはおかしい。
「どあほう、ここじゃまずいからトイレに来てくれ、そこで詳しく話す。」
そのあと三人は奇妙な翼に連れられてトイレへと駆け込んだ。
「おいおいどうなってるんだ。ちゃんと一から説明しろよ。」
「まずはこの俺の姿を見てくれ。」
そう言って先ほど借りた幹久の上着を脱いで見せさらに要の上着で隠したものを手にもった。
「ちょま、いつの間にそんな・・・コスプレ?」
「コスプレ言うな。俺だって何でこんな格好になってんのか、わからねぇよ。」
「ガンちゃんに解らないのに俺らがわかるわけないわな。そんで、武器まで用意するとは、それって最後に装備してた貫通の弓だろ?」
「ああ、鍛冶屋で武器に貫通効果をつけれるってなってたんだが意味が分からなかったから、お前らに聞いてからつけようと思ったら、敵が貫通無しではダメージを受けないようになっちまったからな。ってそんなことは良いんだよ。」
「ああ、ついでに言うならLV3クリア後の範囲増大もできればつけておいた方がよかったぞ。」
「マジか、ついつい、いつもの癖で守銭奴主義に走っちまったぜ。」
「いや、幹久今はそんなことどうでもいいよ。なんでガンちゃんがコスプレしてるかの方が大事じゃない。」
「そうだったな。ってか見たまんまゲームのキャラの格好だよな。」
そうなのだ、俺の姿はまさに、先ほどリアルダンジョンの世界にて来ていたランサー&アーチャーの服装にそっくりなのだ。しかも、二人のせいで女性キャラになってしまっているので、やけに露出が多いという物凄く悲しい状況になっている。
「うるせぇ、というかゲーム中からなんかおかしいと思ってたんだ。さっき上着を借りるまでずっとゲーム機の中にいたんだが、わけのわからんペダルやらハンドルやらがあったんだが、ひょっとしてあれでみんな操作してるのか?」
「あ?体感型っていってもアニメや漫画じゃないんだから、ゲームの世界に本当に入るわけじゃないんだから当然だろ?ゴーグルの影響で視界はほとんどゲームの中とはいえ、ペダル踏まなきゃ走らねぇし、ボタン押さなきゃ攻撃しないんだからな。」
「やっぱりか、お前らがどうやって操作してたか教えてくれるか?」
「ん?おまえだってうまく操作してたじゃないか。左のペダルを踏むと歩く、強く踏めば走るが上に黄色いゲージがあってゲージがなくなると走れないわな。右のペダルは、俺のキャラは盾を構えて防御だったがお前ら二人はジャンプだっただろ?ハンドルの右ボタンはアクションコマンドで左はジョブチェンジ、途中からお前が得意だったスライディングはハンドルを押しこんでしゃがむ動作とダッシュを合わせたかなり高等テクニックだとおもうぞ?」
「解ったよ。俺がゲームをしていると思っていた時とお前らがゲームをしていた時の決定的な違いがな。」
「ん?どういうことだ?」
俺は二人に聞いたゲームの操作方法などから、自分の体験したことの差異点をかんがみて、結論を述べる。
「俺はそんなまどろっこしい操作ができるほどゲームはできねぇ。つかさっきの話を聞く限りじゃダッシュジャンプすらできるがどうか怪しいな。」
「おまえ、両足踏み込むだけじゃん。俺だってシールドタックルがそれでできるようになったのは結構大変だったが、お前なんてLV1ダンジョンの最初の方にできるようになったじゃねぇか。」
しかし、普通に考えるとあり得ない話しなので、幹久にも要にも理解してもらえない。というか、俺も整理がついていないので、どこから説明していいのか解らず、とにかく自分に起こったことをこと細かに説明していく。
「ああ、だから違うんだ。俺は体感型ゲームってのは自分の体を動かしてその動きがそのままキャラクターの動きになるんだと思ってたからな。というか、目線もキャラクターと同じだったことも考えると、カバンなどを除いて全部ゲームの中に入っちまってたらしい。」
「バカ言わないでよ。幹久くらいしかそこまでありえない嘘はつかないよ?」
「まてまて、俺だったら言いそうってことかよ?」
「いや、ガンちゃんに無理やりゲームさせる説得をするときそれっぽいこといってなかったっけ?」
「あ?言ったかもしれんがあれはちょっとした冗談で・・・」
実際に言っていた。俺は幹久が冗談で言った言葉を信じてゲームを始めていたため、さらにゲームというものに余りなじみの無い普段の生活の影響もあって、何の疑問も浮かばずに先ほどまでゲームの世界の中にいたらしいことを言葉にする。
「冗談が本当になっちまったらしいぜ。」
「ま、マジか。羨ましい。」
「いやいや、普段から格闘技をやって体を鍛えてたガンちゃんだから本当にゲームの中に入ってもあれだけ動けたんでしょ?僕らみたいなもやしが入ってもむしろダッシュ距離やジャンプ力が下がって今より弱くなるんじゃない?」
「要、それを言わないでくれ、本当にゲームの世界に入れるんだったら俺だって今から体鍛えるっつの。」
二人とも俺がゲームの世界に入ったことに関してはようやく理解をしめしてくれるようになってきた。己の身に起こったことなのだから、要や幹久にも起こるかもしれないとかなり真剣な表情で諭す。
「鍛えてみたら?現にこうして俺がゲームの中にはいっちまったんだからさ。」
「いやいや、どう考えても特殊な状況だから。」
「しっかし、そうなるとリアルダンジョンって本当にリアルなダンジョンだったんだろ?どんな感じだったんだ?」
「結構えぐかったぞ。格闘技してて血は見慣れてるとはいえ、モンスターはきもかったからな。まぁそんなことに気づいたのは本当にゲームの世界に入っていたかもしれないって気づいたゲーム終了後だけどな。」
「まぁそりゃそうだ。それよりもこの衣装すげーな。ってモノホンの鎧じゃねぇのか?」
「本当だね。女性キャラだから露出度は高いけど、このショルダーパットとか鉄でてきてるじゃん。結構重いんじゃない?」
「ああ、俺みたいに鍛えてる人間じゃなきゃ結構きついだろうな。ってかあんまジロジロみるなよ気色悪い。」
実際に肩を覆う鉄の武具であったり、それ以外にもかなり重たい防具なんかが着けられているが、要が言ったとおり、他のキャラと比べて露出が多いキャラだったため、それほど重たいということもなく、それ以上に二人の観察するような視線の方が痛々しい。
「俺たちだってお前の体になんて興味ねぇよ。しっかしすげえな。ん?これってゲーム内のカバンだろ?中身何が入ってるんだ?」
「ホントだ。」
翼はカバンの中身を確認しようと開くと、そこには札束が大量に入っていた。
「おま、これってゲーム内の金なんじゃね?おまえいくらくらいもってたんよ?」
「確か鍛冶屋で鍛えた時にずいぶん少なくなっちまったから、300万くらいにはなってたはずだけど、ゲーム内じゃはしたがねでもリアル世界じゃこれってかなりの高額だよな?」
「あほか、高額なんて次元じゃねえだろ。お前のバイト代の何倍って話だろ。」
「月10万から15万だぜ。最大の15と考えても20倍だな。」
「そんなに稼いでるのに貧乏人だったのか、難儀だな。」
貧乏貧乏うるさい。たしかに俺は貧乏さ。それだけ稼いでも、親からの仕送りなんて全くない俺は生活費等を差し引くと遊びに使える金はほとんどない。
「うるせぇ、これでも毎月1万くらいは貯金できてるんだぜ。」
「よかったな。これで生活が楽になるじゃないか。」
「それはないだろ。幹久ももう少し考えて発言してよ。ガンちゃんが持っているお金はあくまでゲーム内の金なんだから、モノホンなわけないじゃん?」
「そうだよな。これがモノホンだったらなぁ・・・」
翼たちはそうしてそのお金について話していたが、一時間以上もゲームをしていた翼は用をたしたくなってしまった。といっても本物の鎧などつけたことがなかった翼はとりあえずやけに露出の高い鎧の腰の部分を緩めなんとか事なきを得ようと試みたのだが、腰のフォックを外したとたん閃光と共に腰どころか全てが消えてしまい、弓も防具も無くなってしまった。
「ちっさ・・・」
「うるせい。って小さい?そんなはずは・・・」
三人は一緒に銭湯など風呂も入ったこともある仲なので今さら恥ずかしがる必要はないのだが、トイレという公共の場で全裸になってしまった羞恥心から前を隠す翼だった。
と、そこに。
「き、君たち何をしてるんだ!」
「「「え?」」」
悪いことというのは突然訪れるもので、全裸の翼、要の手には先ほど預かった300万もの大金、翼の体をしげしげと見つめる幹久となってはどう言い逃れすることもできない。
すぐにその客がゲームセンターのスタッフの人を呼びに行き。ギリギリだった翼は用をたしている間にスタッフの人たちに御用となり、何をしていたのか詳しく事情を説明するように言われるも、本当のことなど言えるはずもない三人はただひたすら謝り、今後一切のゲームセンターの立ち入りを禁止されて釈放となったのだった。
「いやぁ全科つかなくて良かったな。」
「やけに仲がいい友人が実は男娼だったなんて洒落にならんぜ。」
「ありえねぇっつの。あんな解らずやのスタッフがいるゲーセンなんて二度と行かねえっつの。」
俺と幹久はさきほど俺たちのことを拘束し、嫌味タラタラに説教なんてしてきたゲームセンターの店員の悪口を言いまくる。
「あのなぁ、ガンちゃんも幹久も明らかに悪いのは俺たちだろ?ゲーセンの店員は状況をみたらそう判断するしかなかったんじゃね?」
「それよりさ。この金どうするよ?」
あのお金を店員に調べられたら偽札使用で訴えられると思っていた三人だったが、そんなことにはならず、両替機もきちんと通るれっきとしたお金だとわかった三人だったが300万のうちの一割をよこせと幹久と要に分捕られてしまった。
「まずは服を買いに行かなきゃな。」
「いいじゃねぇかスウェットで、せっかく俺が買ってきてやったんだからさ。」
全裸で帰ることはできなかったので、ゲームセンターの隣にあった服屋でスウェットを幹久が買ってきた。しかし、パンツとスウェットだけではこの寒空の中歩くのは困難だと言って結局まず服を見に行き。300万もあるのでそれぞれ適当な服を新しく購入してそのあとは三人で近くのステーキハウスへと向かった。普段は外食などお金の無駄と行かない翼も今日ばかりはと美味しいステーキにご機嫌となるのだった。