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勇者と妖精α

ピーピーピピピピッピ!


「認証番号一致、リアルダンジョンにようこそ。あなたの名前はガンちゃんさんですね?今からリアルダンジョン始まり都市、セイラへ転送いたします。」


以前も聞いたナレーションを聞いて今回も始まるのかと思いきや、なんだかあたりが暗くなり、いきなり変な小さな虫が襲ってきた。


「俺様をいきなり襲おうとはふてぇ虫だ。」


「ちょ、ちょっとまつぴ。うちは敵じゃないぴ。」


「お?話せるのか?中々面白い虫じゃねぇか。敵じゃないんだったらなんだっつうんだよ?」


そういえば、虫は光に寄ってくるなんて言うが、真っ暗な世界にほんわかこの虫の周りだけ明るい気がする。羽はトンボとかそんなのに良く似ているが、虫の体があるはずの部分は人間を手のひらよりさらに小さくしたようなこじんまりとした人型が見える。


「あなた本当に伝説の勇者っぴ?こんなに可愛い顔してるのに言葉づかいも男っぽいぴ。」


「ギャーギャーピーピーうるせえな。一体お前はなんなんだよ?」


「うちは妖精のピルルだっぴ。勇者様の案内をするのが仕事っぴ」


自称妖精のピルルは、小さな体のさらに小さな胸を張ると、どうだ、すごいかとばかりに俺に自己紹介をした。


「ほう、俺がリアルダンジョンをしてない間に新しい機能でも着いたのか?」


「本当に勇者様にしかうちは見えないっぴ。こうして会話をしているということはあなたが勇者様だっぴ。」


「はいはい。それで俺は何をしたらいいんだ?」


「LV3以上のボスを退治して欲しいっぴ。最近プレイヤーが減ってボスの力の方が強くなってモンスターがあふれ出して今このセイラ国は大変なことになってるっぴ。」


「ああ?LV3とLV4のボスなら俺が前に退治したじゃないか。」


「勇者様が一か月も来なかったから代わりのボスが立ちあがったっぴ。といっても前のボスの弟だから見た目は同じだっぴ。」


最近のゲームはすごいな、ログイン履歴とかを自動的に読み取り、俺がここ1カ月の間全然ゲームをしていなかったことをこの自称妖精は知っているらしい。しかし、そうなると不思議な箇所がある。なんと言っても、ゲームの中に入るような感覚があり、暴れまわった最初の1回は1カ月前だが、その後も幹久と要により何度かゲームに入っていたはずなのだ。


「一カ月も来なかったって言われても前に来た時はゲームの中に入れ無かったぞ?」


「そんなの当然だっぴ。たとえ勇者様が不死身とは言え回復に一週間は体を休める必要があるっぴ。そんなことよりも、最低でも今回はLV3のボスを倒してくれないと一週間後にはモンスターの数があふれて現実世界へと出て行くことになるっぴ。」


「ちょっとまて、そいつはマジか?」


自分のことを勇者とか呼んでいることとか、妖精のことなんかを完全に信じることはまだできなかったが、会話の中に俺にとって問題のある発言が含まれていたため、俺は聞き返す。


「嘘をついても仕方がないっぴ。勇者様がこちらの世界に来れるのと同じようにモンスターもあちらの世界に行けるようになるっぴ。もう少し勇者様が来るのが遅かったら本当にあぶなかったっぴ。」


「残念ながら俺は来週末から二週間ほど道場の合宿に行くからその間もリアルダンジョンができないぜ?」


「えええ?そんな合宿なんてほっておいてリアルダンジョンの世界に来てもらわないとこまるっぴ。」


「ふざけるんじゃねぇ。今までお金がなくって行けなかった合宿に前回の300万のおかげで初めて参加できるんだぞ?絶対に俺は行くからな。」


自称妖精は俺個人の問題など問題ないと切り捨てて来たが、幼少期から牛乳配達、新聞配達、チラシ配り、バイトができる年になったらそれにバイトもというかなり忙しい毎日を過ごしてきた。唯一お金稼ぎではない行動としてやってきた格闘技、それも合宿や大会などといったお金も時間もかかる行事には参加することができなかったが、それでも俺の大切な時を過ごした場所を否定されるのは嫌な気がした。


「だったら、最低でもLV6のボスくらいまでは倒してもらわないと困るっぴ。さっきも言ったようにプレイヤーの数が減ってモンスターがあふれ出したから繁殖をしているボスモンスターを最低でも半分まで削ってもらわないとこのままではこの世界からあふれだすっぴ。」


「解ったぜ。今回は一応中に入っちまったことも考慮して時間はたっぷりあるから、安全策をとりながら確実にLV6のボスまではぶったおしてやるよ。」


「LV6が最低ラインであってそれ以上倒せるならその方がいいっぴよ。」


「解った解った。出来る限り多くのボスを攻略してやるよ。他に何か注意事項とかあるか?」


「そうっぴね。ここでしかうちとは話せないからできるだけ多くの情報をつたえておくっぴ。まず、この世界で起こったことは全部現実っぴ。だから不死身の勇者様が死ぬことはないとはいえ、いろいろと現実世界に影響があるからそこだけは気をつけるっぴ。」


以前リアルダンジョンを終えた時に弓やら防具やらを装備したままだった理由が解り、すこし納得する。そう言えば、ここ一カ月くらい体の調子がすこぶる良かった気がする。金銭的な余裕ができたためにバイトを減らしたのでそれが理由かと思っていたのだが、どうやらそれも関係するかもしれない。


「前回でそいつは経験済みだっつうの。あんな鎧の姿で出てきて大変だったぜ。」


「そうだったっぴね。じゃあ、鎧や防具を脱ぐときは気をつけるっぴ。リアルダンジョン世界での装備がなくならないように脱いだり手放したりした途端にエフェクトと一緒にこっちの世界に転送されるっぴ。」


「ほう。そいつは良いことを聞いたな。ひとつ質問を良いか?何故それらの大切な連絡事項を前回は教えてもらえなかったんだ?」


そう、もしこれらの情報を俺が一番初めにリアルダンジョンに入った時に、知っていれば、1週間に一度リアルダンジョンに来ることもできたし、それ以外の準備だってできていたはずだ。自称妖精はそんな俺の眼差しにドキリとしたのか、一瞬羽の動きが止まり、自然落下しそうになるが、パタパタと体よりも随分大きくて透明な綺麗な羽を動かすと説明を始める。


「そ、それは全国にちらばる転送機をピルルが管理するには無理だったから、前回このあたりで転送されたのに気付きこのあたりの転送機にしぼって見張っていたっぴ。」


「なるほどな。確かに全国各地にちらばったリアルダンジョンのゲーム機を管理しきれるわけないよな。俺はまたピルルが居眠りでもしていて見過ごしたのかとおもったぜ。」


「ギクっぴ。」


また羽の動きが止まったが、今度はすぐに回復して俺の顔の前あたりで誤魔化そうか、それともきちんと謝った方がいいのかといった不安と悲しみに満ちた顔になる。


「ほう。心あたりがなきにしもあらずってか?ということは今回俺がボスの撃破に失敗しても前回ピルルが説明をしなかったためということで俺の罪悪感は薄くなるな。」


「それはこまるっぴ。女神様に怒られるっぴぃぃ。」


ピルルが泣き出しそうになったので俺はからかうのはやめにしてあげた。確かに初めてリアルダンジョンに入った時に教えてもらえたらもっと楽になっていたとは思うが、それでも表情を見るにあまり器用な性格じゃなさそうなピルルのことだ、リアルダンジョンができてから全国各地の機会を見守っていたとしたら、一か月くらい飛びまわっていて疲れ果てていたところに俺がゲームに入ったのかもしれないし、モンスターの増加に焦りを感じて自分が前回俺とコンタクトを取れなかったためじゃないかと一番気に病んでいそうだ。


「そんな泣きそうな顔すんなよ。俺は不死身の勇者様なんだろ?きちんとボスを退治してやっから安心しろよ。それに俺だけじゃなくって頼りになる仲間もいるしな。」


俺はピルルを安心させるように二コリとほほ笑むと、安心させるようにそう発言する。


「あ、仲間の人のことを忘れていたっぴ。勇者様があまりにも遅いし声の応答もないからって出発しそうになってるっぴ。」


どうやら天然頑張りやさんキャラっぽいピルルに俺は叱りの一言を返すのは忘れなかったが、それでも先ほどと同じ笑顔で必要なことだけ伝える。


「どあほう。そう言うことは早く言え。今回は絶対LV6以上のボス倒して三週間後絶対に来てやるからその時は続きを話してくれよ。」


どうやら天然頑張りやさんキャラっぽいピルルに俺は叱りの一言を返すのは忘れなかったが、それでも先ほどと同じ笑顔で必要なことだけ伝える。


「わかったっぴ。それでは良いダイブをっぴぃ。」


「おう。」


俺は真っ暗な中でのピルルとかいう自称妖精との会話を打ち切ると始まりの都市セイラへと降り立った。


「幹久・要待たせたな。」


「おっせえぞ。お前声も反応が無かったらトイレにでも行ったのかと思って出発しそうになったぜ。」


「悪い悪い。俺がなんでゲームの中に入れるのかが解ったから許してくれよ。」


「は?ってことは、今回はゲームの中なのか?」


「おう。そんなわけで今回はLV6以上を目標にするんでよろしく。」


「おう。お前が本気出せばあんな雑魚武器でLV5まで行っちまうんだLV6なんて余裕だろう。」


「そうだ、武器の確認をしないとな。確か切れ味を全部20までしてくれたんだったよな?」


「あ・・・」


「幹久。その反応はなんだよ。まさか・・・」


俺は武器を確認して唖然とした。切れ味20どころか、お金はすべてなくなっており、切れ味も前回よりもあがっているが全部11で止まっていた。範囲増加と貫通の追加効果は何故かつけてもらってあったが、これでは以前とさほど変わりがない。


「みぃきぃひぃさぁ。」


「いや、だって本当にゲームの中に入れるとは思ってなかったからさ。」


「確かに俺もそう思っていたが、っていうことは悔しがる顔を見たくってわざと上げなかったな?」


「えへへ。ごめんよガンタン。」


「男がぶりっこしてもキモイだけじゃい。まぁいいや。とりあえず、今回は是が非でもLV6をまでのボスを全部倒さないといけないからそこんとこよろしく。」


「がんちゃんだったらLV2で野兎捕まえてきたらLV3とか飛ばしちゃってもいいんじゃない?」


「切れ味のことだけじゃなく、ちょっとした事情があってな。そういや野兎必要なんだったら。とりあえずLV2ダンジョンを攻略しながら説明すっから、お前ら二人とも準備できてるな?」


「いや、準備ができてないのはガンちゃんだけだからさ。」


要の意見もごもっともで、二人は俺を待ってる間セイラを観光していたみたいで消耗品などをきっちり揃えてあるらしい。


「俺はLV2程度ならマジックランスさえあれば問題ないからいいんだよ。ましてや切れ味がついてんだから余裕でしょ。」


「確かにそうだね。じゃあサクッと三人分の野兎を狩りに行こうか。」


「了解。」


俺たちはそのあと三回LV2ダンジョンを攻略したが、武器の切れ味が高くなっている俺たちにとって無人の野を行くがごとしで、20分ほどで三回も攻略してしまった。


「やっぱ本気のガンちゃんがいると余裕だね。これなら野兎二匹でも良かったんじゃない?」


「さっきも説明しただろ?今回の戦いは負けられないんだから、用心しておくにこしたことはないんだよ。」


LV2ダンジョンを攻略している間、普段あまり他ごとをしながら話をすることが苦手な俺でも余裕があったため、先ほどまでの不思議な現象とピルルを含めた俺とこのリアルダンジョンの関係を話した。突然の勇者発言には笑っていた二人だったが、俺が合宿を楽しみにしていたことは二人も聞いていたため、協力してくれることになった。


「確かにガンちゃんが言うことももっともだよ。まぁ三回も行ったおかげで資金も十分だし、薬草以外にも状態異常の解毒薬も充分にそろったからLV3へと行きますかね。」


そう言って俺たちは街からLV3ダンジョンへと進んだ。


「薬草に関してはLV5くらいまでは消費よりも獲得の方が増えそうだな。」


「そうあってもらわないと俺が困るって、俺の合宿がかかってるんだからな。」


「さっきの話だとピルルとかいう妖精に責任を押し付けて合宿にいっちゃうんじゃなかったの?」


「どあほう。そんなことできるかっつの。LV6までクリアできなかったら流石に俺も合宿キャンセルしてでももう一回ダイブしに来るからな。そん時はお前らも道連れだからな。」


「はいはい。ガンちゃんの頼みだったら30万で手をうってあげるよ。」


「金取るのかよ。」


先ほどから勇者云々のせいでどちらかというとボケ担当になっていた俺だが、基本的にボケ役は幹久だ。ゲーム内では味方に攻撃しても意味が無いので言葉だけだが、肉体があったら、鍛えられた腕で小気味の良い音で突っ込みを入れていただろう。


「良いじゃんどうせ今回もゲーム内のお金が現実の世界にやってくるんでしょ?」


「まぁたぶんそうだとはおもうけどな。鍛冶屋で余った金はできるだけ俺の手元に置くようにするか?」


「いや、100万もあれば十分だからそれはいいよ。それよりも前に俺たちがカード借りてダイブした時はお金が一銭も無くなってて大変だったからな。ある程度俺たちが持っていることによってお前が次にダイブした時に俺たちが物資を供給できるようにしておこう。」


俺の武器が鍛冶屋で切れ味が上がっていなかったのにはそういう理由もあったのか、悪友とはいえ、幼馴染を疑ってしまった俺は少し反省をする。


「そうだったのか。鍛冶屋で全然鍛えられなかったのはお金のこともあったんだな。俺、お前のこと疑ってごめん。」


「良いってことよ。それでもそこまでしか切れ味をあげれなかったのは俺たちの責任でもあるんだからな。」


「ガンちゃん。幹久にだまされちゃダメだよ。余ったお金を薬草に変えて僕に渡してあとで、二人で山分けしたんだから。」


「みぃきぃひぃさぁぁぁ!!」


先ほどの俺の感情を返せ、幹久の悪戯は今に始まったことではなく、こういった小さなものから大きなものまで昔から何度もだまされ続けてきた俺は幹久に恨みのこもった低めの声を出す。


「ちょま、要も共犯だろ?なんで俺だけ怒るんだよ。」


「どうせ首謀者はお前だろうが!!」


「ミッキーネズミさんばれてますよ。」


「そうですなカナメンさん。」


お互いに気心がしれているので、こういった会話は日常茶飯事だ。ゲーム内の名前を使って冗談に変換して、ゲームが終わるまでに俺の怒りが冷めるのを待つ作戦なのだろう。


「うっせぇ。それよりもうすぐボスだからベルトにちゃんと薬草セットしとけよ。」


「ガンちゃんと違ってLV3はもう既に何度もクリアしてるんだから、心配しなくていいよ。っていってもしゃべりながら悠々とクリアできたのはガンちゃんがいて初めてできたことだけどね。結構ギリギリだったはずなのに嘘みたいだよ。」


「お前らデスぺナ込みで44の切れ味とか明らかに狙ったとしか思えないほど好条件からのスタートなんだから当然だろ。」


「ガンちゃんもついにゲームのことが分かるようになってきたんだね。デスぺナの関係でこれ以上無いってくらいの切れ味なんだよ。」


「わからあな。50以上からはデスぺナが異常すぎるから次の攻略のためにわざとデスぺナが5の49で止めたんだろ?今回は悪いがそんな悠長なこと言ってねぇでガンガン切れ味上げてくれよ。前人未到のLV6ダンジョンまで攻略する予定なんだからな。」


「前人未到って、一応LV7までの攻略はされてるらしいよ。とはいえ、ガンちゃんならLV8までもこのまま行っちゃうとか言いそうだから前人未到のダンジョンに行くって言葉も間違いじゃなさそうだけどね。」


LV3のボスも前と同じ感じだったのだが、LV2ダンジョンを3度も攻略した時に切れ味を上げたこと、残りの二人の火力が圧倒的に上がっていることもあってサクッと倒すことができた。


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