メッセージ その二
短い小説
事務所で、探偵はコーヒーを飲んでいる。
コーヒーは、自分で淹れた。もちろん、インスタントコーヒーだ。
コーヒーにミルクを入れるなんてことは、何かと無精な探偵の出来ることの範囲を超えたことがら。
ただ、甘党の探偵はスプーンに大盛り二杯の砂糖を入れた。探偵は、甘党なのだ。
コーヒーをまずひとすずり探偵は味わった。
濃いめのコーヒーの苦さを超えて、伝わってくる砂糖の甘さの満足感が探偵をみたす。
探偵は、スマホをいじり始めた。やがて、探偵は、一つのメッセージに目をとめた。
このメッセージは、探偵の注意をひいた。それには理由があった。というのもメッセージの送り主は、このメッセージの送り主は、最近、探偵にメッセージを送ってくるようになっていた。そして、このメッセージの送り主は、探偵の家族ではなかった。このメッセージの送り主は、探偵の友人でもなかった。探偵は、そのメッセージに目をとめたのだが、そのメッセージを開くことはなかった。
ちょうどそんな時、一人の探偵事務所の同僚が、探偵のスマホをのぞき込んできた。そして、探偵が目にとめていたメッセージを同僚も目にとめた。
「高橋さん、高橋さんのところにもあいつからメッセージが送ってきているみたいだね。あいつは、どうやってうちの事務所の探偵の連絡先を調べているのだろう。ほんとうに気味の悪いやつだよね。高橋さんのところにはあいつからなんて言ってきた?」
高橋探偵の同僚は、かなり図々しいやつだ。高橋探偵のスマホを取り上げると、問題のメッセージを勝手に開いてしまった。
高橋探偵の同僚は、問題のスマホのメッセージを読み終えると、今度は事務所にいる全員に向かって、大きな声で語りかけた。
「盗人猛々しいとは、こいつのことだろう。このメッセージで俺たちのことを脅しているつもりなのかね。自分のやらかしたことは、完全に棚に上げて、俺たち探偵のせいで、まっとうな人生をおくれなくなったとか、自分の家庭が壊れてしまったとか、俺たち探偵のせいにしてくるのは、ほんとうに迷惑だ」
こんなトラブルは、探偵稼業の人生において、珍しいことではない。しかも、たいていの場合には、このようなメッセージが何かの事件につながるというわけではない。たいていは、時間が解決し、頻繁に送られてくるメッセージも、やがては、送られてこなくなる。メッセージの送り主にも彼らなりの生活がある。自分の恨みに、いつまでもこだわっていても、自分の得にはならないと分かってくるのだ。
高橋探偵の同僚が、事務所の探偵たちに語っているところに、一人の探偵が事務所に飛び込んできた。
飛び込んできた探偵は、事務所の応接間にあるテレビを付けた。
どこかで、事件が起きたらしい。テレビでは、その事件を中継放送している。
「近くで、人質事件が起こっている」
テレビでは、出刃包丁のようなものを人質事件の犯人が持ち、人質は、犯人の手の中にあった。
人質事件の犯人は、中継放送しているテレビカメラの位置を知っているのだろう。テレビカメラの方をにらみつける犯人の顔が、ずっとテレビに映し出されていた。
そして、すぐにこの探偵事務所のスタッフの全員はすぐに悟った。そう、テレビのこの人質事件の犯人こそが、少しやつれてはいるが、しばらく前事務所が取り扱っかっていた横領事件の犯人で、この頃、探偵事務所関係者に、不穏なメッセージを送って来ていた主であると。
了