その才能
◇◇◇玲奈がゆく◇◇◇
玲奈は、安西先輩に惹かれていた。
今はまだ、同じ部活にいられるだけで嬉しかった。
でも、外野がうるさくなってきた。
安西先輩の彼女のお友達が、目を光らせている。
安西先輩への想いは抑えられても、
外野からの言動が、玲奈を動揺させる。
そんな時、春斗がこう言ってきた。
「最近、玲奈らしくないね!
なんか悩みとかあるんじゃないの?」
春斗には気づかれているような気がする。
「人目とか気にしたりしてない?
誰が何と言おうと突っ走って行くのが、玲奈なのに」
全くその通りだわ。
春斗の言葉で、玲奈はゴム矢の練習に集中できた。
「凄いな!短期間で形良くなってきたよ!
才能あるよ」
安西先輩に褒められた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
しばらく怒号の応酬は続いたが、だんだん声は小さくなっていき、ついには静かになった。
今度は、ふたりのオイオイ泣く声と鼻をすする音が聞こえてくる。
30分位経った頃、お姉さんとお姉さんのお母さんが部屋を出てきた。
お姉さんのお母さんが、
「大変ご迷惑おかけしました」
と言って、深々と頭を下げた。
そして、お姉さんを連れて出かけて行った。
お姉さんの左頬は、赤くなり指の跡すら付いていた。
残された私達は、言葉も出ない。
食事も進まない。
すると、義父が口を開いた。
「元妻は、学生の頃テニスをやっていて、全国大会でもベスト8には必ず入っているような選手だったんだよ。
摩耶も9歳位まではテニスをやらされていたんだよ。
母親がキツいから、嫌々やっていたよ。
そしたら、小学校のクラブ活動でバドミントンクラブができた。
摩耶はクラブに入り、どんどん上手くなっていった。
本人もバドミントンをやりたいと言い出した。
母親も、摩耶のその才能に気づいて、折れたんだよ。
テニスとバドミントンは手首の使い方が全く違って、初めのうちは苦労してたけど、そのうちあっという間に上手くなって、中1で全国大会に行き始めたよ。
それからずっと、全国大会常連になったんだよ」
知らなかった。
お姉さんって、そんなに凄い人だったの?